Monday, April 27, 2015

おいしい話 No. 96「Mystery Diner」

食べ物を見るのも、食べるのと同じくらい大好きなハビーと私は、Food Networkの番組を年中見ている。レストランの紹介番組から、20 - 30分間で勝負のチャレンジ番組まで、紹介される料理にヨダレを垂らす。暇な時は このチャンネル一本流しっぱなしで、永遠と見ていることもある。特に「オレゴンのポートランドにある」とか、「オレゴン、ポートランド出身の」いう紹介には、敏感に耳が立ち、座る態勢を整え、じっくり画面に集中しちゃうのだ。
先日もいつものようにFood Networkをつけっぱなしにしていると、「Mystery Diner」という番組が始まった。これはレストランやバーのオーナーが不信に思う従業員の真相を掴むため、Charles Stilesというその道のエキスパートを呼び、隠しカメラや偽従業員、偽客を使って捜査をする、という番組。
この番組が「オレゴン州ポートランドの」と紹介された。「このエピソード、ポートランドだよ!」と、ハビーを大声で呼ぶ。「Dar Salam」というイラク料理の店だとか。この辺ではまだピンと来ない。レストランの正面が映った。
あれ?
続いて、レストランの前の通りとその半ブロック先の四つ角が映った。
「あっ!これAlbertaじゃない!」
店の名前では わからなかったが、この数秒の映像で場所がどこなのかすぐにわかった。依然はクレープ屋だったけど 中東系の店に変わって、いつか行ってみようと話していたレストランだった。
こんな近所の店がテレビに出てるなんて! ワクワクしてきた。
Dar Salam」は ポートランドで唯一のイラク料理の店。この頃材料として仕入れた野菜などがよく無くなっている事に気づき、従業員の誰かが盗んでいるのではないか、という疑惑が出て来た、と言うオーナー夫妻。そして最近、店の目と鼻の先に、イラク料理のフードカートが出て、「Dar Salam」にしか売られて無いはずのMahshiという料理が売られている。それも「Dar Salam」で働く誰かと結び付いているのでは、という事だった。
そこに Charles Stilesが登場する。事情を聴いたCharlesは店内、店外に隠しカメラを設置し、店の隣の空き屋にFBIもまっつあおのモニター室を作り上げ、その別室から全ての動きを監視する。
少々大袈裟な構成だが、目が離せない。疑惑のターゲットはマネージャーと、二人の調理人。そして例のフードカートの男達。Charlesが自分のチームメンバーをシークレットダイナーとして、このフードカートに送る。そこで販売しているのは、「Dar Salam」でしか食べられないはずの、米や野菜を詰めた玉ねぎの料理MahshiIraqi Lamb Shawarmaのサンドイッチ。
Charlesから指令を受けたシークレットダイナーがそれらを全部買い上げ、モニター室に持っていく。「Dar Salam」のオーナーがそれぞれを味見して確認する。
Yes, this is our Mahshi and Lamb!
すごい、自分の料理がわかるんだ、、、。

カートが空っぽになり、商品が無くなった男が「Dar Salam」の脇の路地に行く。手に持っていたクーラーボックスをそこに置き、そのままレストランの中に入って行く。出て来たのはマネージャー。男とマネージャ—がテーブルの椅子に腰かけ、他愛の無い会話をする。その間、マネージャーが誰かにテキストメッセージを送っている。受け取ったのは、キッチンにいる調理人の一人。この調理人がTo Go Boxに新しいMahshiを詰め、路地に出て、男が置いたクーラーボックスの中に入れる。これが完了した事をマネージャーにメッセージで返す。男がテーブルにある二つ折りのメニューにキャッシュを滑り込ませ、レストランを去る。マネージャーはそのメニューからキャッシュを取り出し、自分のポケットに押し込む。カメラが全てを捉えていた!

疑惑の真相が明らかになった番組終了後、ハビーと私の心はイラク料理に心を奪われていた。
そして翌日の夕方、私達は「Dar Salam」のテーブルに着いていた。犯人と判明した従業員たちは即座にクビになったから今は居ないものの、あのウエートレスのお姉さん、見覚えない?なんて話しながら店内を見渡す。テレビに出てたのよね、、、。「Mistery Diner」に。
注文したのは モチロンそのまんまIraqi Dolma MahshiLamb ShawarmaLamb Shawarmaはサンドイッチではなく、Rice Plateにした。
いや~美味しかった! 初めてのイラク料理だったけど、「Authentic」な気がした。そりゃあ 盗まれてたまるかい、っていう話だわな。二人でシェアしても大満腹で、この良心的な値段。めったにポジティブな評価をしない私だけど、是非行って頂きたい。
不誠実な従業員をとっぱらい、宣伝の目的もきっちり果たした「Mistery Diner」。今回のエピソードもお見事でした。

Kiki

Dar Salam
2921 NE Alberta St.
Portland OR 97211




Posted on 夕焼け新聞 2015年4月号

おいしい話 No. 95「大事なエレメント」

ヴァレンタインデーに お友達から写真付きメッセージが送られて来た。彼氏に貰ったというスカーフは藍染の綺麗な和風スカーフだった。ちゃっかりウエブサイト付きで、お値段も公開。さすが、ジェントルマンで有名な彼氏、奮発してるなー、と感心。
まあ それはいいとして、このメッセージを受け取った時、あれ、私このブランドのオーナー、会った事ある、と思った。そういえば1年以上前、ポートランドで開催されたLocal shopTradeshowで、当ブランド、Kirikoがブースを構え、多くの客の関心を引き寄せていた。その時に一緒に行った別の友人が、オーナーと知り合いで、少し挨拶をしたのを思い出した。
オーナーの顔はあんまり覚えていないけれど、凄く勢いがあって、現代のハイカラ兄さん、という印象があった。Tradeshowのブースの構え方も、とても個性的だった記憶がある。古い和風のチェストやテーブル、皮のトランクなどを、一つの部屋のように配置し、絣などの生地で作られたスカーフやネクタイをセンス良くディスプレイしていた。
そうだあ、彼は日本人で、ここポートランドで起業したんだあ、とさっきまでiPhoneで観ていたお笑い番組から思考がそれる。アメリカで起業する人はミリオンといるけれど、外国人がそれをするってどうなの。はたまた日本人が独りでビジネスを始めるって、どうなのよ。マイクロソフトはガレージからその歴史が始まったけど、アメリカンドリームはもう神話ではないのか。Kirikoはゼロ地点から、大手の会社から発注の来る現在のブランドに至るまで、どんな道を歩んできたのか。

前に、日本で出勤前の講習会というのが流行っているっていうのを読んだ事がある。早朝にビジネスで成功している人達の講習会やレクチャーなどに積極的に参加し、自分の仕事やビジネスに対する鋭気を養ったり、気持ちを向上させたり、新しいアイデアのヒントを得たりするのだそうだ。
正に私にはこれが必要!と思った。最近のアタシはモチベーションが低下気味。成功している人の話を聞いて、気持ちをBoost upしなければ!(但し、早朝は無理。)

早速、そのオーナーの知り合いである友達に連絡。仲に入ってもらって、面会の約束を取り付ける。グータラのくせに、思い立った時の行動の速さは自分でも感心。3日後には Kirikoのアトリエにお邪魔させてもらった。

場所はチャイナタウンにあるCompound Galleryという、ストリートスタイルのファッションを集めたリテールショップの地下。階段を下りて行くと、まずは、あのTradeshowのように、アンティークの家具が心地よく配置され、Kirikoの商品が美しく飾られたショールームとなっている。そのショールームを抜けた部屋の真ん中は、接客用長椅子に、色んな生地が山盛りになったテーブルと、その向こうには、スタッフのワークステーションが並び、そして奥にはまた別のワークステーションがある。ちっちゃいアトリエ的な所を想像していたけど、結構広かった。
オーナーのKatsuさんは、やっぱりハイカラだった。元気に私を迎えてくれ、スタッフの皆にも紹介してくれた。椅子に腰かけ、私の四方八方からやってくる質問に、一つ一つきちんと答えてくれた。その間、彼はずっと手作業をしていた。“Boroというコレクション。いわゆる、襤褸布の端切れを継ぎ接ぎにした一枚の生地を膝に広げ、飛び出た織糸や縫糸を 一本一本ハサミで切り除いていた。日本が鎖国を行っていた時代に、国内での綿の価値が上がり、人々はどんな小さな端切れも大事に貯え、その継ぎ接ぎの布を次の世代へと残して行った。Kirikoのウェブサイトで知った歴史とストーリー。襤褸布が、Kirikoのブランドでは、とても貴重で、尊い物として取り上げられ、継ぎ接ぎの生地が、ただのリサイクル品ではなく、お洒落で、新しい物として扱われている。
Katsuさんが、仕上がったその生地を首に巻く。「どう、格好いいでしょう?」それはスカーフだった。

成功の秘訣をそこに見た気がした。それは、発信する側の「自信」。古い端切れをパッチにした一枚の布が、価値のある物である事を 自信を持って表現する事、生まれ変わったその新しい生地をずっと大事に使おうよ、とポジティブなテーマを提案する事。それによって、ブランドがクリエイトした価値観が相手にも伝わり、「格好いい」と思うようになる。欲しいと思うようになる。自分もそれを付けてお洒落な人に成りたいと思う。そういうブランディング。

百聞は一見に如かずとは ホントね。どんなに有り難いレクチャーを聞くよりも、現場で働く人の姿を見るのが一番だわ。私も なんか、「よっしゃっ!」て思った。自信のあるフリは上手いが、この「フリ」を 心の真ん中で揺るがない、本物の自信となるよう、錬磨していくぞ!




Kiki

Kiriko

Compound Gallery
107 NW 5th Ave
Portland, OR 97209



Posted on 夕焼け新聞 2015年3月号

おいしい話 No. 94「パッションのある仕事」

私は一生同じ仕事をしている人を 尊敬する。25年パン屋を経営しているとか、30年陶芸家をしているとか、大学卒業以来同じ商社に勤め、来年定年退職を迎えるとか、そういう話を聞く度に、すごいなあ~と思う。たとえそれが自分の大好きな職種だとしても、同じ仕事をやり続けるって、相当な精神力と忍耐力が必要なはず。そして やっぱりパッションかな。好きな仕事だったら、そういう山も壁も乗り越えられるんだろうな。逆に、好きな仕事でなければ、何度も立ち塞がるこれらの山や壁を乗り越えて、30年、40年と同じ職場で働き続けるエネルギーは 生まれないんじゃないかと思う。
と言う一方で、うちの近くの郵便局で働く、あるおっちゃんを思う。このおっちゃんは 私が知っている限りでも、同じ窓口に10年立っている。ここの窓口で10年はすごい、と彼を見る度に思う。彼の言動、行動を観察すると、接客はあくまでもマイペース。どーんなに長い行列ができていても、彼のまったりとした作業のリズムは変わらない。口調もワントーンで、そんなに愛想も良くない。必要以上にお客様を立てたり、気を遣うような対応もなく、規格外の事柄に対する臨機応変さもない。でも、「自分の仕事」はやっている。決して「大好き!」な仕事をしているようには見えない。定年まで、あと数年なんだろう。勝手に想像する。その時まで頑張る、と思って日々のルーティンをこなしているのかもしれない。家に帰れば、娘や孫達がいて、愛する家族には、ここでは見られない笑顔を見せるのだろう。守る物や責任があるから、ひとつの仕事を全うできるエネルギーが沸いて来るという事か。
先日、テレビでサッカーのカズがインタビュー受けているのを観た。監督になるオファーとか来るけれど、自分はプレイできるチームがあるなら どこにでも行ってずっとサッカーをやっていたい、「元サッカー選手」というタイトルは要らない、と言ってた。すごいパッション。現在でも現役と同じメニューのトレーニングを欠かさず行っているとか。ひとつの事で一流になるって、才能プラス、燃えるパッションをベースに、人を上回る努力は不可欠なようだ。

さて、私は何なのだろう。私の情熱や守る物は? 
やりたい事、只今模索中、って まだ言っててもオッケー?
自己管理が緩く、努力も程々で、持続性のないアタシ、こんな人間がなれるものは何?

営業でバンに乗り、お得先を駆け回っていた時は、高層ビルのオフィスワークが違う世界に見えた。オフィスのデスクワークの仕事に就いたら、接客するセールスがやり甲斐があるように見えた。セールスになったら、ギャラリーで決まった顧客だけを相手にする商売がカッコよく見えた。決まった顧客だけを相手にしていると、外に出て 見知らぬ人々にインタビューをするライターが面白いと思った。レストランなどインタビューに回っていると、そこで見かけるバーテンダーの仕事が、クリエイティブで楽しそうに見えた。

ひたすら色んな事に興味がある。
バーテンダー学校に行き、資格を取り、バーテンダーになって、今仕事が面白い!ていう話を、当時すでに15年美容師をやっていた女友達にしたら、「何をやってんのかわからない」と叱られた。まだ何も一本筋の通った仕事を見つけてないではないか、という指摘。
それを言われると めっちゃ事実なので反論はできない。ただ私は、興味がある事を実際に体験してみたかった。それに対する行動力と積極性は人一倍あり、必ずその職に就いてきた。そして「体験」してきた。確かにそれらの興味が、体験した事によって よっしゃー、一生の仕事にしたるぅ!というパッションには変わらなかったけれど、電信柱みたいな人生ではなく、そんな色とりどりの幅のある人生もアリじゃないの?と ちいちゃーい威勢を張り上げたくなる。

カズみたいにパッションがある人でも 郵便局のおっちゃんみたいに(一見)パッションレスでも、一つの事を何十年もやり続ける事は 並大抵の努力ではない。と尊敬しながらも、正直、圧倒されて、腰が引き気味になっている所があるかも。

でもね、諦めているわけではないのよ。アタシのサーチは続いている。待機中のパッションが、むくっと立ち上がるような、これだ!という物に出会えば、自己管理もきっちり、努力も惜しまず、持続性も保たれるはず! イイ男に出会うみたいなもんよ。見つけたら死ぬまで添い遂げるわよっ。

よく人は 好きな仕事をしている最中に死ねるなら本望!って言うけど、私もそういう人達の一人に成りたい。
私のお葬式で読まれるジョブタイトルは一体何なんだろう。ちょっとワクワク。

Kiki




Posted on 夕焼け新聞 2015年2月号