あっと言う間に、すっかり秋になっちゃったポートランド。味覚の季節になりました。味覚の秋と言っても、アメリカにいると旬のサンマやタケノコが身近な所で手に入るわけでもなく、栗拾いに行って栗ご飯を炊くわけでもなく。ファーマーズマーケットで一瞬現れる松茸を買ってきて、炊き込みご飯とお吸い物を作るだけ。しかも 一回きり。なんかバラエティーがない。芋も、スクワッシュも、カボチャも、秋だからと言って特別エキサイトするシロモノでもなく。
つまんないとぼやいている私に、友達が手作りのパイをご馳走してくれた。
ご近所さんの庭になる梨を沢山貰ったから、梨のパイを焼いてみた、と。
ああ、梨!
そう言えば、梨も秋の果物ではないか。そのパイは、大振りに切った梨とシナモンの風味が上手く絡み合い、素晴らしい秋のハーモニーを奏でていた。
美味しい!
旬の果物を使ったパイとは、甘い物をそもそも食べない私にとって論外の話だった。
これほどまでに秋を感じる食べ物があるだろうか!といきなり感動。
しかし、パイ作りからはほど遠い所にいると思っていた彼女が、こんなに美味しいパイを作ったなんて信じられない。私にとって家でパンやデザートを作るという事は立ち入り禁止エリアに無理矢理入ろうとする行為と同じだと思っていた。高いフェンスを一生懸命時間と労力をかけてよじ登った後、電動線で大火傷を負って無様な姿で転落する。だからそこは私のテリトリーではないとずっと思っていた。
特にパイ生地。材料はシンプルな癖に、そう簡単には成功できない。それが私のパイ生地に対する印象。パイ生地から自分で作らなけらばならないと思うと、もうそこで挑戦の意欲が無くなる。
「パイ生地はねー、Grand
Centralで買ってくるのよー。それでね、中身だけ作って入れて焼くだけ―。だから、実はものすごく簡単なのよー。」
どうしても彼女がせっせとパイ生地を練っている姿を想像できなかったが、納得。難関門のパイ生地作りをスキップしていたわけね。プロが作ったパイ生地を買う事ができるなら、そんな手っ取り早くて楽な事はない。一気にやる気が出て来た。
早速近所のGrand
Centralに出向き、例のパイ生地を買ってきた。すでに丸いアルミのパイ皿に生地が敷かれ、淵もキレイに山が作られていた。前出の友達から おすそ分けで貰ってきた梨とリンゴを袋から取り出す。自然に成った果物のいびつな形が、妙にチャーミングで良い。匂いを嗅ぎながら「秋だわぁー」とひたる。教えてもらったレシピで準備を進める。さあまた、私の新たな挑戦が始まるぞ。
せっかく貰ってきたのだから、梨もリンゴも両方入れちゃえ、と全部の皮を剥き、スライスする。白い砂糖の代わりにココナッツシュガー、普通の小麦粉の代わりにスペルト小麦を使い、岩塩、シナモン、レモンゼストと混ぜてミックスを作る。レシピにはこのミックスをパイに並べた梨の上にかける、と書いてあったが、スライスした梨とリンゴのボールに一先ず入れて混ぜる。それをパイ生地に並べ、バターのかけらをを点々と並べ、レモン汁をかけてオーブンに入れて約50分ほど焼く。
暫くすると、シナモンの甘い香りが部屋中に立ち込め始める。窓の外にはグレイな秋の風景、温かい部屋の中は ベイク中のパイの香り。これだけで、なんて、Cozyで幸せな気持ちになれることでしょう。夏が終わってしまった事は悲しいけれど、秋は秋でいいものよね、という気持ちになれる。
オーブンから出したパイは溶けたミックスと果汁が交わり、クツクツと煮立っている。うまそー。これを2、3時間寝かせて冷ます。私の人生初パイができた!(パイ生地作りはまたそのうちという事で、、、。)
昔の人は果物を焼こうなんてよく思い付いたものね。でも秋が旬の果物がわんさか成るのをどうするかで浮かんだアイデアなんだろう。そしてシナモンとの抜群な相性を生み出し、今では定番のデザートになっている。
包丁をいれて切り出した梨&リンゴのパイは、店で売っているかのような見栄え。そして サクッとした歯ごたえがまだ残る果物と完璧なクラストと甘いソースが上手くからまって、初めてとは思えない出来上がり。なんて簡単なの!
今度はこれにレーズンとクルミを混ぜて焼いたらどうだろう。それからちょびっとラム酒なんか垂らしてみて。そう思うとまたGrand
Centralに走りたくなる。いや、癖になるわコレ。デザート部門に新しいレパートリーが出来た。そんな喜びを噛みしめる秋の夜長である。
Posted on 夕焼け新聞 2017年10月号
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