1、2ヶ月前にハビーが あるレストランの批評の記事を見つけた。自分のワイフが日本人なので なんでも「Japanese」というフレーズに敏感になるハビーが 今回も近所に新しい「Japanese Restaurant」がオープンしたらしい、と興奮してその記事を押し付けてきた。
「Japanese Restaurant」の批評には細かく厳しい私は その店の名前を聞いただけで すばやく疑いモードに入った。“Yakuza”って、、、。
これはアメリカ人のみの経営で 日本人はビジネスに関係していないね。だって 日本人が「マフィア」とかいう名前の洋食屋を開店するようなもので、まったくズレているというか、滑稽さだけが浮き彫りにされて 旨いレストランとしての 説得力が失われる、日本人がオーナーだったら絶対付けない名前だね、と私は一揆に批評を並べ立てた。
ハビーが声を出してその記事を私に読んで聞かせる。若いアメリカ人達が日本食を取り入れた創作料理を提供、というような内容に差し掛かったところで 「ほらね!」と割り込む。貧乏人のくせに 日本人の握る寿司しか食べない、信用しない、と高飛車な態度の私は アメリカ人のシェフ達というところで 偏見が入り、その人たちによる“創作料理”に更に懐疑心が深まった。
今まで何度突拍子もない組み合わせの“頂けない創作料理”に出会ったことか。ということで 私の一方的な批評により、“Yakuza”は 一度は行ってみたい店リストに入ることもなく、あっさりと忘れ去られていった。
先日、普段は通らない道をたまたま車で徘徊していると普通の住宅地の中にとっても素敵な店をみつけた。「何この店は!?」と叫ぶ私。見落とした運転手のハビーは1ブロック先でUターン。店の前で停車して車の中よりジーっと観察する興味深々の夫婦。
計算された照明とモダンなデザインの外観と、スペースを大きく取った窓から窺える店内の様子により、新築のレストラン・バーだと判明。「なんて素敵なお店なの!こんな所にレストランができたなんて知らなかったわ!どういう料理なのかしら!」と興奮状態で看板を探す私に 私より視力の良いハビーが先に見つけて叫んだ。「ハッ、ここが“Yakuza”だよ!」「えっ!?」
ヤクザという名前の意味合いと店のイメージがまったく噛み合ってないことに不思議な感覚を覚えたが、おしゃれな見かけに魅了され 即座に 一度は行ってみたい店リスト入りとなった。そして たったの数日後に私達は本格的に味の批評をするべく戻ってきた。
上質の木材を効果的に、そしてふんだんに使用して作られたバーカウンターとテーブルが、落とされた照明とキャンドルの炎で美しく照りを放っている店内は、通りを歩く人々の目を強く引き付ける。しかし、外から見えないのが裏庭のセッティング。寿司のカウンターが裏庭に面して開放的に設計されており、裏庭のテーブルの赤い椅子が 日が落ちて薄暗くなると紅色に浮き立ち、モダンな中にも和の情緒を醸し出す。
なんて上品で美しいインテリアなんだ、と感銘のコメントを連発していたハビーと私だが、メニューに目を通して沈黙になる。さすが創作料理を売りにしているだけあり、一品一品の説明を読んでも 出来上がりの料理のイメージがまったくできない。ハウススペシャルの項目にある巻き寿司も 何が巻かれているかを読んでも、まったく味の想像ができないのだ。
ということで決断力のない二人は サーバーのお勧めする鰻のフライとアボカドなどを(忘れました)を海苔と白身魚で巻いた寿司、ハマチの細巻き、ホタテを細い麺のようなもので包んだ揚げ物、そして 牡蠣、ウニ、鶉の卵が入った酒ショットを注文することに。
最初に登場したホタテの揚げ物を口にしたと同時に、感銘のコメントが再び湧き上がった。「美味しい!」 いやー 味の旨さに驚いた。あっさりと上品で、そして 新鮮な素材を使っていることが舌でわかる料理なのだ。あっという間に 注文した料理を平らげた二人は、ハマチとマンゴが入った巻物を追加注文。これも未知の世界だったが 一口でハマッてしまった。
こうなったら全部注文して味見したい!と興味を掻き立てる料理達だったが、そうそう気安くなんでもオーダーできる値段設定がされていないので、ハビーと私には必然と出直しが強いられた。
ハビーがふと、「この店は昔君が説明していた日本のバーのコンセプトに似てるんじゃないの?」と一言。そこで私は まだ日本に行ったことのないハビーに一生懸命、居酒屋というものを説明した事を思い出した。
ああ そうだ!日本のコジャレタ居酒屋の感じがあるかも!
そう思うと Tシャツ、ジーンズにエプロンして せっせと働いているアメリカ人のお兄さん達が、何やら 居酒屋で働いている日本人の若者に見えてきたから不思議だ。
店を出た時、外の看板に“Izakaya”という文字を見つけた。なんだ、最初から居酒屋を意識して作ってたのね。値段も元来の“安い”というコンセプトに改善してくれると 私とハビーの行き付けの店になること間違いないのに。ヤクザな値段とまでは 言いませんけれども(落ち)。
Kiki
Yakuza
(503) 450-0893
Posted on 夕焼け新聞 2007年6月号
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