Sunday, March 18, 2012

おいしい話 No. 53「ハラピーニョ」

優しい和食で育ってきた私にとって、ハラピーニョとの出会いは衝撃的だった。
もちろん和食にも 赤唐辛子を 使ったピリから料理はあるけれど、塩コショウやニンニク、ショウガのように、味付けの一環として使われ、それ自体をがぶがぶ食べる料理はない。
基本的に辛いものが大嫌いで、おこちゃまのお口で育ってきた私は、やっとなんとか、わさびや洋からしを 刺身や 餃子などに 適量使えるようになってきた。それでも、間違ってかじってしまうと いつまでたっても あのひりひりとする辛さが残る赤唐辛子には 我慢がならなかった。
スパイスを沢山使ったエスニック料理や、いろんなタイプのHot sauceの存在を知ったのは、アメリカに来てから。始めてのメキシカンレストランで、メキシカン“付き出し”Chips & Salsaを知ってから、少しずつChili pepperの辛さを受け入れられるようになってきたけれど、Phoのサイドで出てくるグリーンのChili pepperは、絶対に触れてはいけない存在だった。

そのグリーンのChili pepperが「ハラピーニョ」という名を持つことを、ファーストフード店、Carl;s Juniorで知った。そこでハビーが注文した「ハラピーニョ バーガー」。レジの上には、ハラピーニョのスライスが ふんだんに差し込まれたバーガーの写真があった。ファーストフード店には珍しく、イメージと変わらぬそれを ハビーが がぶりと大口でいく。「ウ~ン、ウ~ン」と、旨いと時によくやる音を出す。私は 毎度のチーズ バーガーをかじりながら ハビーをジッと見る。
また ハビーが 大口でいく。たまりかねた私が「辛くないわけ?」と聞く。「それが 旨いのさ!」と得意気。そして私に ほれ、試してみろ、と差し出してきした。
そのむき出しになった側面には 5ミリ幅のハラピーニョの姿があった。悔しいことに 私のチーズ バーガーより、ハビーのハラピーニョ バーガーの方が 明らかにおいしそうだった。もうこうなっては 一口行くしかない。
私の 小さなお口を 一生懸命広げて かぶりついた。
ジューシーな肉と、フレッシュなトマトと、とろけるチーズと、マヨネーズと、旨い具合にハラピーニョの辛さがからまって 絶妙な味が 口いっぱいに広がった。「なんということだ!」「うまああああい!」
尖った辛さが 酢漬けによって 抑えられたのか、辛いのだけど 怒りが沸いてこない。一瞬にして中毒になってしまたような感じがした。自然に 二口目へと口が広がる。ハビーが自分のバーガーへの危険を感じ、取り返そうと手を延ばすが、私の二口目が 間髪を入れずに入った。
「ウ~ン、ウーン。」同じ音が 私の口からも 知らずと漏れる。
ひきつった顔のハビーが 痩せて行くバーガーを これ以上は許さぬ、と言わんばかりに私の手から もぎ取った。

この衝撃的出会いから、私はハラピーニョの虜になってしまった。レストランやファーストフード店、バーやカートまで、Ingredientsに「Jalapeño」という文字を見つけると 迷うまでもなく、それが私の注文する一品と決まる。Bye And Byeの“Weeping Tiger”(トウフとハラピーニョのベジタリアン サンドイッチ)、Grilled Cheese Grillの“The Shocker”(グリルド チーズサンドイッチにハラピーニョのスライス入り)、Tin Shedの“Macaroni and Cheese”(細かく刻んだハラピーニョ入り)、Subway Sandwichの“サンドイッチ”(トッピングは あくまでも自分のチョイスなので、必ずはっきりと申し出て、ピクルド ハラピーニョをたっぷりのせてもらう)。そして今では、Phoのスープにハラピーニョを漬けこまないでは 食べられなくなってしまった。肉やヌードルと一緒に ズルズル、サクサクといくのが最高にうまい。
先日行ったKennedy School Movie Theaterで 黒板に書かれている本日のピザが「ナントカと ナントカと Jalapeño」だった。「おっ!」この反応だけで即注文決定。ポップコーンに代わる素晴らしい映画の共となってくれた。

Carl’s Juniorでの あの衝撃的な出会いから 数年後、このハンバーガーにハラピーニョを入れるという画期的でCleverな発想を、もうそろそろ他のレンストランも Catch onするべきじゃない?!、と私は 行く先々のレストランで、ハンバーガーメニューに落胆しては、ハビーに怒りをぶちまける。
このホットなハラピーニョを 想い慕う特別な感情は、そうとう辛口なハビーも 全く口を挟めない状態となっている。



Kiki


Posted on 夕焼け新聞 2011年8月号

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