Thursday, March 24, 2011

おいしい話 NO.9「えびすさん探し」

ダウンタウンのホテルで働いているハビーは よく他州からやってくるゲスト達にポートランドでお勧めのレストランはどこかと聞かれる。ゲストの好むジャンルによって勧めるレストランは違ってくるけれども ほとんどが希望するのはホテルから徒歩の距離でいける範囲なもので、対外 決まった場所に自然となってくる。ハビーとしては ダウンタウン内だけでなく、NESEにもおいしいくて個性的なレストランは いっぱいあるのだから そういう所にも足を延ばして楽しんでもらいたい、という気持ち大なのだが、「この周辺で」というのを強調されると 対象する店が限られてくるので 面白くない。「もっと冒険心を持ってほしいね」と文句をつける。
そんな中、二人でサンフランシスコに遊びにいくことになった。出発の2,3週間前から ハビーがサンフランシスコからのゲストを捕まえては お勧めのレストランはどこかと逆質問を始めた。あるビジネス風のシャキシャキっとした女性が「ぜったいにこのジャパニーズのお店に行きなさい!スシはアメイジングで料理もスタニングよ」と非常に熱意を込めて教えてくれたらしい。
「ハニー、是非トライしたいレストランを見つけたよ!」帰宅したハビーは興奮状態。「Ebisuっていうとこでさ、場所は9thIrving。」ノートの端っこをちぎったような紙を私に見せる。
ダウンタウンのど真ん中にホテルの部屋を予約していた私は「え、どこ それ?ホテルの近く?」
Oh, I don’t know...」

サンフランシスコに到着し、ホテルにチェックインした二人は 市内のマップを広げ「Ebisu」探しを真っ先に始めた。「9thIrving9thIrving、、、。」二つの額を引っ付け合いながら ダウンタウン界隈を指でなぞる。9thはあるけれどもIrvingがない。
少しずつダウンタウンからサーチ範囲を広げていく。そのうちマップの隅々まで指が延びて行く。そしてついに 端っこの方に9thIrvingが重なる道を見つけた。
「なんか ここから随分遠くない?どれくらいかかるのよ。どうやっていくのよ。」ホテルから遥かに離れているかのように見えるその位置に目を落としながら落胆する私だが、ハビーはなぜか高揚としている。「こういう 普通の観光客が立ち寄らないような場所にあるというのが 逆に説得力があっていい!」

こうして、エキサイティングな大都会での週末は、郊外行きの電車に乗って始まった。閑静な住宅街を縫いながら緊張気味に辺りをキョロキョロと見回す。結局間違った通りで飛び降りてしまった二人は「こうやって 歩きながら知らない町を散策するのもいいもんだ」と誤魔化しながら数ブロック歩く。ようやくちょっとした賑わいのある角に差し掛かり、「Ebisu」の看板を発見。「あった!」

下町の家庭的な江戸前すし屋のような雰囲気の店内には、長いカウンターとテーブル78台、そして ちょっとした畳み部屋がある。カウンターに席を取り、出された熱々のお絞りで手を拭いながら一息つく。寿司職人が日本人かどうか探ろうとするのは 私のいつもの癖。と そこに「へい いらっしゃい!」と低いダミ声のオヤッさんが奥からのれんを押して出てきた。ハビーと私は目を合わせてニンマリ。
板前が手書きで書いた日本語の本日のメニューの中に 幻の「神戸牛握り」を発見。幻の、というのは、私が何度かハビーに生の霜降り牛の握りの話をしたことがあったものの、私の出身地の寿司屋以外で見たことがなく、しかも アメリカでお目にかかれるとは思っても見なかったから。
ニンニク醤油で頂く 表面焼きもしていない生の牛肉の握りは、トロのように口の中でとろけていく。うーん、ニンマリ顔が止まらない。子持ちシシャモやアンキモ、ナマコなども含め、ハビーも勇敢なチャレンジャーとなっていく。

タイミング良く5時半の開店と同時に入店したのは幸運だったようで、30分もしないうちに店内は満席となり、活気で溢れ始めた。どうやら巷では人気のお店のようではないか。こうして えびすさんを探す冒険の旅は100%の満足度と共に2重丸で終わった。残念なのは「今夜はEbisuでメシだ!」と行ける距離にないこと。でも もし またサンフランシスコに行くことがあれば、必ず戻って行く店であることは確か。それがたとえ滞在ホテルの周辺じゃなくてもね。

Kiki


1283 9th Ave
San Francisco, CA 94122

(415) 566-1770
Posted on 夕焼け新聞 2007年12月号

Thursday, March 10, 2011

おいしい話 NO.8「お弁当」


ダウンタウンで仕事をしていると、ランチの選択は沢山ある。モールのフードコートに行けば 10種類ほどのレストランが軒を連ねているし、ファーストフード店やポートランドならではのフードカートもあちらこちらに見られる。ちょっとリッチにゆっくりとランチを取りたいと思うなら おしゃれなカフェやレストランで白いクロスをかけたテーブルに席を着いて食事もできる。
毎日違うお店に行って 色々なメニューを試したい、とか、行きつけのお店を見つけて 常連となり おまけを時々は付けて貰えるようになりたい、とか、「お買い上げ毎にスタンプサービス」を早く貯めて タダで一食分を頂きたい、とか、誘惑はたくさんあって 楽しいもんだ。
が、それを暫くしていると 安月給が付いていかないことに 遅かれ早かれ気が付くものだ。
毎日 毎日 外でお昼を取っていると 例え一回に5、6ドルのランチでも、飲み物付けて、7、8ドル、おまけにチップを付けるとなると10ドルコースに平気で突入してしまう。
これを週5日、一ヶ月続けていると とんでもない金額に昇り上がってしまう。(実際の計算は怖いのでしません。)
もったいないからと 安くて腹持ちしないような物を買っても、持ち上がる空腹感が 午後からの仕事の大いなる妨げとなって 話しにならない。結局は財布を片手に小走りに外に出かけ、余分に何か買って来て、最終的にもっとお金を使ってしまったという結果になる。

そんな時、同僚がランチ時にさりげなくカバンの中からタッパーを取り出しているのを目撃して、目から鱗が落ちた体験をした。それは 正しく彼女の手作りの「お弁当」だったのだ。
朝炊いたご飯にふりかけ、昨日の夕食の残りのおかずに さっさっと焼いた玉子焼き、と簡単なものだが、それは立派なお弁当であった。
私は、今まで すっかり弁当という存在を忘れきっていた事にはっとしてしまった。
次の日 彼女はおむすびとインスタントのお味噌汁を持ってきていた。ちゃんと海苔は別に包んで、食べる時にさっとおむすびに巻いて食べる。そうすると海苔のパリパリ感を楽しむことができる。日本のコンビニのおむすびと同じアイデアだ。
すごいねー、と横から覗き込みながら感嘆の声を上げる私。
そして また次の日、彼女は食パンとスライスしたチーズ、ハム、トマトやレタスを別々に包んで持参。職場の休憩室でフレッシュなサンドイッチを作り始めた。大袈裟に関心する私に ただ挟んで食べるだけだから簡単よ、と答える彼女。すべては ランチ代節約から来ている行動なわけだ。
そうか お弁当を持ってくるというアイデアがあったんだ!そういえば、フードコートでも、フードカートでも 最近は「Bento」という物を販売しているサインが出ているぐらいだから、アメリカでも弁当の価値というものが見出されているのかもしれないし、また 日本を離れた日本人にその良さをもう一度アピールしているのかもしれない。
同僚の 涼しい顔して弁当を持って来ている姿に関心し、私も明日から弁当だなと思ったものの、そこには どうしても乗り越えられない難関があった。私のぐーたら癖。きちんと早めに朝起きて、もしくは前の晩におかずの用意をして、ということが、かれこれ 決意の日から数日立つが、一回もできないのだ。あれだけ 威勢良く家に帰り、ハビーにどんなにお弁当が素晴らしいものかを語り、厚焼き玉子とタコのウィンナー、そしてほうれん草の御浸しの入った日の丸弁当を作ってやると 吹聴したにもかかわらず、ハビーどころか自分にさえも作れていない。
唯一できたのは 炊いたご飯をタッパーに詰め、ごま塩をふりかける、ということだけ。結局おかずはフードコートで購入してしまった。

実家の母親にいまさらながらに感謝の気持ちで じーん。よくもまあ、毎朝せっせと、違うメニューのお弁当を彩りと栄養を考えて ぐーたら娘のために作ってくれたもんだ。
今はすっかり独り立ちしたとふんずりかえる私だが、お弁当の一つもしっかり作れないで、安月給を湯水のように毎日ランチに注ぎ込んでいては、賢い大人とは言えないのではないか。 
まず 私がしなければいけないことは、食料の買出しに行って 空っぽの冷蔵庫を埋めること、朝 お弁当を作る時間を計って目覚めること、そして 「明日から、明日から」と言い続けることを止めること!

Kiki


Posted on 夕焼け新聞 2007年11月号

Saturday, March 5, 2011

おいしい話 NO.7「手作りケーキ」

先日 ハビーのママが誕生日を迎えた。ポートランドより車で3時間ほど離れた小さな町に住むママが、今年はポートランドの息子の家で、知り合いカップルを招待し、パーティーを開きたいと言ってきた。
良妻で売っている私は心よく承知し、3週間前からそのパーティーの準備に入った。
まずはパーティー当日に仕事が入らないようにと 前もってスケジュールの調整から始める。できればパーティー前日も午後から仕事が入らないようにしたい。以前ママが興味を示していた本をインターネットで探し、当日までに間に合うように注文。プレゼントが本だけ、というのもナンだなー、と補足の品も考える。何かこれだ!と目に留まるものがないかとデパートやモールを歩き回り、最終的に Macy’sのジュエリー売り場で 様々なデザインを手に 1時間迷いまくって イヤリングとネックレスのセットを買う。ハビーの尻をたたいて しばらくしていなかった家の大掃除にとりかかり、空っぽの冷蔵庫を埋めるための買い物にでかけ、ゲストルームのベッドを作り、切れた電球を取替え、花瓶に花を生け、プレゼントの包装をし、と ハビーの両親と弟が到着する直前まで バタバタ。
まるで 正月を迎えるような万全なる準備の施しようだったが、ただ一つ、パーティー前日になっても心が決まらない準備項目があった。それは バースディーケーキをどうするか。お決まりのバタークリームのケーキをSafewayで買ってくるべきか、Baskin-Robbinsでアイスクリームケーキを選ぶべきか。どうもピンとこない。ここに住む多くの日本人の方もそうだと思うが、私は未だに あのドギツイ色のバタークリームケーキを心から楽しめない。私はやっぱり 日本風の生クリームと新鮮なフルーツの乗っかったケーキがいい。ここでそういうケーキが購入できるのは 中国系のベーカリーだろうか。そういえばFubonのモール内に一軒あったなあ。
パーティーに集まる人は皆バタークリームケーキで育ったアメリカ人で、私だけが生クリームに拘る日本人だということも忘れ、自分の好みに選択肢が偏っていった。
Fubonのベーカリーに買いに行くのもいいけど、それもちょっと芸がないなあ。ここは ひとつ 更に良妻ぶりをアピールすべく、手作りといくか?

手作り、と鼻息荒く言っているが、私はケーキを作るための道具を、でっかいオーブンと電動式泡立て器以外、何一つ持っていない。しかも あの繊細なスポンジを本番でパーフェクトに焼き上げることができるとは、いくら楽天家の私でも 思っていない。
やはり 2年前のハビーのバースディーパーティーに使った時と同じトリックを使うしかない。当時 持ち合わせの型で焼いたゆがんだ手作りケーキが、集まったハビーの友人達から大好評だったから 味の保証は間違いない。今回はグレードアップということで、ちゃんとした円形の型を購入して見栄えも完璧にすれば、ママどころかゲストも かなり驚かせることができるだろう。

Betty Crocker Supermoistのような市販のケーキミックスは、簡単で完璧なスポンジを焼くためには なくてはならない存在。Heavy whipping creamをパワー全開で泡立てて 理想の生クリームの固さに。 二層にするため、冷ましたスポンジに横からナイフを入れる。勘だけでナイフを動かすため 明らかに二層が均等に、そしてテーブルと並行に分けられていかないが そこは最終的には隠れるので深く落ち込まない。生クリームとスライスしたイチゴ、キーウイ、ピーチを敷き詰めて、トップのスポンジの層を上に乗せる。残りの生クリームでケーキ全体を覆い、Peddi Whipのような缶のホイップクリームで表面をデコレーション。センス良く 彩りよく果物を配置した後は、Betty Crockerのデコレーション用ジェルで仕上げのメッセージ書き。“HAPPY BIRTHDAY MOM

これがなんと素晴らしく豪華な見栄えなのである。私がママのためにわざわざ用意した“手作り”の作品だと知れば 感嘆の声はただただ高まるばかり。予想通り、ママや招かれたゲストの間で Wow!やOh My God!の歓声が飛び交った。そしてまた 味も悪くないもんだから 食べてる間も お褒めの言葉が止むことがない。お代わりの一切れに手を伸ばす人も出てくる。手抜きと言えども侮れない手作りケーキのパワー。

義理の母の誕生日会とデキた嫁の日は成功を持って終わった。ママからもひたすら感謝され、私の気分も上々。愛情がこもっていれば 何をとっても、それを取り囲む人々をハッピーにするもんだ。
というわけで、その日は 会場となった私とハビーの小さな家から、甘い香りと共に、たくさんの愛が溢れ出ていた。めでたし!

Kiki




Posted on 夕焼け新聞 2007年10月

Friday, March 4, 2011

おいしい話 NO.6「やっぱり焼肉」


先月シアトルに住む日本人の友人が家に遊びに来た。彼女は私がシアトル在住時代からの数年に渡っての良き親友であり、お互い相談しあったり、慰めあったり、尻を叩き合ったりしながら、いろんな荒波を乗り越えて来た良き同士でもある。
シトシトと冷たい雨が降るシアトルの冬を、イヴェントが多く独身には非常にキツイその季節を、深刻な鬱病にかかりそうな危機から乗り越えられたのは、彼女とおこなった「二人焼肉」があったからではないだろうか。

丁度 私の地元から友人が遊びに来た時に お土産として 出身県特産品の一つである私の大好物の焼肉のタレを2本リクエストしていた。“土佐郡大川村の焼肉のタレ、「謝肉祭」”。日本の実家で焼肉をする時は 必ずその焼肉のタレを近くのスーパーで購入していたものだけれど、ここアメリカで日本の小さな村の特産品など売っているわけもなく、大会社のエバラとかの焼肉のタレしか手に入らない。何が物足りないって 「謝肉祭」が打ち出す、あの擂った玉葱やリンゴやニンニクなどがたっぷり入り、じっくり熟されているんだろうなあ、と思わせる ドロっとしたコクのある食感が、サラサラ系のエバラのタレでは得られない、ということ。

めったに地元から人が訪ねてくることもない私は、この機をいいことにその友人に それしか思い浮かびませんとばかりに、そのタレを土産にしてもらうことを願った。
さて、念願の特別な焼肉のタレが手に入ったものの、その喜びを分かち合い、その美味しさに一緒に唸りをあげる家族や恋人がいなかった私。時期が悪いことに、ちょうどサンクスギヴィングやクリスマス、そして正月などのホリデーシーズンを迎えようとしている時で、よけいに 盛り上がりに欠けたというか、独り身の辛さを必要以上に実感してしまった。

やはり こういう時は、当然、同じく独り身で放浪している女友達に声をかけることになる。幻のタレが手に入ったという振れ込みで この親友をノセ、私の小さなアパートのベランダで、二人でBBQセットを囲んでの焼肉パーティーを開くことにした。
私の大袈裟なタレの前評価に親友の期待は高まるばかり。油でジュウジュウと音を立てる一切れのカルビをこのタレに付け、それを口にした時の彼女の第一声は まさに“喜声”であった。「うまーい!」
私も久しぶりの懐かしの味に恍惚感を味わった。「やっぱり これよ!」こってりと深みのある味で、とにかく 食が進むばかりで 止められないのだ。
肉、タレ、ビールのローテーションで 「うまい、うまい」という喜声を飛び交しながら 宴が酣となっていった。

というわけで どこの家庭のディナーに呼ばれることもなく、ロマンチックなデートの約束も取り付けられないまま、この親友と私は、その冬のすべてのホリデーに集合を掛け合い、2本のタレが無くなるまで、二人焼肉の宴をベランダで開き続けた。

あれから早くも数年が経ち、二人の状況は大きく変わっていったけれども、漂うニンニク臭と もくもくとする灰色の煙の中で分かち合った友情は、私がポートランドに移り住んだ今でも変わることがない。 
今回彼女が遊びに来た時に、久しぶりに懐かしの焼肉をしよう!ということになった。問題は例の幻のタレがない、ということ。あれっきり 地元から誰も訪問者を迎えていない私は あの大好物の焼肉のタレ、「謝肉祭」を入手する手段もなく、焼肉をすること自体からも遠のいていた。
すっかり焼肉モードに入ってしまった二人は、この際、エバラでもしょうがないか、ということで意見がまとまったものの、「あの焼肉のたれはうまかった」という名残りの一言を口にせずにはいられなかった。

私のハビーを交え三人焼肉となった今回、親友が茶目っ気いっぱいに「私たち二人、コレで厳しい独身の冬を乗り越えたのよ」と彼に一言。ひきつるハビー。腹をかかえる彼女と私。今では笑い話になっているけども、いや、当時からすでに笑い話ではあったけれども、彼女の一言にそんな時期もありました、と ちょっぴりしんみり。

あの2メートル四方のベランダから 芝生の生えた裏庭へとロケーションが変わっても、三人、そして いつか四人焼肉へと状況が変わっていっても、そこに焼肉のたれがある限り、彼女との友情と二人焼肉の思い出は いつまでも消えることがないだろう。

Kiki


焼肉のたれ 「謝肉祭」
大川村ふるさと公社(高知県土佐郡大川村朝谷)
0887ー84ー2201


Posted on 夕焼け新聞 2007年9月号