Tuesday, November 22, 2011

おいしい話 No. 37「ある一定の年齢に達すると、、、」

ある一定の年齢に達してしまうと、いろんな意味で 野心が失せて行くものだなあと、ある一定の年齢に達してしまった私は思う。美しさを追求するあまり トリートメントにパックにマッサージと1時間風呂を重ねる毎日。殿方に好まれたいと化粧に30分、ブローに30分、洋服選びに1時間かけていたあのエネルギーにあふれていた若き頃。脱いだらスゴイのイメージを頭に、高いスポーツクラブの会員になり、週に3回のジム通いを欠かさなかった闘魂の日々。
私の中での「野心」というのは まあ モテタイということに直結していたわけだけど、近頃の私は、10分のクイックシャワーに、5分のダッシュメークに、濡れた髪は自然乾燥の毎日。下腹の肉を掴みながら、これはどこからやってきたのだろうと他人事のように疑問に思い、吸引で脂肪を取るのはいくらかかるのだろうかと、安易な道を思案している。
まったく 野心のボルテージはゼロ地点まで下がってしまっているわけだ。
いったいナゼ。
「ハニー、またバスタブの排水溝が君の髪の毛で詰まっているよ!!」とハビーの怒り声が風呂場から飛んでくる。そうだ、このぬるま湯のように心地よい既婚生活が、私から緊張感を取り去っているわけだ。スイートなハビーに大切に守られている、婚活というものをもう2度としなくていい、という安泰感が、精神のゆるみ、身体のゆるみに繋がっているようだ。
でも ここからどうやって 若い頃のような緊張感のある生活に戻すことができるのかしら。こんなに優しいハビーがいるのに、外に向かって モテタイ野心を掻き立てるのもおかしな話だし、第一、世間の男たちは 既婚者と解ると 後ずさりし、そそくさと会話を終了に持っていこうとするではないか。プラス、ある一定の年齢に達すると、どんなにごまかそうとがんばっても、ごまかしきれない現実が、シワの間から滲みでてくるものなのだ。
結果、パジャマのままのカウチポテトなわけである。

そんなある日、気分を変えるに限る!と、とうとう重い腰をあげ、パジャマから 久しぶりに丹念に選んだ服に着替え、女友達と夜の街へと繰り出した。
年齢を聞かれても「二十、、、才!」と堂々と答えれた独身の頃は、バーで自分の財布を取り出す必要など全くなかった(という記憶)。今では 友達も私も年齢を聞かれると聞こえない振りをしたり、見た目と苦しいギャップが出ないところで年齢をごまかしたりする事を、全くに自然に行うようになった。それでも、私の薬指に 人の目を突き刺すように光る100キャラットの指輪(本人検証)を見ると、バーに群がるハンター達も 3メートル以内に近寄ってくる事はない。
ということで女友達と、もちろん二人きり、あるバーのテーブルで ひたすらしゃべる事に集中していた。会話にポーズが入るのはワインをすすっている時だけで、アルコールが補給されると、さらに勢いがつき、誰も間に割り込めない状態だった。
そこにウエイターが、突然、躊躇なく割り込んできた。「あの、あちらのカウンターの男性が、お嬢様方に何か御飲み物を買われたいとおっしゃっているのですが。」私たちのBullet Trainに急ブレーキがかかった。疑いの目でそのウエイターを見上げる私たち。頭が一生懸命、何が起こっているのか理解しようと奮闘している。ぽかんと口を開けたまま返事をしない私たちに ウエイターが再度、ゆっくり丁寧に同じセリフを言って聞かせた。
「あちらの方」と示された方に体を傾け、目を細めてその紳士を探す。微笑を浮かべ、軽く指先だけで合図を送ってくる 頭の禿げた50過ぎの男がいた。友達としばし顔を見合わせる。「それじゃあ 同じワインを頂くわ」と注文し、私達の会話は再起動された。
今度は 痺れを切らしたその男が自ら、私達の会話を中断しに来た! 薬指のサインもノープロレム。すっかり私達の席に居を構え、自分がどんなにサクセスフルかをアピールし始めた。友達が私の視線をその男の手に促す。さっき取ったであろう指輪の後がくっきりと薬指に残っていた。この男、秘めた目的を水面下に、しゃべりの「技」をフル使用。次のお酒も奢ると言って聞かない。遠慮なく、一番高いシャンパンを注文してみた。
ある一定の年齢に達すると、こういう状況を冷静に捉え、頂けるものは しっかり頂いて、上手にお暇することができるようになる。

家に帰るや否や、即座にパジャマに着替え、コメディショーを見ているハビーの横にぴたりと寄り添う。やっぱり、ある一定の年齢に達すると、これくらいの湯加減が、一番健康的である、という結論を出した。


Kiki



Posted on 夕焼け新聞 2010年4月号

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