Thursday, March 24, 2011

おいしい話 NO.9「えびすさん探し」

ダウンタウンのホテルで働いているハビーは よく他州からやってくるゲスト達にポートランドでお勧めのレストランはどこかと聞かれる。ゲストの好むジャンルによって勧めるレストランは違ってくるけれども ほとんどが希望するのはホテルから徒歩の距離でいける範囲なもので、対外 決まった場所に自然となってくる。ハビーとしては ダウンタウン内だけでなく、NESEにもおいしいくて個性的なレストランは いっぱいあるのだから そういう所にも足を延ばして楽しんでもらいたい、という気持ち大なのだが、「この周辺で」というのを強調されると 対象する店が限られてくるので 面白くない。「もっと冒険心を持ってほしいね」と文句をつける。
そんな中、二人でサンフランシスコに遊びにいくことになった。出発の2,3週間前から ハビーがサンフランシスコからのゲストを捕まえては お勧めのレストランはどこかと逆質問を始めた。あるビジネス風のシャキシャキっとした女性が「ぜったいにこのジャパニーズのお店に行きなさい!スシはアメイジングで料理もスタニングよ」と非常に熱意を込めて教えてくれたらしい。
「ハニー、是非トライしたいレストランを見つけたよ!」帰宅したハビーは興奮状態。「Ebisuっていうとこでさ、場所は9thIrving。」ノートの端っこをちぎったような紙を私に見せる。
ダウンタウンのど真ん中にホテルの部屋を予約していた私は「え、どこ それ?ホテルの近く?」
Oh, I don’t know...」

サンフランシスコに到着し、ホテルにチェックインした二人は 市内のマップを広げ「Ebisu」探しを真っ先に始めた。「9thIrving9thIrving、、、。」二つの額を引っ付け合いながら ダウンタウン界隈を指でなぞる。9thはあるけれどもIrvingがない。
少しずつダウンタウンからサーチ範囲を広げていく。そのうちマップの隅々まで指が延びて行く。そしてついに 端っこの方に9thIrvingが重なる道を見つけた。
「なんか ここから随分遠くない?どれくらいかかるのよ。どうやっていくのよ。」ホテルから遥かに離れているかのように見えるその位置に目を落としながら落胆する私だが、ハビーはなぜか高揚としている。「こういう 普通の観光客が立ち寄らないような場所にあるというのが 逆に説得力があっていい!」

こうして、エキサイティングな大都会での週末は、郊外行きの電車に乗って始まった。閑静な住宅街を縫いながら緊張気味に辺りをキョロキョロと見回す。結局間違った通りで飛び降りてしまった二人は「こうやって 歩きながら知らない町を散策するのもいいもんだ」と誤魔化しながら数ブロック歩く。ようやくちょっとした賑わいのある角に差し掛かり、「Ebisu」の看板を発見。「あった!」

下町の家庭的な江戸前すし屋のような雰囲気の店内には、長いカウンターとテーブル78台、そして ちょっとした畳み部屋がある。カウンターに席を取り、出された熱々のお絞りで手を拭いながら一息つく。寿司職人が日本人かどうか探ろうとするのは 私のいつもの癖。と そこに「へい いらっしゃい!」と低いダミ声のオヤッさんが奥からのれんを押して出てきた。ハビーと私は目を合わせてニンマリ。
板前が手書きで書いた日本語の本日のメニューの中に 幻の「神戸牛握り」を発見。幻の、というのは、私が何度かハビーに生の霜降り牛の握りの話をしたことがあったものの、私の出身地の寿司屋以外で見たことがなく、しかも アメリカでお目にかかれるとは思っても見なかったから。
ニンニク醤油で頂く 表面焼きもしていない生の牛肉の握りは、トロのように口の中でとろけていく。うーん、ニンマリ顔が止まらない。子持ちシシャモやアンキモ、ナマコなども含め、ハビーも勇敢なチャレンジャーとなっていく。

タイミング良く5時半の開店と同時に入店したのは幸運だったようで、30分もしないうちに店内は満席となり、活気で溢れ始めた。どうやら巷では人気のお店のようではないか。こうして えびすさんを探す冒険の旅は100%の満足度と共に2重丸で終わった。残念なのは「今夜はEbisuでメシだ!」と行ける距離にないこと。でも もし またサンフランシスコに行くことがあれば、必ず戻って行く店であることは確か。それがたとえ滞在ホテルの周辺じゃなくてもね。

Kiki


1283 9th Ave
San Francisco, CA 94122

(415) 566-1770
Posted on 夕焼け新聞 2007年12月号

Thursday, March 10, 2011

おいしい話 NO.8「お弁当」


ダウンタウンで仕事をしていると、ランチの選択は沢山ある。モールのフードコートに行けば 10種類ほどのレストランが軒を連ねているし、ファーストフード店やポートランドならではのフードカートもあちらこちらに見られる。ちょっとリッチにゆっくりとランチを取りたいと思うなら おしゃれなカフェやレストランで白いクロスをかけたテーブルに席を着いて食事もできる。
毎日違うお店に行って 色々なメニューを試したい、とか、行きつけのお店を見つけて 常連となり おまけを時々は付けて貰えるようになりたい、とか、「お買い上げ毎にスタンプサービス」を早く貯めて タダで一食分を頂きたい、とか、誘惑はたくさんあって 楽しいもんだ。
が、それを暫くしていると 安月給が付いていかないことに 遅かれ早かれ気が付くものだ。
毎日 毎日 外でお昼を取っていると 例え一回に5、6ドルのランチでも、飲み物付けて、7、8ドル、おまけにチップを付けるとなると10ドルコースに平気で突入してしまう。
これを週5日、一ヶ月続けていると とんでもない金額に昇り上がってしまう。(実際の計算は怖いのでしません。)
もったいないからと 安くて腹持ちしないような物を買っても、持ち上がる空腹感が 午後からの仕事の大いなる妨げとなって 話しにならない。結局は財布を片手に小走りに外に出かけ、余分に何か買って来て、最終的にもっとお金を使ってしまったという結果になる。

そんな時、同僚がランチ時にさりげなくカバンの中からタッパーを取り出しているのを目撃して、目から鱗が落ちた体験をした。それは 正しく彼女の手作りの「お弁当」だったのだ。
朝炊いたご飯にふりかけ、昨日の夕食の残りのおかずに さっさっと焼いた玉子焼き、と簡単なものだが、それは立派なお弁当であった。
私は、今まで すっかり弁当という存在を忘れきっていた事にはっとしてしまった。
次の日 彼女はおむすびとインスタントのお味噌汁を持ってきていた。ちゃんと海苔は別に包んで、食べる時にさっとおむすびに巻いて食べる。そうすると海苔のパリパリ感を楽しむことができる。日本のコンビニのおむすびと同じアイデアだ。
すごいねー、と横から覗き込みながら感嘆の声を上げる私。
そして また次の日、彼女は食パンとスライスしたチーズ、ハム、トマトやレタスを別々に包んで持参。職場の休憩室でフレッシュなサンドイッチを作り始めた。大袈裟に関心する私に ただ挟んで食べるだけだから簡単よ、と答える彼女。すべては ランチ代節約から来ている行動なわけだ。
そうか お弁当を持ってくるというアイデアがあったんだ!そういえば、フードコートでも、フードカートでも 最近は「Bento」という物を販売しているサインが出ているぐらいだから、アメリカでも弁当の価値というものが見出されているのかもしれないし、また 日本を離れた日本人にその良さをもう一度アピールしているのかもしれない。
同僚の 涼しい顔して弁当を持って来ている姿に関心し、私も明日から弁当だなと思ったものの、そこには どうしても乗り越えられない難関があった。私のぐーたら癖。きちんと早めに朝起きて、もしくは前の晩におかずの用意をして、ということが、かれこれ 決意の日から数日立つが、一回もできないのだ。あれだけ 威勢良く家に帰り、ハビーにどんなにお弁当が素晴らしいものかを語り、厚焼き玉子とタコのウィンナー、そしてほうれん草の御浸しの入った日の丸弁当を作ってやると 吹聴したにもかかわらず、ハビーどころか自分にさえも作れていない。
唯一できたのは 炊いたご飯をタッパーに詰め、ごま塩をふりかける、ということだけ。結局おかずはフードコートで購入してしまった。

実家の母親にいまさらながらに感謝の気持ちで じーん。よくもまあ、毎朝せっせと、違うメニューのお弁当を彩りと栄養を考えて ぐーたら娘のために作ってくれたもんだ。
今はすっかり独り立ちしたとふんずりかえる私だが、お弁当の一つもしっかり作れないで、安月給を湯水のように毎日ランチに注ぎ込んでいては、賢い大人とは言えないのではないか。 
まず 私がしなければいけないことは、食料の買出しに行って 空っぽの冷蔵庫を埋めること、朝 お弁当を作る時間を計って目覚めること、そして 「明日から、明日から」と言い続けることを止めること!

Kiki


Posted on 夕焼け新聞 2007年11月号

Saturday, March 5, 2011

おいしい話 NO.7「手作りケーキ」

先日 ハビーのママが誕生日を迎えた。ポートランドより車で3時間ほど離れた小さな町に住むママが、今年はポートランドの息子の家で、知り合いカップルを招待し、パーティーを開きたいと言ってきた。
良妻で売っている私は心よく承知し、3週間前からそのパーティーの準備に入った。
まずはパーティー当日に仕事が入らないようにと 前もってスケジュールの調整から始める。できればパーティー前日も午後から仕事が入らないようにしたい。以前ママが興味を示していた本をインターネットで探し、当日までに間に合うように注文。プレゼントが本だけ、というのもナンだなー、と補足の品も考える。何かこれだ!と目に留まるものがないかとデパートやモールを歩き回り、最終的に Macy’sのジュエリー売り場で 様々なデザインを手に 1時間迷いまくって イヤリングとネックレスのセットを買う。ハビーの尻をたたいて しばらくしていなかった家の大掃除にとりかかり、空っぽの冷蔵庫を埋めるための買い物にでかけ、ゲストルームのベッドを作り、切れた電球を取替え、花瓶に花を生け、プレゼントの包装をし、と ハビーの両親と弟が到着する直前まで バタバタ。
まるで 正月を迎えるような万全なる準備の施しようだったが、ただ一つ、パーティー前日になっても心が決まらない準備項目があった。それは バースディーケーキをどうするか。お決まりのバタークリームのケーキをSafewayで買ってくるべきか、Baskin-Robbinsでアイスクリームケーキを選ぶべきか。どうもピンとこない。ここに住む多くの日本人の方もそうだと思うが、私は未だに あのドギツイ色のバタークリームケーキを心から楽しめない。私はやっぱり 日本風の生クリームと新鮮なフルーツの乗っかったケーキがいい。ここでそういうケーキが購入できるのは 中国系のベーカリーだろうか。そういえばFubonのモール内に一軒あったなあ。
パーティーに集まる人は皆バタークリームケーキで育ったアメリカ人で、私だけが生クリームに拘る日本人だということも忘れ、自分の好みに選択肢が偏っていった。
Fubonのベーカリーに買いに行くのもいいけど、それもちょっと芸がないなあ。ここは ひとつ 更に良妻ぶりをアピールすべく、手作りといくか?

手作り、と鼻息荒く言っているが、私はケーキを作るための道具を、でっかいオーブンと電動式泡立て器以外、何一つ持っていない。しかも あの繊細なスポンジを本番でパーフェクトに焼き上げることができるとは、いくら楽天家の私でも 思っていない。
やはり 2年前のハビーのバースディーパーティーに使った時と同じトリックを使うしかない。当時 持ち合わせの型で焼いたゆがんだ手作りケーキが、集まったハビーの友人達から大好評だったから 味の保証は間違いない。今回はグレードアップということで、ちゃんとした円形の型を購入して見栄えも完璧にすれば、ママどころかゲストも かなり驚かせることができるだろう。

Betty Crocker Supermoistのような市販のケーキミックスは、簡単で完璧なスポンジを焼くためには なくてはならない存在。Heavy whipping creamをパワー全開で泡立てて 理想の生クリームの固さに。 二層にするため、冷ましたスポンジに横からナイフを入れる。勘だけでナイフを動かすため 明らかに二層が均等に、そしてテーブルと並行に分けられていかないが そこは最終的には隠れるので深く落ち込まない。生クリームとスライスしたイチゴ、キーウイ、ピーチを敷き詰めて、トップのスポンジの層を上に乗せる。残りの生クリームでケーキ全体を覆い、Peddi Whipのような缶のホイップクリームで表面をデコレーション。センス良く 彩りよく果物を配置した後は、Betty Crockerのデコレーション用ジェルで仕上げのメッセージ書き。“HAPPY BIRTHDAY MOM

これがなんと素晴らしく豪華な見栄えなのである。私がママのためにわざわざ用意した“手作り”の作品だと知れば 感嘆の声はただただ高まるばかり。予想通り、ママや招かれたゲストの間で Wow!やOh My God!の歓声が飛び交った。そしてまた 味も悪くないもんだから 食べてる間も お褒めの言葉が止むことがない。お代わりの一切れに手を伸ばす人も出てくる。手抜きと言えども侮れない手作りケーキのパワー。

義理の母の誕生日会とデキた嫁の日は成功を持って終わった。ママからもひたすら感謝され、私の気分も上々。愛情がこもっていれば 何をとっても、それを取り囲む人々をハッピーにするもんだ。
というわけで、その日は 会場となった私とハビーの小さな家から、甘い香りと共に、たくさんの愛が溢れ出ていた。めでたし!

Kiki




Posted on 夕焼け新聞 2007年10月

Friday, March 4, 2011

おいしい話 NO.6「やっぱり焼肉」


先月シアトルに住む日本人の友人が家に遊びに来た。彼女は私がシアトル在住時代からの数年に渡っての良き親友であり、お互い相談しあったり、慰めあったり、尻を叩き合ったりしながら、いろんな荒波を乗り越えて来た良き同士でもある。
シトシトと冷たい雨が降るシアトルの冬を、イヴェントが多く独身には非常にキツイその季節を、深刻な鬱病にかかりそうな危機から乗り越えられたのは、彼女とおこなった「二人焼肉」があったからではないだろうか。

丁度 私の地元から友人が遊びに来た時に お土産として 出身県特産品の一つである私の大好物の焼肉のタレを2本リクエストしていた。“土佐郡大川村の焼肉のタレ、「謝肉祭」”。日本の実家で焼肉をする時は 必ずその焼肉のタレを近くのスーパーで購入していたものだけれど、ここアメリカで日本の小さな村の特産品など売っているわけもなく、大会社のエバラとかの焼肉のタレしか手に入らない。何が物足りないって 「謝肉祭」が打ち出す、あの擂った玉葱やリンゴやニンニクなどがたっぷり入り、じっくり熟されているんだろうなあ、と思わせる ドロっとしたコクのある食感が、サラサラ系のエバラのタレでは得られない、ということ。

めったに地元から人が訪ねてくることもない私は、この機をいいことにその友人に それしか思い浮かびませんとばかりに、そのタレを土産にしてもらうことを願った。
さて、念願の特別な焼肉のタレが手に入ったものの、その喜びを分かち合い、その美味しさに一緒に唸りをあげる家族や恋人がいなかった私。時期が悪いことに、ちょうどサンクスギヴィングやクリスマス、そして正月などのホリデーシーズンを迎えようとしている時で、よけいに 盛り上がりに欠けたというか、独り身の辛さを必要以上に実感してしまった。

やはり こういう時は、当然、同じく独り身で放浪している女友達に声をかけることになる。幻のタレが手に入ったという振れ込みで この親友をノセ、私の小さなアパートのベランダで、二人でBBQセットを囲んでの焼肉パーティーを開くことにした。
私の大袈裟なタレの前評価に親友の期待は高まるばかり。油でジュウジュウと音を立てる一切れのカルビをこのタレに付け、それを口にした時の彼女の第一声は まさに“喜声”であった。「うまーい!」
私も久しぶりの懐かしの味に恍惚感を味わった。「やっぱり これよ!」こってりと深みのある味で、とにかく 食が進むばかりで 止められないのだ。
肉、タレ、ビールのローテーションで 「うまい、うまい」という喜声を飛び交しながら 宴が酣となっていった。

というわけで どこの家庭のディナーに呼ばれることもなく、ロマンチックなデートの約束も取り付けられないまま、この親友と私は、その冬のすべてのホリデーに集合を掛け合い、2本のタレが無くなるまで、二人焼肉の宴をベランダで開き続けた。

あれから早くも数年が経ち、二人の状況は大きく変わっていったけれども、漂うニンニク臭と もくもくとする灰色の煙の中で分かち合った友情は、私がポートランドに移り住んだ今でも変わることがない。 
今回彼女が遊びに来た時に、久しぶりに懐かしの焼肉をしよう!ということになった。問題は例の幻のタレがない、ということ。あれっきり 地元から誰も訪問者を迎えていない私は あの大好物の焼肉のタレ、「謝肉祭」を入手する手段もなく、焼肉をすること自体からも遠のいていた。
すっかり焼肉モードに入ってしまった二人は、この際、エバラでもしょうがないか、ということで意見がまとまったものの、「あの焼肉のたれはうまかった」という名残りの一言を口にせずにはいられなかった。

私のハビーを交え三人焼肉となった今回、親友が茶目っ気いっぱいに「私たち二人、コレで厳しい独身の冬を乗り越えたのよ」と彼に一言。ひきつるハビー。腹をかかえる彼女と私。今では笑い話になっているけども、いや、当時からすでに笑い話ではあったけれども、彼女の一言にそんな時期もありました、と ちょっぴりしんみり。

あの2メートル四方のベランダから 芝生の生えた裏庭へとロケーションが変わっても、三人、そして いつか四人焼肉へと状況が変わっていっても、そこに焼肉のたれがある限り、彼女との友情と二人焼肉の思い出は いつまでも消えることがないだろう。

Kiki


焼肉のたれ 「謝肉祭」
大川村ふるさと公社(高知県土佐郡大川村朝谷)
0887ー84ー2201


Posted on 夕焼け新聞 2007年9月号

Sunday, February 27, 2011

おいしい話 NO.5 「地球料理」

先日 部屋の本棚の整頓をしていたら、一年ほど前に頂いた森本正治著の「NO.1(いちばん)」(扶桑社)という本を見つけた。三代目料理の鉄人になった森本氏が腕を組んで 空に向かって仁王立ちしている表紙の写真は、私に読書意欲をわかせる事はなく、いつしか本棚の奥に眠る始末になっていた。
いらない本など 古本屋に売るよりも よく友達に回し勝ちな私は その本を手に、いつもの友人に送る事を考えていた。とりあえず気まぐれに軽くページをめくってみると、NYの有名な日本料理屋で総料理長として成功した森本氏が自分の料理は“地球料理だ”と言っている文章に目が留まった。寿司職人だけでなく、日本料理職人だけでもなく、日本の伝統料理を基本にしつつも、その枠を超え 様々な文化の食を取り入れた地球料理の職人だと誇り高く語っているのだ。
日本人は伝統的な日本料理に固執しており、ある一定の味覚の枠内に留まり、そこで 料理の味の良し悪しを判定しがちである、という指摘もしている。
なるほど、考えてみれば私もその類の一人かもしれない。
好きでアメリカに居るものの、日本料理は時として恋しくなるもので、“美味しい”スシ レストランや“本物の”ジャパニーズ レストランを常に探し求めている。その美味しいとか、本物という判定はまず見かけから入る。例えば、これらのシェフは日本人でなければならぬわけで、日本人以外の他所の国の人がキッチンやスシバーに立っているのを見ると もうそこで 私の脳に「ああ...ダメだこりゃ」という信号が送られる。
そして次に、例えそこに日本人のシェフが居たとしても、天ぷらの衣の量や揚がり具合、照り焼きのタレの調合や焼き具合、刺身の捌き具合や シャリの量に握り具合、など 自分が日本でウン十年慣れ親しんできた味に添合わないと「不味い」の判定がぴしゃりと下りる。変わった取り合わせや、ユニークなアレンジが施された料理には「まったく わかっとらん」と溜息をつきながら首を横に振る。
でも よく考えてみれば 日本人の寿司職人の下で数年修行したアメリカ人シェフの握ったスシが ヘタな日本人より遥かに旨かったことがあったし、とんでもないアレンジの一品が病み付きになったという経験もあるんだよね。
だいたい、アメリカに居て必死に伝統的な日本の味を捜し求めるというのも可笑しな話のような気もするわけで、なんだか 森本氏に自分が心の狭い人間と、アメリカという大国にいながら 世界観のない奴だ、と指摘されているような気になった。
森本氏がNYで極めたこの地球料理というものが果たしてどういうものか、ポートランドに住む一庶民の私には見当も付かないが、偏見を持たず、伝統に固執せず、新しいものに対する新しい判定の仕方をする必要があるという事は 学んだような気がした。
ということでハビーのアメリカ人の友人が「あそこのラーメンがめちゃめちゃ旨い!」と絶賛する最近オープンしたジャパニーズ レストラン「Biwa」に行くことにした。あるレストランの私が結構イケるよ、と言っているラーメンをマズイと散々コケにした彼が絶賛するラーメン。正直、ちょっとした恐怖は頭の後ろに付いていた。
毎度の事で、店に入るや否や、オープンキッチンに日本人が居るかどうか探してしまった。居ない。いやいや!これは 心をオープンにしてトライするでしょ!
メニューによると、どうやら ラーメンの麺は自家製のようだ。いい感じではないか。さっそく お勧めのラーメンを注文する。
ライスヌードルを思わせるような白く平たい麺の上に グリルされた豚肉の塊がのっかっており、多分 この焼けたばかりの熱々の豚肉の上からスープが注がれたようなラーメンが運ばれてきた。
やっぱり典型的なモヤシやネギ、ワカメやシナ竹などがたっぷり乗ったラーメンの絵を描いていた私は この期待感を打ち破られた。斬新でシンプルな見かけ。さっそく豚肉の塊に箸を入れる。これがとても柔らかい!グリルする前にじっくり下味を付けて寝かしていたか、一度煮込んでいたかもしれない、と思わせるような柔らかさ。そして自家製麺へ。日本のラーメン通達の“コシが”とか“縮み具合が”とか言っている声が聞こえてきた。いかんいかん。無理やりその声をかき消す。最後にスープをすする。典型的なラーメンのスープを持ち出してきて 比較しようとしても前例がない味なので 比較のしようがない、とでも言おうか
ご機嫌風のハビーが眉間に皺を寄せて無言になっている私の顔を見て、自分もすぐさま神妙な面持ちに切り替えた。なにかがおかしいと察知したらしい。
私には食に対する世界観が備わっていない、ということなのだろうか、旨い!という顔ができない。こんな私、森本氏に渇を入れられてしまう?それとも、このラーメンにもう一つ渇が必要なのか。
地球料理に無国籍料理、いったいどこに境界線を引けばよいのやら。ハビーの友人のように絶賛する人もいるわけだから、そういう意味では これもまた 平和な地球料理なのかもしれないね。


Kiki

Biwa

214 SE 9th Ave.
Portland, OR 97214
Phone: (503) 239-8830
Posted on 夕焼け新聞 2007年8月号

Saturday, February 26, 2011

おいしい話 NO.4「Call your Mother!」

日本に住んでいた頃は、週末に友人と喫茶店の“モーニング”とか “モーニングセット”を食べにいくのが習慣になっていた。小さい町だったが、やたらと喫茶店の数が多く、ほとんどが この“モーニング”のメニューに力を入れていた。というのは、日本で一番夫婦の共働きが多い市と言われているこの土地の住民は 週末は 朝から外に出て食事をする傾向があり、美味しくてボリュームがあって値段が安い店という噂がつくものなら あっという間に評判になり、その日の売り上げが朝作られると言われるほどの忙しさになるのである。行列のできる喫茶店が登場したり、地元のレストラン情報誌などの、「モーニングがおいしい店」、というコーナーに挙げられるほどになる。
地下鉄などもなく、公共の乗り物機関が発展していない町だから 一世帯の車の所有台数が多いこの町の人間は、車でどこにでも行く。それこそ おいしいといわれる喫茶店、うどん屋、ラーメン屋などを求めて本当に平気で遠出をするのだ。
私と友人との間では「モーニングに行かない?」が合言葉であり、ちょっとしたドライブも含め、いろんなところに美味しいモーニングを求めて毎週のように出かけたものだった。
モーニングサービスというものの観念がすっかりできあがっている中、大阪や東京に出張に行った私は、ビジネスオフィス街にある喫茶店のモーニングサービスにひどく失望したのを思い出す。当時、半切れトーストとゆで卵とコーヒーで600円という値段に空いた口がふさがらなかった。地元だと この値段で 厚切りチーズトースト2枚、またはクロワッサンのハムサンドイッチとオムレツとサラダ、フルーツ、コーヒーがついてくるのに、と お気に入りの喫茶店のモーニングメニューを思い出しては悲しく比べたものだ。

あれから随分な年数が経ち、今はアメリカなんぞに住んでいるが、ここポートランドでも 私の出身地と同じ現象が起きていることを確認する今日この頃。
美味しいブレックファースト(訳:“モーニング”)を食べるために人々は色々な所から わざわざ出かけて行き、行列になっても 辛抱強く待ち、必ず目的の食事にありつくのだ。
私の家の付近にも ちょっと有名なカフェが2件ほどあるが、週末の朝は「うわー、2時間待ち?」と思うほど人が群がっている。
人間ってやっぱり食べ物が生活の中心であり、美味しい物のためだったっら少々のエネルギーもおしまないものなのね。
先週訪れたダウンタウンにあるMother’sもブレックファーストを目当てのお客さん達がわんさと入り口のところで群がっていた。45分待ちといわれたハビーと私。別に午後の予定が入っているわけでもない二人は粘って待つことにした。
私の地元の喫茶店と違うのは、なんといってもブレックファーストと一緒にカクテルのサービスがあるところ。シャンパンとオレンジジュースの“Mimoza”や、ウォッカとトマトジュースの“Bloody Mary”などを ゆったりとした休日の遅い朝に Refreshといった感じで頂く人が多い。
一日が始まったところで もう酒?と最初は驚いていたけど トマト色の飲み物に長いセロリが突き刺さり、オリーブやカクテルオニオン、そしてライムやレモンが添えられているBloody Maryがテーブルに運ばれていくのを見る度に、トマトジュース嫌いの私でも 「うまそ~」という気になってくる。
Mother’sでもテーブル待ちの人たちが それぞれ“Mother’s special Bloody Mary”を手に おしゃべりに花を咲かせていた。
いろいろな種類のオムレツのセットとコーヒーや オレンジジュース、ましてやカクテルなどを頼んでいると、決して600円で済むようなことには ならないけれど、たまには 時間に追われず、親しい人たちと気兼ねない朝食の時間を外で取る事のは とても 楽しいし、心のリフレッシュになるよね。
日本に居た頃のようには そう頻繁に外で朝食を取ることは なくなったけれども 私の美味しい“モーニング”探しはここポートランドでも絶えることはない。
テーブルにセットされたMother’sのオリジナルコーヒーカップのメッセージ“Call your mother”が 一瞬にして私を日本の故郷に引き戻した。一緒に生まれ育った幼馴染や親友、兄弟、そして両親。隣のテーブルに座っている大きなグループのように、私も大好きな人達とここで あんな風にテーブルを囲めたら、と ちょっぴり胸がきゅんとなるMother’sでの朝食の一時だった。



Kiki

Mother's Bistro & Bar
212 SW Stark St
Portland, OR
 97204
Phone: (503) 464-1122
Fax: (503) 525-5877

Posted on 夕焼け新聞 2007年7月号

Monday, February 21, 2011

おいしい話 NO.3「ヤクザ???」

12ヶ月前にハビーが あるレストランの批評の記事を見つけた。自分のワイフが日本人なので なんでも「Japanese」というフレーズに敏感になるハビーが 今回も近所に新しい「Japanese Restaurant」がオープンしたらしい、と興奮してその記事を押し付けてきた。
Japanese Restaurant」の批評には細かく厳しい私は その店の名前を聞いただけで すばやく疑いモードに入った。“Yakuza”って、、、。

これはアメリカ人のみの経営で 日本人はビジネスに関係していないね。だって 日本人が「マフィア」とかいう名前の洋食屋を開店するようなもので、まったくズレているというか、滑稽さだけが浮き彫りにされて 旨いレストランとしての 説得力が失われる、日本人がオーナーだったら絶対付けない名前だね、と私は一揆に批評を並べ立てた。
ハビーが声を出してその記事を私に読んで聞かせる。若いアメリカ人達が日本食を取り入れた創作料理を提供、というような内容に差し掛かったところで 「ほらね!」と割り込む。貧乏人のくせに 日本人の握る寿司しか食べない、信用しない、と高飛車な態度の私は アメリカ人のシェフ達というところで 偏見が入り、その人たちによる“創作料理”に更に懐疑心が深まった。
今まで何度突拍子もない組み合わせの“頂けない創作料理”に出会ったことか。ということで 私の一方的な批評により、“Yakuza”は 一度は行ってみたい店リストに入ることもなく、あっさりと忘れ去られていった。

先日、普段は通らない道をたまたま車で徘徊していると普通の住宅地の中にとっても素敵な店をみつけた。「何この店は!?」と叫ぶ私。見落とした運転手のハビーは1ブロック先でUターン。店の前で停車して車の中よりジーっと観察する興味深々の夫婦。
計算された照明とモダンなデザインの外観と、スペースを大きく取った窓から窺える店内の様子により、新築のレストラン・バーだと判明。「なんて素敵なお店なの!こんな所にレストランができたなんて知らなかったわ!どういう料理なのかしら!」と興奮状態で看板を探す私に 私より視力の良いハビーが先に見つけて叫んだ。「ハッ、ここが“Yakuza”だよ!」「えっ!?」

ヤクザという名前の意味合いと店のイメージがまったく噛み合ってないことに不思議な感覚を覚えたが、おしゃれな見かけに魅了され 即座に 一度は行ってみたい店リスト入りとなった。そして たったの数日後に私達は本格的に味の批評をするべく戻ってきた。
上質の木材を効果的に、そしてふんだんに使用して作られたバーカウンターとテーブルが、落とされた照明とキャンドルの炎で美しく照りを放っている店内は、通りを歩く人々の目を強く引き付ける。しかし、外から見えないのが裏庭のセッティング。寿司のカウンターが裏庭に面して開放的に設計されており、裏庭のテーブルの赤い椅子が 日が落ちて薄暗くなると紅色に浮き立ち、モダンな中にも和の情緒を醸し出す。
なんて上品で美しいインテリアなんだ、と感銘のコメントを連発していたハビーと私だが、メニューに目を通して沈黙になる。さすが創作料理を売りにしているだけあり、一品一品の説明を読んでも 出来上がりの料理のイメージがまったくできない。ハウススペシャルの項目にある巻き寿司も 何が巻かれているかを読んでも、まったく味の想像ができないのだ。
ということで決断力のない二人は サーバーのお勧めする鰻のフライとアボカドなどを(忘れました)を海苔と白身魚で巻いた寿司、ハマチの細巻き、ホタテを細い麺のようなもので包んだ揚げ物、そして 牡蠣、ウニ、鶉の卵が入った酒ショットを注文することに。
最初に登場したホタテの揚げ物を口にしたと同時に、感銘のコメントが再び湧き上がった。「美味しい!」 いやー 味の旨さに驚いた。あっさりと上品で、そして 新鮮な素材を使っていることが舌でわかる料理なのだ。あっという間に 注文した料理を平らげた二人は、ハマチとマンゴが入った巻物を追加注文。これも未知の世界だったが 一口でハマッてしまった。
こうなったら全部注文して味見したい!と興味を掻き立てる料理達だったが、そうそう気安くなんでもオーダーできる値段設定がされていないので、ハビーと私には必然と出直しが強いられた。
ハビーがふと、「この店は昔君が説明していた日本のバーのコンセプトに似てるんじゃないの?」と一言。そこで私は まだ日本に行ったことのないハビーに一生懸命、居酒屋というものを説明した事を思い出した。
ああ そうだ!日本のコジャレタ居酒屋の感じがあるかも!
そう思うと Tシャツ、ジーンズにエプロンして せっせと働いているアメリカ人のお兄さん達が、何やら 居酒屋で働いている日本人の若者に見えてきたから不思議だ。
店を出た時、外の看板に“Izakaya”という文字を見つけた。なんだ、最初から居酒屋を意識して作ってたのね。値段も元来の“安い”というコンセプトに改善してくれると 私とハビーの行き付けの店になること間違いないのに。ヤクザな値段とまでは 言いませんけれども(落ち)。


Kiki

Yakuza
5411 NE 30th Ave
portland, OR 97211

(503) 450-0893

Posted on 夕焼け新聞 2007年6月号