Sunday, May 29, 2011

おいしい話 No. 17「近所のバー・レストラン事情」

うちの近所に3年間放置されていた空き家があった。レストランのようなものを建てようとして 途中で計画が中止され、そのまま忘れ去られているような面持ちだった。引越ししてきた当時、大家から 最近その土地を誰がが買収した、という噂を聞いた。今でこそ 沢山のレストランやバーが立ち並び、賑やかなディストリクトになってきたが、たったの3年前は 暗く活気のない通りだったため、ハビーと私は、「お、これは歩いて1分もかからないところに いい店ができるかもしれない!」と喜こび、勝手な想像を膨らませていった。
やっぱり 酔っ払ってもふらふらと徒歩で家まで帰ってこれるからバーがいい。素敵なバーテンダーがいて、ゆっくり心地よく飲める場所だと、私たちの「行き着け」のバーになるに間違いない。近所にアナキスト系が集まるIrish barがあるが、そこは おしゃれでハイソな私のシーンではない。あ、居酒屋風日本食屋でもいい。ご飯は作りたくないけど ちょこっと日本食を摘みたい、もちろん飲みながら、なんていうのに、この場所はうってつけ! なんて 言っているうちに、その噂も いつしか火元が消え、3年が過ぎてしまった。
その間、ハビーと私は、「私のシーンではない」と言いながらも、やはり近所にバーがあることは 飲兵衛の二人には好都合なわけで、このIrish barで、破れたような黒い服に ごつい編み上げブーツ、大きな穴ピアスをした人達に混じって 普通に飲むようになった。

1年半前にうちの家の裏にあった中古車屋が立退いて、なにやらレストランのようなものが建設され始めた。今度こそ「私たちの店」が出来るかも!と興奮しながら、竹材を使ったり、大きな窓ガラスを入れたり、パティオを作ったり、といった建設過程を一緒に見守っていった。きっと今のブームに合わせたオーガニック系またはベジタリアンの食事を出すレストランかもね、なんて話していたが、蓋をあけてみると、ポートランドならではのヒップスター系チャリンコライダー達が昼間からビールを飲むために集まり始めるようなバーだった。これもまた 全く「私のシーン」ではなかった。音楽はうるさいし、バーメニューは少ないし、人が多すぎる。が、しかし、うちの12時に閉まるIrish barとは違って2時半まで酒が飲める。そんなわけで、夜中にふと ちょこっと一杯いきたいねえ、なんて時は、ハビーと私は、この新しいバーで ユーズドショップのヴィンテージ服にタトゥーをいたるところに見せる若者たちに混じって、安いウイスキーをすすっている。

そして 数ヶ月前、ついに例の放置されていた建物に人が出入りし始め、大掛かりな再建築が開始された。この新しいビジネスについての熱い予見討論が繰り返される。まず 第一に、もう近所にバーはいらない。もうちょっと違うタイプの客が来るような店がいい。ちょっとハイクラスなレストラン。静かで落ち着いた雰囲気のフレンチとか。この辺には まったく日本食がないから、(やっぱりまた)居酒屋とか、寿司屋なんてのもいい。かわいいベーカリー・カフェも嬉しいかも。私たちの 新しい店に対する期待は膨らむばかり。
工事は急ピッチで行われ、見る見る建物の造形が出来上がっていく。どうやら2階があるらしい。いや まてよ あの二階は吹き抜けになっているから、もしかしたら オープンデックになっているのかも。ガレージ風のドアも今時のデザインだよねえ。あれ、ここにもまた チャリンコ置き場が作られている、、、。こうやって観察に飽きない日々だったが、完成真近になって「Radio Room」というバー・レストランができることがわかった。
そして あっという間に オープンの日が来た。ウイスキーサワーだけで 偵察に入ったハビーと私は、店内、メニュー、客層をチェック。どれもが新品で、洗練されてはいるが、無理やりオープンしたという観がないではなかった。新しいサーバー達も慣れていかなきゃいけないし、メニューも当座のために作ったもので、もしかしたらそのうち本格的に変わるのかもしれない、そして 2階のデックも緑が足されて殺風景さが無くなっていくのかもしれない、なんていうことで 判定は1ヶ月後まで待つことにした。
「Radio Room」を出た時、通りを挟んだ向かいに、1年以上放置されて、新しいビジネスが始まるのを待っている空き地があるのが目に留まった。いったいこの土地にはどんな建物が建つのだろう。本当に またバーでないことを願う。できれば 居酒屋のような日本食屋が、、、。
「私たちの店」への思いは果てしなく続いていく。


Kiki



Radio Room
Alberta Arts District,
Alberta Street
Portland, OR 97211



Posted on 夕焼け新聞 2008年8月号

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