Sunday, July 3, 2011

おいしい話 No. 21「食通の話」

ポートランドは ユニークで魅力的なレストランが本当に沢山あるところだ。ニューヨークから腕利きのシェフ達がこぞってポートランドにやってきて、新しいレストラン業なるものを打ち立て、クリエイトしていってる、なんて話しも聞いたことあるし、NWの新鮮な鮮魚、ローカルの野菜や肉、土地のキャラクターを主張するワインとビールの揃うポートランドは、シェフやレストランオーナー達の プロミスランドのような街なのではないか、と思ってしまう。
噂のお店をすべて 食べ歩きし、批評をしていきたいところだが、もちろん 自腹ではそんなことしょっちゅうできない。誰かが「おごってくれる」となった時に チャンス到来!とばかりに、胸元にずーっと暖め続けている「行きたい店」リストをこっそり見るのだ。これが あんまり知らない人だと このリストにあるファンシーな店の名を挙げるのに 少々ためらってしまうが、いかにさりげなくスマートに提案するかがカギとなり、この食い意地をあからさまに見せないワザが必要となる。しかし スイートなマイ ハビーが、「よおっし、特別だからディナーに連れていってあげる」なんて言った日には、一番大きくハイライトされたレストランの名前が遠慮なく提案される。
今回私が選んだのは NE にある「DOC」というイタリアンレストラン。ここもポートランドに数あるユニークな店のひとつ。まず、店の規模がとっても小さく、入り口を入るとそこはいきなりキッチンとなっている。右手には二人のシェフが料理に立ち回り、左手にはディッシュワッシャーのお兄さんが皿を洗っている。その真ん中で、「あのー 8時に予約入れてるもんですけど、、、」と 向かってくるサーバーに声をかける。そこから「Follow me!」と案内されるダイニングルームは半歩先。ダイニングにキッチンがあるというのか、キッチンにダイニングがあるというのか、とにかく、客とシェフが一つの部屋をシェアしている状態なのである。唯一奥にある一枚のドアは御トイレ用で、他は隠してるもの一切ナシ、という状態。それでも 白いテーブルクロスや、キャンドルライト、磨かれたグラスに注がれた赤ワインに しっとり流れるジャズと、ロマンチックな雰囲気はうまい具合にしっかりと演出されている。
満席の中、セットされた席は コモンテーブルで他の二つのグループと同席。一瞬二人用テーブルがよいなあ、なんて気持ちになるけど、座ってしまえば 何気に気にならない。人見知りをしないハビーが いつものごとく「それはナンですか?」と隣のご夫人に指を刺しながら聞くのもしょうがないと思える。しかしまあ、こんなロケーションの穴倉のようなところに よく人が集まってくるもんだ、と関心する。雑誌の紹介や口コミの影響力の強さは本当にあなどれないが、美味い店があると聞きつければ郊外の端まで駆けつける ポートランド人の根性はそうとうなものだ。レストラン側もクリエイティブ部門に力が入るというもんだ。
口コミの影響力といえば、そこに大きく加担しているのが うちのハビー。人にあそこの店はどうだ、とか ここの店はどうだ、とか語るのが大好き。そして、本人、他人からも簡単に影響される。「いやー 実によかったよ、あの店」なんて情報を得ようものなら すぐさま行きたくてうずうずする性質。
今夜も 同コモンテーブルに同席したカップルを相手に ハビーの強力な「お勧めレストラン」のトークが始まった。このカップルの男性も食好きを表していたが、ハビーが並べるレストランの名前に目を大きく見開いて聞き入っていた。行った事のある店から 行った事はないが良いらしいと聞いた店まで、相当なグルメ人を演じていた。この男性、「若いのにこいつは何者だ?」と思ったかもしれないが、妻の私も、年に1,2回こんなお値段のいい店に来れればいいくらいの経済状況で、よくもまあ その通ぶりが出せるもんだと、目がパチクリ。バックマージンが入るわけでもないのに、歩くConciergeとなり 人々にお勧めレストランを紹介することに情熱を抱くマイ ハビー。
私の行きたい店リストに入っていた「DOC」が、彼の必ず紹介したい店リストに移ったことは間違いない。こういう「知る人ぞ 知る」タイプの店は特に二重丸が入る。五つのコースからなる “Tasting Menu”に それぞれの料理に合わせた”half-poured wine” が私たちの選んだディナー。そして これが、ハビーの当店一押しメニューになることは間違いない。


Kiki




DOC restaurant.
5519 NE 30th avenue.
Portland, Oregon.
503-946-8592.

Posted on 夕焼け新聞 2008年12月号

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