Saturday, September 28, 2013

おいしい話 No. 76  「あくまでもビジネスマインドで」


先日読んだ日経ビジネス(2013.7.15)に、海外で日本食レストランの店舗が急激に増加しているという記事があった。通常の寿司や刺身以外にも ラーメンやカレーなど、世界中で いわゆる「大衆食」の人気度が上がってきていると。そして当記事が指摘していたのは、それらの成功しているレストランの経営は日本人によるものではない、日本人以外の手で、日本食ブームに火がつき加速していると。 

私は「確かに」と、読んでいた。なんちゃって日本料理が、正当な顔をして世に出てき、受け入れられてきている事は 薄々感じていた。外国人による日本食の「創作」料理や、「ずれた」味付けに対して、厳しく批判する私は、外国人による日本食のブームを 事実として語るこの記事に、困惑していた。

ポートランドでも ここ数年外国人によるラーメンの店が増えた。ラーメンの概念を取り入れていても、いくら麺が手打ちでダシの効いたスープと売り出していても、「違う」という旗が私の頭の上に立ち上がるのだ。

日本食の知名度が上がり、世界中の人々に愛されれるのはいいが、好き勝手にいじられた料理を日本食だと認知させていいのか!

そこはさすが 日経ビジネス、一個人の感情的な視点からでなく、きちんとビジネスの観点で見ている。ビジネスとして成功させるには、日本流をそのまま持ち込もうとしてはいけない。その国の人の好みに合わせた工夫が必要。臨機応変に現地のニーズに対応し、食材の調達などもコスト削減、効率を生かし、大衆向けのサービスを提供する必要がある。「上から目線ではいけない」と。

エッ、アタシ?

でもね、よーく考えてみたら 日本もそうとうヨソの国の料理をいじって、変えて、「日本料理」にして来た、創作の元祖なんだよね。「元々こんなんじゃなかった」海外から来た料理を 日本人向けに変えて大衆化して行き、「日本食」になっていたんだものね。本当におっしゃる通り、「正しい日本食」という観念で 外国人が作る料理を測ってはだめ。特にその外国に住んでるマイノリティーの日本人のアタシたちが。

よし、ここは心を改め、オープンマインドでBOKE BOWLのラーメンを食ってやろうじゃないの。BOKE BOWLは、まさしく この特集記事で取り上げられているような外国人によるラーメンのお店。完全なる先入観と偏見と過去の経験による想像のもと、行ってみよう、と思ったことがなかったが、今の私は受け入れることができる!

あのね、正しい日本食なんかないんだから。誰が作ろうと、どんな味がしようと、大衆に受け、人気があり、店が込み合って繁盛しているなら、それがビジネスとして成功している、ということなんだから。

BOKE BOWLのテーブルにつくなり、私は日経ビジネス受け売りのこのロジックを、連れて来たハビーに語り始めた。「だからね、私はここでそれが正論であることを体験し、認識したいのよ。偏見なしで!」 ハビーは、ふ~ん、と反応薄く聞いている。

注文した「Pork Dashi」のラーメンが運ばれて来た。醤油のように濃い黒とトマト色が混ざったような色のスープに白い麺。右の眉が吊り上がりそうになる自分を抑える。ハビーの「Shrimp Rice Bowl」が運ばれて来た。「なんでラーメン頼まなかったのよ。」 答えないハビー。

まずはスープをズズッと飲んだ。ハビーが私の顔をジッと見る。「違う」という旗が、抑えきれずに立ち上がる。麺を箸で解き、スープに絡ませてズズッとすする。麺はまあまあ、ま、こういう麺もあるからね。だけど スープがもうちょっとコクと深みがあったら。チョット違うのよ。このPulled porkもねえ。文字通り「上から目線」で器を覗き込みながら すでに心の中で不平を並べている自分がいた。

外国人のハビーにラーメンの味見をさせる。口をへの字にしてただ頷くだけ。「もっと食べていいわよ」と勧めても「Nah」と言って器を押し返してくる。

ハビーには「正しい日本食」を日頃から語り過ぎたかも。私のウンチクをすっかり受け継いでしまっている気あり。あんたの そのビビンバからアイデアを得たようなRice Bowlの方が美味しい、と言うと、「Well, the real Bibimbap is better」と「正しい韓国料理」を主張する。

お昼時、広い店内はたちまちお客で満員になった。日曜日に このIndustrial Areaで、この繁盛振り。いいよ。これでいいのよ。こうやって人気の店になり、ビジネスは成功しているのだから。コモンテーブルの端でヒソヒソと気難しいことを言っている二人組は無視していいのです。 


Kiki

 


Boke Bowl

1028 SE Water Ave.

Portland, OR97214

503-719-5698

 
 
Posted on 夕焼け新聞 2013年8月号

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