Sunday, July 24, 2011

おいしい話 No. 23「ポットラックの意味」

「ポットラック」っていう言葉を知ったのは、本当にESL時代。Termの終わりにあの厳しかったGrammarの先生Annが、まだ英語がよくわかっていない生徒達をお家に招いてくれた時。ものすごい怖いオーラを出していたAnnなのだが、私は何やら興味を示しており、アメリカ人の先生のお宅拝見という、知らないもの見たさで、他の生徒と共にわくわくした。
そこで 「ポットラック」という新しいボキャブラリーのレッスンが始まった。由来の説明まで受けたかどうかは 忘れたが、とにかく会合に食べ物や飲み物を参加者がそれぞれ持ち寄る、ということ。その言葉の意味は 特別新しい事や珍しい事ではないはずなのに、さすが合理的で、公平さを主張するアメリカ人らしい趣向だと 関心したもんだ。世界各国からやってきたインターナショナルの生徒達が それぞれどんな文化料理を持ってくるか、ていうのが 実のところ狙いだったのかもしれない。本当にインターナショナルの生徒達が律儀に母国料理を作ってきたりしたら、ESLの先生って とってもおいしい職業といえるだろう。
と 言いながら、何を持って行ったらいいのか全くわからないまま当日が来てしまった。食べ物を持ち寄るっていうアイデアはわかるけど、お金と手間を掛けたくない、と思うと どうしても 気の利いた物が浮かんでこない。なんせ初体験なもんで 気も小さくなる。一緒に行く約束をしていたクラスメートの女の子と途中QFCを覗くことにした。スーパーマーケットの中をうろうろしてみれば、何かピンとくるものを見つけることができるかもしれない、ということで。
とりあえず 店内を一周してみたけど、これだ!という物が目に飛び込んでこなかった。美味しそうなものはあるけど、予算にあわなかったり、予算に合わせようとすると見掛けが貧相だったり。会合に集まるメンバーにご馳走を振舞う気もないが、明らかなケチ度が前面に押し出されないように気をつけなければならない、というわけだ。
悩みながら 空っぽの籠を手にスタート地点に舞い戻った時、アメリカサイズのスイカが山のように積み上げられて、赤札をつけてディスプレーされているのが目に付いた。1パウンド 39セント。友達と目を合わせる。表面を触りながらその大きさを実感する。軽く10人は食べさせられる。これか?
6月の半ば、スイカもいい時期だし、果たして何人の人達がアメリカにいて自らスイカなんぞ購入するだろうか。日本人は特に、キャンプやスイカ割りなど夏には欠かせないアイテムとして、子供のころから親しんできているわけだから、今 外国の地にいる彼らはこれを見てどんなに懐かしく思うことか、と他の日本から来たクラスメートを思った。よし、ウケも悪くない。
パンパンとその緑色に照る表面をたたいてみる。いい音だ。当てずっぽうで選らんだスイカを胸に抱えてレジに行く。スイカ用のネット袋なんかないので、底が抜けないよう プラスティックの袋を3重くらいにしてスイカを入れてくれた。その袋を持つ指にプラスティックがぐいぐいと食い込むのを感じながら 店外に出ると、太陽の痛い照りつけが直撃する。
友達に片方の取っ手を持ってもらい、二人でスイカを挟んで坂道を登り、バス停でバスを待ち、地図の説明書を片手に歩き回って、やっと Annの家を見つけるまでは、スイカなんて 自分の交通手段を無視した最悪の選択だったと後悔した。でも、私たちとその間にぶら下がるスイカを招き入れてくれるAnnと先に来ていた生徒達の丸々と見開いた目と共に、興奮の歓声を浴びた時は、「へへへ・・・」という照れ笑いを隠すことはできなかった。
正直、味に関しては あんまり考慮してなかったが、包丁を入れた時、スイカがはちきれんばかりにパリパリっと音を立てて、裂き目が走っていった。これは良い兆候だ。真っ赤に熟れたそのスイカはびっくりするほど甘かった。他の人が用意した品と被ることもなく、ケーキやクッキーなどと違う甘さのスイカは新鮮な喉越しを与えてくれて大人気。
ポットラック。自分の持参品がいつまでもテーブルに残り乾いていくこともなく、皆の手が延びて あれよあれよという間に売れて行くのを見るのが、一番の幸福、ということでしょうか。


Kiki





Posted on 夕焼け新聞 2009年2月号

Sunday, July 17, 2011

おいしい話 No. 22「Love Your Neighborhood」

2008年のクリスマスは 大雪のため どこにも出かけられなかった。クリスマス イブの朝、窓のブラインドを開けると、まだ がっつり積もった雪がすべての景色を真っ白にしたまんまで、「わーい これがホントのホワイトクリスマスだー」とワクワクしたけれど、同時に 「あれ、食料の買出し どうしよう」という不安も沸きあがってきた。

うちに2台ある車は山盛りの雪を被って ここ一週間使用されていない。チェーンはトランクに乗っかったまま。「どこにも出かけられなかった」というよりも、面倒くさがり屋のハビーと私は、チェーンを着けるという「大作業」をしてまで この大雪の中 どこかにドライブしようとは思わなかった、というのが真相。
が、しかし クリスマスだというのに、インスタントラーメンでしのぐのは味気ないではないか。なんとかして食料の買出しには行きたい。最初、某大型マーケットへ行くことを考えた。私のアイデアにノリの悪いハビーが、しぶしぶそこに行くまでのバスのルートを調べた。2本のバスが近くを走るようだが、今日は運行停止になっているという。ものすごい遠回りをするバスやMaxを乗り継いで 何ブロックか歩くルートならあるようだが、想像するだけでクタクタになった。 どうやら うちのNeighborhoodから出られそうになさそうだ。
そこで思いついたのが、歩いて20ブロックほど先にあるローカルのマーケットに行く、ということ。あんまり行くことのないそのマーケットの存在をすっかり忘れていた。うちとそのマーケットを繋ぐAlberta Streetにはバスが1本通っているから うまく行けばそれに飛び乗れる、という設定で、完全防備、リサイクルの買い物バッグを手に出発した。

見慣れたローカルの通りも、こうやって雪を被るとまた景色が違って見え、行き交う人々も この異常気象を楽しんでいるようだった。いつも行列が出来ているカフェやレストランも今日は、真の地元陣だけでゆったりと時間を過ごしているのが窓の外から窺えた。どこにも行けないAlbertaに住む地元人のために この通りの両側に立つビジネスがちゃんとオープンしているだ、と感慨。いやー、助け合いのコミュニティーとは いいもんだ。

そんなわけで 食料の買い物という大事なミッションがあるにもかかわらず、行く先々に誘惑の「オープン」サインが、私達を寄り道へと導く。まずは、炒ったコーヒーの香りと焼きたてのペイストリーの香りに誘われて、フレンチベーカリーに立ち寄った。クリスマスの朝に食べるペーストリーとデザートのパイを買い、試食用に出されたケーキのスライスを摘む。次は お茶好きな義理パパのために何か特別なお茶はないかと、ティーショップに入る。カウンターに立つお兄さんとお茶ッ葉についての語りに熱が入る。こんな雪の寒い日は やはり、暖かい部屋で映画鑑賞でしょう、ということで ビデオ屋に足を進める。3本借りると4本目はタダと言われて、店の隅で円陣を組み、真剣にDVDの選択が行われる。

朝食抜きで ここまで歩いてくるとさすがに腹も減ってきた。マーケットまで無事辿り着くには、腹ごしらえが必要、ということで、ハビーと私の行きつけのバーBinksに立ち寄る。ここのピザを考えると、もう食べないで通り過ぎるということは私達には不可能なのだ。このバーも普段は押し合い、揉み合いの混雑ぶりなのに、今日は近所の徒歩組みだけでリラックスした時間が流れていた。顔見知りのバーテンダー、Marthaが笑顔で迎えてくれる。毎回飽きもせず、同じみのグリークピザを注文。休みの特権だということで、午後1時、まだ果たされていないお使いミッションをビールで乾杯。

別にMarthaにビールを奢って貰ったからというわけではないが、自分のコミュニティーを愛することはいいことだなあ、と Binksを出た後、うまい具合に通りかかったバスに飛び乗りながら しみじみと思った。地元の人々とビジネスとの密着した相互関係がその町を強く暖かいコミュニティーにしていくんだな。そんなわけで マーケットに着く前にもう一軒、地元貢献の名の下に、リカーショップに立ち寄る。やっぱり、美味いウォッカ無しでは、雪に埋もれた長い夜は過ごせないでしょう。

Kiki



Binks
2715 NE Alberta St
Portland, OR 97211
Phone: (503) 493-4430


Posted on 夕焼け新聞 2009年1月号

Sunday, July 3, 2011

おいしい話 No. 21「食通の話」

ポートランドは ユニークで魅力的なレストランが本当に沢山あるところだ。ニューヨークから腕利きのシェフ達がこぞってポートランドにやってきて、新しいレストラン業なるものを打ち立て、クリエイトしていってる、なんて話しも聞いたことあるし、NWの新鮮な鮮魚、ローカルの野菜や肉、土地のキャラクターを主張するワインとビールの揃うポートランドは、シェフやレストランオーナー達の プロミスランドのような街なのではないか、と思ってしまう。
噂のお店をすべて 食べ歩きし、批評をしていきたいところだが、もちろん 自腹ではそんなことしょっちゅうできない。誰かが「おごってくれる」となった時に チャンス到来!とばかりに、胸元にずーっと暖め続けている「行きたい店」リストをこっそり見るのだ。これが あんまり知らない人だと このリストにあるファンシーな店の名を挙げるのに 少々ためらってしまうが、いかにさりげなくスマートに提案するかがカギとなり、この食い意地をあからさまに見せないワザが必要となる。しかし スイートなマイ ハビーが、「よおっし、特別だからディナーに連れていってあげる」なんて言った日には、一番大きくハイライトされたレストランの名前が遠慮なく提案される。
今回私が選んだのは NE にある「DOC」というイタリアンレストラン。ここもポートランドに数あるユニークな店のひとつ。まず、店の規模がとっても小さく、入り口を入るとそこはいきなりキッチンとなっている。右手には二人のシェフが料理に立ち回り、左手にはディッシュワッシャーのお兄さんが皿を洗っている。その真ん中で、「あのー 8時に予約入れてるもんですけど、、、」と 向かってくるサーバーに声をかける。そこから「Follow me!」と案内されるダイニングルームは半歩先。ダイニングにキッチンがあるというのか、キッチンにダイニングがあるというのか、とにかく、客とシェフが一つの部屋をシェアしている状態なのである。唯一奥にある一枚のドアは御トイレ用で、他は隠してるもの一切ナシ、という状態。それでも 白いテーブルクロスや、キャンドルライト、磨かれたグラスに注がれた赤ワインに しっとり流れるジャズと、ロマンチックな雰囲気はうまい具合にしっかりと演出されている。
満席の中、セットされた席は コモンテーブルで他の二つのグループと同席。一瞬二人用テーブルがよいなあ、なんて気持ちになるけど、座ってしまえば 何気に気にならない。人見知りをしないハビーが いつものごとく「それはナンですか?」と隣のご夫人に指を刺しながら聞くのもしょうがないと思える。しかしまあ、こんなロケーションの穴倉のようなところに よく人が集まってくるもんだ、と関心する。雑誌の紹介や口コミの影響力の強さは本当にあなどれないが、美味い店があると聞きつければ郊外の端まで駆けつける ポートランド人の根性はそうとうなものだ。レストラン側もクリエイティブ部門に力が入るというもんだ。
口コミの影響力といえば、そこに大きく加担しているのが うちのハビー。人にあそこの店はどうだ、とか ここの店はどうだ、とか語るのが大好き。そして、本人、他人からも簡単に影響される。「いやー 実によかったよ、あの店」なんて情報を得ようものなら すぐさま行きたくてうずうずする性質。
今夜も 同コモンテーブルに同席したカップルを相手に ハビーの強力な「お勧めレストラン」のトークが始まった。このカップルの男性も食好きを表していたが、ハビーが並べるレストランの名前に目を大きく見開いて聞き入っていた。行った事のある店から 行った事はないが良いらしいと聞いた店まで、相当なグルメ人を演じていた。この男性、「若いのにこいつは何者だ?」と思ったかもしれないが、妻の私も、年に1,2回こんなお値段のいい店に来れればいいくらいの経済状況で、よくもまあ その通ぶりが出せるもんだと、目がパチクリ。バックマージンが入るわけでもないのに、歩くConciergeとなり 人々にお勧めレストランを紹介することに情熱を抱くマイ ハビー。
私の行きたい店リストに入っていた「DOC」が、彼の必ず紹介したい店リストに移ったことは間違いない。こういう「知る人ぞ 知る」タイプの店は特に二重丸が入る。五つのコースからなる “Tasting Menu”に それぞれの料理に合わせた”half-poured wine” が私たちの選んだディナー。そして これが、ハビーの当店一押しメニューになることは間違いない。


Kiki




DOC restaurant.
5519 NE 30th avenue.
Portland, Oregon.
503-946-8592.

Posted on 夕焼け新聞 2008年12月号