Sunday, November 20, 2011

おいしい話 No. 36「女一人、バーにて。」

私もポートランドに暮らし始めて もう数年が経ち、お金が有る無しにかかわらず、様々なレストランやバーに出没して、行った事ない場所なんかない、かのようだけれど、やっぱり まだまだ甘ちゃんのようだ。毎日新しい店がオープンしているんじゃないかと思われるこの街の レストラン、バーの多さには 全く追いつけていない。
その大半の「行ったことのないレストラン、バー」というのが ホテル内で営業している店たち、ということに最近気が付いた。ホテルには大概 しゃれたバーや レストランがあるものだけど、いつも選択肢に入ってこない。なぜいつも「忘れて」しまうのだろう。
ひとつの理由はたぶん 7、8年前、最後に日本に帰った時に泊まったホテルのラウンジで カクテル1杯に1500円取られたことが、トラウマ的ダメージを私に脳に与えているのだと思う。ホテルのバー イコール 高い、という理由で自動消去されているようだ。
でも、最近 私の中で、レストランはさておき、ホテルのバーを見直そうブームが起きている。
ホテルのレストランの 高くて気取っているだけで、料理はまずい、という偏見はしっかり健在しており、それを覆す経験はまだしていないので、今だ評価の格上げはない。しかし、ここポートランドでは、どこで飲んでも基本的にバーのビール、ワイン、カクテルの味や値段に さほど変わりがないので、他の要素が評価の重要ポイントになるのだ。
ホテルは 旅のお客さんをもてなすために、落ち着いた、寛ぎのある雰囲気をコンセプトに造られているので、バーエリアも ゆったりとした空間を基本に壁の色調や 照明がデザインされている。そして 一回ズバっと座ってしまうと 旅で疲れた体をすっかり癒してくれる あのクッションの効いた贅沢なカウチたち。旅で秒刻みに走り回る客達も、バーエリアに入ると 時計がゆっくり回っているように感じられる。同じ場所を共有する他の客人たちも、騒がしいガキんちょ達でなく、場所をわきまえたアダルトな方々ばかり。カクテルサーバーたちも やんややんやと煩く、5分毎にやってきたりしない。ちゃんと時を計らって、ほっといてくれるのだ。
そして なんといってもホテルのバーのご賞味は、一人で何の引け目もなく飲めることだ。私ぐらいの大人な女になると 一人で行く 行きつけのバーのひとやふたつ持っていたいものだ。普通の飲み屋だと「寂しい女」「孤独な女」に映るところが、ホテルのバーだと違う。いや、日本のホテルのバーは情事の密会の場所というイメージがあるが(テレビの見すぎ?)、外国のホテルのバーだと、一人で飲んでいても、「タフな商談を取りまとめ、はーっと 一息つきに来たデキル女」だったり、「遅いフライトまで時間があるから その時間を使って仕事から暫し自分に戻っているデキル女」に映るわけだ。例え寂しい一人旅をしている女に見えても、「傷心」でありながら「燐」とした姿に見えるから 決してDesperateではないわけだ(これも かなりテレビの見すぎ?)。
ま、結論から言うと ホテルのバーはこういう妄想劇をかきたててくれて、一人でバーで飲んでいるという状況を 自分の中で 正当化できるわけ。これは場末のTavernじゃ無理な心理作業なのよ。
そんなわけで、近頃の私は Riverplace Hotelのバー、Three DegreesでWillamette Riverを窓越しに見つめながら、「商談で来たポートランド。ここに住んでいる友人と約束しているDinnerの時間まで、シャドネーを片手に、寛ぎながらも、今日の仕事を振り返っているデキル女」になっていたり、Hotel deLuxeのバー、The Driftwood roomで、マティーニのグラスを傾けながら、「今日が最後のビジネストリップ。部屋に上がる前に、バーテンダーと談話を楽しみにきたデキル女」になったりしている。
実際、現実として 私がどう世間様に移っているかは 不明であるが、ま、それはあえて気にせず、一人でバーに行ってみたい、でもちょっとその勇気がなーい、という女性にはホテルのバーがお勧めです。私のように 自分の妄想劇のテーマを持って行くことは あくまでも補足ですが、適用される場合は それに合わせて ワードローブを決めるのも楽しいでしょう。でも 間違っても、ホテル側に勘違いされて 追い出されるようなカッコウはしないように。

Kiki


Riverplace Hotel
1510 Southwest Harbor Way
Portland, OR 97201

Hotel deLuxe
729 SW 15th Ave.
Portland, OR 97205


Posted on 夕焼け新聞 2010年3月号

No comments:

Post a Comment