Saturday, September 28, 2013

おいしい話 No. 75  「うちの猫」


うちには 15歳になるおばあちゃん猫がいる。猫にしてみたら長生きしている方なのかな。もともと、ハビーが産まれたばっかりで道路の路肩に捨てられているのを拾ってきたのが、始まり。白、黒、茶の三毛猫。(「三毛猫」ってそういう意味?)

ハビーは、「スパイク」という、オスに間違われそうな名前を付け、可愛がって育てていた。寝るのも、ご飯を食べるのも、テレビを見るのも、いつも一緒。ハビー曰く「She was my girl!」。でもスパイクが年頃になる頃、ハビーは違う町の大学に行くために実家を出た。スパイクを置いて。

実家に放置されたスパイクは だんだん野生化していった。日中はほとんど外に出て走り回ったり、狩りをしたりしていた(らしい。)朝晩のご飯時になると草村からのそりと姿を現し、夜はガレージの隅で身を丸めていた。時には3日間姿を現さない事もあった。旅に出ていたんだとか。

数年が経ち、ハビーが初めて私を実家に連れて行った。ママが ここ3日スパイクを見てないのよ、と言う。大丈夫、彼女は僕が帰ってくると 必ずわかるから、とハビー。すると数時間後、「ミャオ」と一鳴き、茂みからスパイクが現れた。大量に抜けた毛が背中で「スパイク」よろしく逆立ち、ゆらゆらと風になびいて揺れていた。23歩歩いて立ち止まり、ジッとこちらを見ていた。このワイルドな様相の登場が今でも忘れられない。ハビーが愛おし気にスパイクを呼ぶも、シラっとお尻を返し、また茂みの中に消えて行った。

She is mad at me」 

スパイクはハビーの居ない間にオトナになっていた。たまに帰ってくるオトコに、犬のように無条件には飛びつかない。フフン、と アンタなんか知らないわよ、とまずは一撃を与える。そして夜になると 喉を鳴らしながらベッドに飛び乗り、ハビーの顔を舐めまくり、傍らで横たわる。これにやられるらしい。「おおおぉぉぉ、スパイクぅ」

猫派ではない私は それを冷めた目で見ていた。

そして2年前、拒否のできない命令がママから下された。「アンタ達、いい加減にスパイクを引き取りなさい!」

繰り返すけど、猫派ではない私は、「えっ」と 詰まった。家は毛だらけになるし、散歩には行けないし、トイレは家の中だし。今までなんとかそこに話が行かないように避けていた。でも、もうYesと言うしかなかった。

一番喜んでいたのは もちろんハビー。今までの償いを返す勢いで、ペットショップに走り、スパイクのための家財道具一式を買い揃えた。キャリーバッグに詰め込まれ、3時間のドライブを経たスパイクがうちに到着した時は、かなりunhappyだった。家の中を低姿勢で歩き、各部屋を用心深くサーチする。一番安全だと決めた部屋の隅の椅子の下に居を構える。用意した餌も一嗅ぎしただけ。クッションの効いたベッドにも近寄ろうともしない。おもちゃのネズミ達も完全無視。「大丈夫、猫は自分の家だと決めるまで、少し時間がかかるんだよ」と、ハビー。アタシが心配しているのは カーペットにおっしっこされることなんだけど。

そのスパイクがのそりと起き上がり、用意してあった砂のおトイレに、よっこらしょと入り、チンと座っておしっこをした。まるでこのおトイレがずーっと彼女のものだったかのように。これには感動した。いったいどういうメカニズムが働いているのか。砂の桶が、トイレをする場所とわかるなんて!

室内猫になってから スパイクのワイルドさが削げ落ち、female catの可愛いさが表に出てきた。相変わらずドライなところはあるが、餌をせがむ顔や、窓から外を眺めている姿や、私の膝を膝枕にして寝る様子が 可愛くてたまらない。だんだん、自分の子供の写真を撮って 人の迷惑考えずに送る人になって行った。買ってあったベッドに初めて寝た時、庭先に出て雑草を食いちぎっている時、台所の床で身だしなみ悪く昼寝をしている時、近所のネコと睨み合っている時。いちいち写真を撮っては 仕事中のハビーに送ったり、友達に送ったりした。この間もスカイプで 全く言うことを聞かないスパイクのビデオメッセージを大阪の友達に送ったら、「見たで、親ばかビデオ」と返事が返ってきた。

未だ自分は猫派になったとは思わないが、妙な関係が出来上がってしまった。子供の変わりにはならないが、「守るもの」、「世話をしなければならないのも」として「親」的な心持になり、愛情が生まれて来た。ホント不思議な話だけど、うちの猫が一番可愛く見えるのよ。ほら、こうやってお腹丸出しにして 仰向けで びよ~んて伸びて寝てるところなんか。

 
Kiki

 

Posted on 夕焼け新聞 2013年7月号

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