Saturday, February 26, 2011

おいしい話 NO.4「Call your Mother!」

日本に住んでいた頃は、週末に友人と喫茶店の“モーニング”とか “モーニングセット”を食べにいくのが習慣になっていた。小さい町だったが、やたらと喫茶店の数が多く、ほとんどが この“モーニング”のメニューに力を入れていた。というのは、日本で一番夫婦の共働きが多い市と言われているこの土地の住民は 週末は 朝から外に出て食事をする傾向があり、美味しくてボリュームがあって値段が安い店という噂がつくものなら あっという間に評判になり、その日の売り上げが朝作られると言われるほどの忙しさになるのである。行列のできる喫茶店が登場したり、地元のレストラン情報誌などの、「モーニングがおいしい店」、というコーナーに挙げられるほどになる。
地下鉄などもなく、公共の乗り物機関が発展していない町だから 一世帯の車の所有台数が多いこの町の人間は、車でどこにでも行く。それこそ おいしいといわれる喫茶店、うどん屋、ラーメン屋などを求めて本当に平気で遠出をするのだ。
私と友人との間では「モーニングに行かない?」が合言葉であり、ちょっとしたドライブも含め、いろんなところに美味しいモーニングを求めて毎週のように出かけたものだった。
モーニングサービスというものの観念がすっかりできあがっている中、大阪や東京に出張に行った私は、ビジネスオフィス街にある喫茶店のモーニングサービスにひどく失望したのを思い出す。当時、半切れトーストとゆで卵とコーヒーで600円という値段に空いた口がふさがらなかった。地元だと この値段で 厚切りチーズトースト2枚、またはクロワッサンのハムサンドイッチとオムレツとサラダ、フルーツ、コーヒーがついてくるのに、と お気に入りの喫茶店のモーニングメニューを思い出しては悲しく比べたものだ。

あれから随分な年数が経ち、今はアメリカなんぞに住んでいるが、ここポートランドでも 私の出身地と同じ現象が起きていることを確認する今日この頃。
美味しいブレックファースト(訳:“モーニング”)を食べるために人々は色々な所から わざわざ出かけて行き、行列になっても 辛抱強く待ち、必ず目的の食事にありつくのだ。
私の家の付近にも ちょっと有名なカフェが2件ほどあるが、週末の朝は「うわー、2時間待ち?」と思うほど人が群がっている。
人間ってやっぱり食べ物が生活の中心であり、美味しい物のためだったっら少々のエネルギーもおしまないものなのね。
先週訪れたダウンタウンにあるMother’sもブレックファーストを目当てのお客さん達がわんさと入り口のところで群がっていた。45分待ちといわれたハビーと私。別に午後の予定が入っているわけでもない二人は粘って待つことにした。
私の地元の喫茶店と違うのは、なんといってもブレックファーストと一緒にカクテルのサービスがあるところ。シャンパンとオレンジジュースの“Mimoza”や、ウォッカとトマトジュースの“Bloody Mary”などを ゆったりとした休日の遅い朝に Refreshといった感じで頂く人が多い。
一日が始まったところで もう酒?と最初は驚いていたけど トマト色の飲み物に長いセロリが突き刺さり、オリーブやカクテルオニオン、そしてライムやレモンが添えられているBloody Maryがテーブルに運ばれていくのを見る度に、トマトジュース嫌いの私でも 「うまそ~」という気になってくる。
Mother’sでもテーブル待ちの人たちが それぞれ“Mother’s special Bloody Mary”を手に おしゃべりに花を咲かせていた。
いろいろな種類のオムレツのセットとコーヒーや オレンジジュース、ましてやカクテルなどを頼んでいると、決して600円で済むようなことには ならないけれど、たまには 時間に追われず、親しい人たちと気兼ねない朝食の時間を外で取る事のは とても 楽しいし、心のリフレッシュになるよね。
日本に居た頃のようには そう頻繁に外で朝食を取ることは なくなったけれども 私の美味しい“モーニング”探しはここポートランドでも絶えることはない。
テーブルにセットされたMother’sのオリジナルコーヒーカップのメッセージ“Call your mother”が 一瞬にして私を日本の故郷に引き戻した。一緒に生まれ育った幼馴染や親友、兄弟、そして両親。隣のテーブルに座っている大きなグループのように、私も大好きな人達とここで あんな風にテーブルを囲めたら、と ちょっぴり胸がきゅんとなるMother’sでの朝食の一時だった。



Kiki

Mother's Bistro & Bar
212 SW Stark St
Portland, OR
 97204
Phone: (503) 464-1122
Fax: (503) 525-5877

Posted on 夕焼け新聞 2007年7月号

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