Sunday, April 10, 2011

おいしい話 NO.11「嬉しいみつけもの」

ある週末、ハビーと私には珍しく お昼ごろ すでに外に出ていた。たまにはどこかで美味しい朝食を食べたい、と話していても、実際なかなかシャキっと起きられない二人は あんまり朝から元気に出かけることはない。なぜか 食べ物が理由ではなく(!)、私の車のバッテリー交換という目的のために その日の行動が早くから始まっていた。
バッテリー交換なんか自分で簡単にできるよ、と軽く言い切ったハビーを信じて 最寄のRadioShackを訪れた。適応する商品を確認するためと、リサイクルの理由で古いバッテリーを持ち込もうと考えていたにも関わらず、駐車場がなかったのか なんなのか、不思議な事に 3,4ブロック離れた所にハビーの車を停めた私たち。いやー 車のバッテリーって結構重いのね。たくましいハビーに抱えてもらい 店までその数ブロックを歩いた。
新しいバッテリーを抱えて店から出てきたハビーが、額に汗を掻きながら近道を提案してきた。これはある意味 運命だったのかもしれない。来た道とは違う道を通ろうとある角を曲がり、その一角の通りを歩いていると 非常に美味しい匂いに突入した。
朝からなんにも食べていない二人は ちょっぴり狂乱状態で 頭をぐるぐる回しながら匂いの出所を探した。いったいこの美味しい匂いはどこから来ているの!? 結構殺風景で味気ない建物が並んでいるこの界隈にレストランらしきものは見当たらない。一件だけ 目にはいったレストランがあったが、閉店中。どこかのお家のお昼ご飯か?と思ってもそれらしき住宅もない。
警察犬よろしく鼻の穴を全開に広げ、フンフンと音を立てながらその匂いを辿っていくと、古いアパートのような 廃業になったホテルのような建物に行き着いた。その建物の入り口であろう両開きドアの片面だけが通りに向かって開かれており、美味しい匂いはそこから流れて来ていた。
看板もないし、まったくレストランがあるように見えないこの建物を調査するために、二人揃って汚れたガラス窓に顔を押し付けて覗き見行為に入った。私たちがそこで見たものは、地下室のような場所で たくさんの人々がテーブルを囲んで楽しそうに食事を楽しんでいる光景だった。宴会?寄り合い?共同食堂? これはもうこのまま帰ることはできないぞ。
開かれたドアから中に入り、階段を2、3段下りて 廊下を奥に入っていく。飾り気のない白い壁にがらんとした廊下。相変わらずサインなど何もない。右に曲がると奥からがやがやと賑やかな音が聞こえて来る。こっちだ。バッテリーを抱えたままのハビーの額から更なる汗が滲む。
まるで迷路に迷い込んだ後に、不思議の国の広場に行きついたかのように、私たちの目の前に色鮮やかな週末のフィーストが広がった。それはまさにシークレットを発見してしまった、という感じだった。
お皿を運んでいる人を呼び止めて、一般公開されているレストランなのか、と尋ねてみると、金、土、日の週末しかオープンしておらず、日曜日はブランチのみ、ディナーは予約のみで営業しているとの返答が。すっかり興奮しきっているハビーと私の心は一つ。さっそくテーブルをとってもらった。
ほとんどが、6人から10人用の大きな長方形のテーブルで、少人数の客達は 同じテーブルに一緒に座ることになるのだが、客層なのか、店内の雰囲気なのか、不思議なことに 見ず知らずの人とテーブルを共にすることが気にならない。
店内の賑やかさの一旦を担っていたのは今流行りのオープンキッチン。それもいいとこで キッチンとテーブルのあるフロアとの間に仕切りというものがまったくない。廃業になったホテルの(勝手な想像です)元調理場を再利用しているかのようの大きなキッチン。そこで料理をしている人はもちろん、そこに置いてある物が 床から天井まですべて丸見え。ここはキッチンの中にあるレストランだ、と言ったほうが当たっているかも。
地元の農家から仕入れたオーガニックの野菜や新鮮な肉に卵を使った料理は繊細だけれども ボリューム有り。私が注文した「フライドチキンとワッフル」のワッフルは外が香ばしく、中がふんわりとしていて、季節の果物のソースと共に頂き、最高に美味しかった。
Emailアドレスを入り口の紙に書いておくと、シェフから毎回違った週末のディナーメニューが送られてくる。それを見て メールや電話なりで その週末の予約をする、というのがこのレストランのシステムのようだ。人々が、文字通りアンダーグラウンドで、毎週こっそり集まっては美味しいものを食べていたのだ。
Simpatica、偶然にも、すっかり匂いに誘われて、思いもよらない素晴らしい発見をしてしまった。シークレット同盟の一員に加わったような特別感が沸いて来ると共に、誰かにすぐに教えたくなるような喜びも抑えられない。迷路も入って見ると 面白いことがあるもんだ。

ところでハニー、あなたの車どこに停めてあるか覚えてる?

隣の床に座らせているバッテリーをじっと睨むハビーの額にまた汗が光った。

Kiki

Simpatica Catering & Simpatica Dining Hall
828 SE Ash st.
503-235-1600



Posted on 夕焼け新聞 2008年2月号

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