Sunday, May 26, 2013

おいしい話 No. 71 「ある関係」



テーブルが空くまで エライ長いこと待たされるかも、と予測できながらも、それでも行きたいと思うレストラン。相当料理が美味しくて、値段もそこそこ納得が行かないと、そんな存在には成り得ないよね。

それは「OX」いう名のレストラン。あの味のためなら 1時間“ぐらい”待てると思えるレストラン。

 

ポートランドに住むグルメ人、雑誌に取り上げられた店には どんなロケーションであろうと見つけ出し、その味を体験しようと情熱の炎を燃やす。なんでまたこんなとこに、と思うNEMLK通りにある「OX」には そんなグルメが群がっている。もちろん評判の店には 一回は行ってみたいわよ。でも 予約は取らない、待ち時間は長い、全員が揃わないと席に着かせてくれない、そんな店にまた行きたいと思う? 1回体験できれば充分じゃない?

それが、「OX」は違うんだよね。それを承知で、また行きたくなっちゃうのよ。あの料理のために。

 

先日も友人と、「OX」の料理をまた食べたいと話していたら、その悶々とした気持ちが抑えきれなくなり、「じゃ7時に現地で」と、急遽出動することになった。

ドアを開けて入るとすぐ、先に来た客の壁にぶつかった。その壁の端から 中を覗きこむと 満席の店内の賑わいが見えた。こりゃ確実に待ちだな。水曜日の夜なのに、、、。

45分だったら平気だよね。」 普通なら出てこないセリフなはず。名前と電話番号をホステスに告げ、彼女が促す隣接するバーに移動。そこでピールを飲みながら 彼女からの呼び出しを待つことにした。

このバーも 「OX」のテーブル待ちの客で満員だった。「ここもテーブル待ち30分とか言われたらジョークだよね」と、笑うに笑えぬシチュエーション。

 

1時間後にやっと呼び出しコールが鳴った。お腹がが空き過ぎて 機嫌が悪くなる寸前だったけど、今はニコニコ顔の二人が用意されたテーブルに着いた。

大忙しな店内、サーバーのお兄さんがなかなか来ない。やっと来たと思ったら、カレ、ちょっといっぱいいっぱいな感じ。取り敢えずワインを注文し、一先ず落ち着く。「どれにするぅ? シェアしようよ。今夜のスペシャルなんだろうね。聞いてみよう。」メニューを見ながら ワクワクする二人。サーバーがワインを持って戻ってきた時に、今夜のスペシャルは?と ご機嫌状態で聞いてみた。「Are you guys first time here tonight?

今夜のスペシャルは?という質問に対して、君たちはここ初めてなのかい?っていう返しって、どういうこと? 友人と顔を見合わせる。

Well, we don’t have “special” because everything on the menu is special」とサーバーが続ける。そいじゃあ どれが美味しくてお勧めか教えてよ、と要求する。

Well, our Beef Ribeyes are good. Lamb Shoulder Chop is good.  And for small plates, I like these bottom four on this side of the menu.」そう言って、一旦テープルを去ったカレ。友人と顔を寄せ合い メニューを見下ろしながら、「なんか高いものばかり勧めてなかった?」と、カレが指した品の値段をチェック。しかも 「この下の4品目がお勧め」って、すごい手抜きじゃない? ちゃんと一品一品説明してよね。いくら忙しいからって説明する時間をカットするって、ヒドクない? ちょっと憤慨な感じ。

待ち時間の長さは兎も角、サーバーがイケてないのはダメよ。いくら味がよくても サービスが悪いと客は離れていくからね。ぜーんぜん ダメ。

 

私達が注文したBeef Skirt Steak, Wild Prawns, Roasted Brussels Sprouts & Butternut Squash, Tuscan Kale Risotto, そしてAsh-Roasted Sweet Onion, 次々と運ばれて来た。「美味しいーーー!」それしかなかった。それの連発だった。このレストランが謳ってるのは、Argentine Inspired Portland Food。どのパートがアルゼンチンなのかは ちょっとわからないけど、ポートランドの新鮮な食材が素晴らしく活かされた、まさにポートランドのグルメNerdsのための料理なのは確か。

 

こうやって書きながら、またOX」のことを考えている。ひどい扱いを受けてもまた戻っていくRelationshipのように、あの料理のことを考えると、長い待ち時間も、いっぱいいっぱいなサーバーも、大したことではないと思える。あの幸せなひと時を味わえるなら、あとは目をつぶれる。どんな仕打ちも 我慢できる。まさに 食に対する人間の欲望を掻き立てられるレストランだ。その欲望が満たさせる限り、私はまたあそこに戻る。他の誰が 何と言おうとも。


 

Kiki

 

OX

2225 NE Martin Luther King Jr Blvd  

Portland, OR 97212
(503) 284-3366

http://oxpdx.com



Posted on 夕焼け新聞 2013年3月号

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