Sunday, June 28, 2015

おいしい話 No. 98「ヘルスコンシャスな人」


Juice personになると宣言して1ヵ月以上経った。この間、Juice personどころか、すっかり生活習慣を改めた人にトランスフォームしちゃった。
オーガニックの野菜でジュースを作り、毎日飲む事で 身体にどういう効果があるのか、そしてどういう種類の野菜が何に効果があるのか、なんていう事を調査し始めたら、止まらなくなった。野菜は必ずオーガニックを、という所から、農薬の事や、遺伝子組み換え作物、加工食品、水道の水の事や、プラスティック製品まで、「事実」がどんどん目に飛び込んできて、ハビーと私は目が開きっぱなしになった。
OMG! What a world we are living in!

これらを目の前にすると、全く世の中に無関心で、無知だったと認めるしかない。今までVeganVegetarian、はたまたGluten freeと公言する人達を「好き嫌いのヒドイ人達」「好みの偏った人達」「スタイルだ」と括っていた。でもこの人達は、単純な個人のチョイスではなく、もしかしたら 私達よりずっと知識が有り、世の中の環境状態を理解し、賢い選択で自分の身体を守っている人達かもしれない、なんて思えてきた。
よくおかんに言われた「文句を言わずに なんでも出された物を食べなさいっ!」を実行していると、とんでもない健康状態に陥りそうな食品が溢れている。Portlandiaで、レストランが出すチキンの歴史をいちいち聞く客、というエピソードがあるようだが、もうNo jokeだわ。自分をEducateして、健康にいい物を選んでいかねば! ほらね、すごいトランスフォームしちゃったでしょ。こんな意識、全く持って無かったもんね、以前は。

そこで 食品や環境について考えた時、初めてポートランドって素晴らしい、と思った。地元に農家が沢山あるし、新鮮オーガニック野菜や、健康を考えた食品の品揃えは多いし、ファーマーズマーケットもあちこちでやってるし、市のお水にフロライドは入ってないし。近所には 少々高いが、Whole FoodsNew SeasonsCo-opもある。やっぱりこういう店が近くにないと、面倒くさがりやの私は続かない。

私が一番変わったのは、ラベルを読むようになった事!これは大きな成長である。以前はしょっちゅう「Diet」とか「De café」とか買って帰って、失敗こいていた。表にドーンと張っているラベルでさえも見ないでこれだから、裏を回して成分や材料なんか見るはずもなかった。ところが今は しっかり材料のリストを読んでいる。分量が多い物から先に提示されていることを知った。長いリストと、読めない材料や、XやらYやらが連なる名前の材料が入っている商品は、なるだけ避けるようにと教わった。マーケットの通路に立ち、ジーっとパッケージを睨みつける私。明らかに買い物に要する時間が長くなった。しかし もう、ハビーに呆れ顔で「Please read labels」とは言わせない。今の私はスマートショッパーなのだから。

家のパントリーや冷蔵庫も大掃除。食べ物の断捨離を行った。精製されたり、漂白された小麦粉や、塩、砂糖を撤去。MSG、添加物、着色料、その他不明な表示の入っているパッケージ物も、買ってきたばかりであろうが、大好物であろうが、結構いい値段したものであろうが、どんどん棚から取り除く。なんか気持ち良い! ハビーと二人で、顔を見合わせご満悦。まさか、こっち側の健康思考の世界に身を移すとは思ってもみなかったが、人間出来ない事は無い。あんなにコッテリ脂のノッた肉好きだった私が、トランスフォーム後、まだ一度も「肉ぅーーー!」を唸っていない。エライッ。

そういえば、最近Paleo Dietていうのを耳にする。人間の基本の食生活(原始時代?)に戻ろうという事らしい。人々は自然の中で手に入る木の実や、果物、植物を食べていた。家畜や養殖される前の、野生の動物や魚介類を食べていた。そこには農薬も、ホルモン剤も、化学調味料も、加工の技術もなかった。
なるほどね。一見極端な提案みたいだけど、本当に山奥の洞穴に住み始めようぜ、というんではなく、マーケットで商品を選ぶ時、それを意識していこうぜ、という事だと思う。私だけでなく、世の中がもっと大きく健康思考に移行していってると感じる。

今夜はハビーがチキンと野菜のローストを作ってくれた。
Don’t worry.  They were happy chickens.
肉屋のおっちゃんに確認したそうだ。なんか、真のポートランダーになってきているぞ。あとこれで、裏庭に畑を作り、鶏小屋を建てれば 立派なアーバンヒッピーだ。健康生活デビュー2ヵ月弱。健康オタク化の道は続く。


Posted on 夕焼け新聞 2015年6月号

おいしい話 No. 97「Juice Person」


最近人々の間で、ジュースを作るのが流行っているわよね。去年のブレンダーの売り上げ台数は記録的だったよう。大酒飲みの友人も何人かブレンダーを買ったりして、世間の波に合わせ、健康思考にギアを変えようとしている。「毎朝作って朝食として飲んでるんだけど、なんだか体が調子いいわ。」
「へー。」
私はJuice personにはなれない、と ハビーにこぼす。健康を意識した選択をしながら生活をする、そして きちんとした食生活を管理する。できねえ。
だいたい、うちにはブレンダーなんてないし、作りたいと思っても作れないわけよ。
「何を言ってるんだい。ブレンダーうちにあるじゃないか。」「え、あれは壊れてるわよ。」「壊れてないよ。この前も使ったばかりだよ。」「……..。」
壊れた事にしといてくれれば、どんなに簡単か。

その数日後、友達とCostcoに行くと、超高機能ブレンダーマシーンのデモンストレーションが行われていた。いかにもの、口の上手い、デモのオジサンが、ジョークを差し込みながら 軽妙にこのマシーンの素晴らしさを説明している。「アタシのブレンダーに似てる」と友達が言う。「え、持ってんの?」「うん、持ってる。」「使ってる?」「使ってない。」
バナナ、ホウレンソウ、ニンジン、パイナップルをブレンダーに放り込む。パイナップルなんか、芯まで入れちゃう。氷を入れてスイッチオン。全てを砕き、あっと言う間に、スムージーができた。私と友人は小さいカップに注がれたそのサンプルをすぐさま掴み、味見をする。美味しい。
オジサンは、間を空ける事なく次のレシピを作り始める。そして、温かいスープに冷たいシャーベットまでも披露する。
栄養満点な一品が手間いらずで出来て、毎日の健康生活に抜群の役目を果たします。Costco特別価格、$499.99ドル! お買い得ですよ!
500ドル! 高っ。
40分以上デモのオジサンの前に張り付いて、散々試飲をした私達だったが、価格を聞いた途端、「じゃ、そろそろ」と後ろざしに足を引き始めた。その空気となって消えようとしていた私達をオジサンはすかさず見つけ、大声で呼びかける。
お嬢さん達、買ってかないの!?このシルバーは最後の色だよ。持って行きなさい。ほらカートに入れてあげるから!
あっと言う間にオジサンがブレンダーの箱を私達のカートに投げ込んだ。
「えっ?!」とは思ったものの、ここでオジサンと問答してもしょうがない。このまま引くべ、とブレンダーをカートに入れたまま、その場から立ち去った。
「買い物中に考えて、どうしてもいらないならレジで落としていけばいいからぁ!」オジサンの叫び声が背後から追ってくる。

奇遇にもその数日後、年間検診でドクターに食生活を改める警告を受けた。特にお酒。アルコール摂取は真面目に抑えなさい。きちんと栄養を考えた食を取りなさい。
アルコール摂取部分は除いても、自分的にはそんな不健康な選択をしているつもりはなかったが、このドクターの指摘に目が覚めた。私はトシを取っていっている。もう若くはない。例えセールスのオジサンにお嬢さんと呼ばれても、それを間に受けているバヤイではない年齢に来ているのだ。
老化をしている事を考えた上での、食生活を真剣に考える必要があるのだ。
あのブレンダー、レジで落としてくるべきでは なかったかも。

早速ハビーに宣言する。「私は今日からジュースを作る!うちのブレンダーを出して!」
「ブレンダーじゃあ、ジュースは作れないよ、ジューサーじゃないと。」
「へ?」ちょっと混乱。
「ブレンダーは入れた物全部を砕いてミルクだの、ヨーグルトだのを入れてスムージーを作るもの。野菜ジュースを作りたいなら、野菜や果物のエキスだけを絞り出すジューサーを買わなきゃ。」
やっぱり私はJuice personじゃなかったわけだ。全部がごっちゃになっていた。

真のJuice personに成るために、早速高機能ジューサーを購入。オーガニックの野菜を買ってきて、丸ごとジューサーに突っ込む。ニンジン、ビーツ、ケール、ブロッコリー、アスパラガス、生姜、ニンニク。勿論パイナップも芯が付いたまま入れる。エキスが絞り出され、カラカラになったpoopがマシーンのお尻から押し出される。すごい、一滴も残さず、エキスを絞り出しているようだ。Mason jar2瓶分のジュースが出来た。あんだけ大量の野菜を使って、2瓶かい。健康生活を営むって、お金がかかるのね。ヘルシーショップで売っているジュースが高いと文句を言っていたけど、Juice personになって初めて納得。いや、するよな、そりゃ。

決して「うまいっ」とは言えないが、確実に強力パワードリンクであるジュース。すっかり健康挽回できる気がしてきた。ワイン1杯を控えて、ジュースに転換。今日から私も立派なJuice personです。



Posted on 夕焼け新聞 2015年5月号