世の中には、新しいテクノロジーの商品が出ると、発売と同時に手に入れる人々がいる。ラップトップコンピューターや、iPod、スマートフォン、タブレットに、ブルーレイやフラットスクリーンのテレビ。この間初めてコマーシャルを見たと思ったら、もう音楽は全部iPodに収めている、とか 携帯はスマホでなきゃ不便とか、映画はブルーレイでしか見ないとか、最新機能を持つ商品をすぐさま「欲しい!」と思い、簡単に受け入られるタイプの人達。発売したては値段も高いが、早く欲しい、という気持ちに駆り立てられ、清水の舞台から平気で飛び降りれる人達。
そういう人達と相反するところに立つのが、うちのハビー。新しいテクノロジーを素直に受け入れられない人。
この過去10年ほどの間で次々と発売されてきた様々な機能の商品達を、うちのハビーはことごとく否定してきた。ラップトップコンピューターも、デスクトップのコンピューターがあるからいい。iPodも CDをかけて聴けばいい。スマートフォンもフリップ型の携帯が一番機能が優れている。(それより以前は、携帯を持つ事自体を拒否していた。)タブレットや、ブルーレイプレーヤーや、フラットスクリーンのテレビなんか、必要性を全く見出せない。といった具合で、いちいちケチが入る。「ケッ」てな調子で電気屋に群がる人達を見下していた。
私はなんなんだろうこのオヤジは、と思っていた。こういう種類、何て言う?
やっぱりカメラはフィルムが良いと言う「アナログ派」か? いや、それはちょっと響きが良すぎる。ハビーの場合はもっと屈折している。あまのじゃくと言うか、ひねくれているというか、要するに頑固者なのである。人が良いという物を簡単に受け入れられないという性格。流行に、皆と同じように飛びつけない、頑固オヤジなのである。
ただハビーの頑固オヤジが頑固オヤジらしからぬところは、これらの商品を現在全部持っている、という事実なのである。ものすごく中途半端な頑固オヤジ、貫き通す強さはない。
仕事で必要だからしょうがない、という名目で、拒否していた携帯を買った。あんなに否定していたスマートフォンを今では一秒たりとも離せない状態で持っている。(世間で一番人気のiPhoneは引き続き拒否中。)仕事上ラップトップコンピューター無しでは生活できなくて、タブレットも器材の遠隔操作に便利だとロケに出かける時使っているし。
数年前、ある日ハビーが「しょうがないけど、ブルーレイプレーヤーが必要だ」と言い出した。これも仕事で、ブルーレイ用に仕上げたDVDがちゃんとブルーレイプレーヤーで再生できるかの確認作業の為だと言う。
「うちのテレビでブルーレイが観れるの?」
真空管の付いた分厚いテレビを指さす私。
「このテレビでブルーレイのクオリティを見る事はできないけど、再生できればいいんだよ。」と言う。新しいブルーレイプレーヤーを買い、10年前に買ったテレビに接続し、普通のDVDと共にブルーレイの映画を観ていた私達。
そして1週間ほど前、ハビーがついにこう言い始めた。「HDのテレビにしないと、今やっている仕事のクオリティーチェックができない。」
「ハッ! フラットスクリーンのテレビを買うの私達!!?」
「しょうがないけどね、仕事で必要だから。」
こんな風に、頑固で抵抗している期間が5年から10年。利点は、やっと購入を決心した時には、商品の価格が随分下がっている、という事。
5年前に買ったブルーレイプレーヤー。やっとその機能を確認できる日が来た。早速Best
Buyに走る。(買うと決めたら行動は早いヤツ。)ウエブサイトで出ていた目玉商品を買ってくる。古いテレビをどかし、新品のフラットスクリーンをテレビ台に置く。ご満悦な表情のハビー。仕事の為にマスターしたブルーレイDVDを再生する。
「オッケー、バッチリ。」
仕事用に購入した割には、妙に嬉しそうではないか。
その翌日、家に帰るとテレビゲームをしているハビーがいた。2年ほど前に、テクノロジーやコンピューターに強い友人が、任天堂を含む数百というゲームをマッチ箱ほど小さい箱に搭載し、テレビにUSBのケーブルを接続するだけで、簡単にゲームが楽しめるというゲーム機を作ってくれていた。ハビーはそれを新しいテレビに接続していた。
「やーっとこれが使える日が来たよ。」
単調で間の抜けた音楽が画面から流れる。プレイしているのは1990年代の古いゲーム。「やっぱゲームはこの時期のが一番だねー。」
なぜ最初から否定しないで、普通に素直に受け入れらないのだろう、このオヤジは。
何から何まで。結局最後は全部折れてるくせに。
こういう人なんて言う? こんなハビーにつける名前、募集したい。
Posted on 夕焼け新聞 2017年4月号