いつからこんなにお酒好きになってしまったのかしらん。昔 父親の晩酌のビールを味見した時、こんなにまずいものをよく毎晩飲めるもんだ、どこが美味しいのかわからない、と思っていたのに、今では仕事の後や風呂上りは「まずはビール」と言って、ゴクゴクゴク、プハーッ、とやっている自分がいる。
すっかり父親(オヤジ)を模範する私になってしまったけれども、初めて社交の場で「カクテル」なんちゅうしゃれたものを口にした時は、アルコールと緊張でうぶな頬をぽーっとピンク色に染めたものだ。
青春時代に差し掛かった16歳、当時「フィズ」という得体のしれないカクテルが流行っていた。カキ氷に掛ける密のように甘くドギツイ色の濃縮液体で ストロベリーやピーチ、メロンやブルーハワイなどといろいろ味があり、ソーダ水で割るという飲み物だった。旅行中で両親不在の友達の家に集まった時、誰かがどこかで調達したフィズをみんなで作って飲んだ夜、大人の領域に一歩足を踏み入れたような気がして興奮した。
「お友達の家にお泊り」術を覚えた私が 友人と抜け出して出かけたディスコでは、マドンナのマテリアルガールを背に、気取って「メロンフィズ!」とウエイターに注文するのがお決まりになっていた。
18歳くらいになり、居酒屋なんぞに出かけるようになると フィズなんていうフェイクな子供の飲み物からは卒業、ということで ちょうど流行りはじめたチューハイに移行。カルピスハイに、レモンハイ、オレンジハイにコークハイとまたこれがバラエティー多くあるから楽しい。あんまりお酒の味もしないジュースみたな飲みやすさがすっかり気に入った。ビールのジョッキにでーんと入って出てくるのに安いのがまたいい。
二十歳を過ぎて、世間でいう「社会人」と呼ばれるようになった頃は、だんだん社会や人生の厳しさなんていうものに気付くようになってきて、接待で味わうあのビールの苦さも、ウイスキーのキツさも、これぞ人生の味だア、と言い聞かせながら ぐっと我慢して飲めるようになっていった。甘いものばかり選んで飲んでいられない、と悟ったわけです。
そうして 軽く風が吹くように 年も過ぎていき、「酸いも甘いも噛み分けて」といえる年齢になってきた今日この頃は、ビールやウイスキーが純粋に美味いと思うようになってきた。オヤジ化してきたと言われればそれまでだが、パールディストリクトあたりの おしゃれなバーでグラスを傾けている私を見ればそんな指摘は出ないだろう。
とにかく 一揆飲みの時代も終わり、上司やクライアントの圧力からも解放され、人気の女友達に対する憧れや、それによって発生するコピー意識も消滅した今では、自分の飲みたいものを、自分のペースで、楽しく飲めるようになってきた。お酒のチョイスも洋服のようにその日のムードで変わってくる。忙しく働いたその日の最後は もちろん冷たいビールに手が伸びるが、今夜はちょっと酔ってしまいたい、なんて時にはウイスキーの水割り、特別なディナーの前には ヴォッカのマーティーニなんかを頂きたい、てな具合。
そしてまた カクテル自体が、その日の私のムードを変えるときもある。Cheesecake Factoryの “Strawberry Martini”は 淡い恋をしているような とってもロマンティックな気分にしてくれるし、Andina Restaurantの “SACSAYHUAMÁN”はヴォッカに漬け込まれたハラピーニョの辛口が利いて情熱的な気分になるし、真夜中にVeritable Quandaryで飲む “Espresso Martini”は古いフランス映画のシーンの中にいるような気分にさせてくれる。
飲兵衛みたいに聞こえるかもしれないが、お酒って演出の小道具として、人生のいいエッセンスになっているような気がする。女友達と出かけても、同僚と出かけても、そして人生の伴侶であるハビーと出かけても、そこにお酒があるからこそ、話しに延々と花が咲いたり、真剣な話を腹を割ってできたり、ロマンティックな言葉が囁けたりする事もある。カクテルアワーは私にとって 非常に大事な時間なのである。
こんな風に 上手にお酒を楽しめるようになった大人の私は、次の日に昨日のことは覚えていない、とか、覚えているけど忘れてしまいたい、などと思うような事はなくなった。腕を腰においてしかめっ面をするハビーもしばらく見ていないもんだ。
「飲んでも飲まれるな」とはよく言ったもんで、飲まれるとおしゃれなカクテルもたちまち毒に変わり、いろんな意味で 喜ばしくない状況に雪崩れ込んでしまうので、要注意。いつまでも 美味しいお酒が美味しいままで、いいお友達がいいお友達のままでいられるような、そんな飲み方をしていきたいね。
Kiki
Cheesecake Factory
700 Pike St
Seattle, WA 98101
206-652-5400
Andina Restaurant
1324 NW Glisan
Portland, OR 97209
503-228-9535
Veritable Quandary
1220 SW First Ave
Portland, OR 97201
503-227-7342
Posted on 夕焼け新聞 2008年7月号
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