Sunday, October 23, 2011

おいしい話 No. 33「カオソイを尋ねて三千里」

人間というのは 自分の欲求を満たすために 果てしない努力をするものだ。人々はキャリアで成功して裕福な生活ができるようにと、日夜働きまくる。スポーツ選手は優勝のメダルを手にいれるために、永遠とも思われる練習に励む。幼い頃に母を失くしたマルコは、その母と再会を果たすまで、諦めることなく 苦難の旅を続ける。うちのハビーのカオソイ探しも、似たようなもんである。

真のカオソイをアメリカで見つけるまで、彼のそれを追い求める過酷な旅は終わらない。
タイ滞在中に、生涯に食べたことのないある料理に出会ったハビーは、帰国してからも、もう一度その一品に出会うために、なんとか本物に近い味をここアメリカで見つけるために、その探求の旅を始めた。
ハビーと出会った頃、幻のタイ料理の話してくれた。ヌードルスープなのだけど、普通のヌードルスープじゃない。カレーの味がするけれども、タイカレーでもないし、カレーうどんでもない。揚げた麺がのっかっているけど、もちろん 九州名物皿うどんでもない、と。私には その一品の想像がつかなかった。
アメリカではカオソイKhao SoiはPad Thai NoodleやGreen curryのように普及しておらず、タイレストランで見つけることはほとんど皆無だ、と当時のハビーは嘆く。通常Pad Thai NoodleとGreen curryしか頼まなかった私は、彼の悲痛な嘆きが全く伝わってこなかった。

そんな中、シアトルのBroadwayにある「Noodle Studio」(現在閉業)でカオソイがメニューにあるのを見つけた。アメリカで初めて見つけた!! そして、やっと私に伝説のその一品を見せることができる!ということで大興奮のハビー。運ばれてきた器に、こんもりと盛られた揚げヌードルを見てニンマリ。その喜び様は ヨダレが口の端から飛び出しそうな勢いだった。
箸をカレー色したスープにつっこんで掻き混ぜると中から卵麺が姿を現した。ズズズとスープをすすった後、ちょっと口をへの字に曲げながらうなずく。ズズズと麺をすすった後も またちょっと口をへの字に曲げてうなずく。「Yeah, it’s okey。 yeah, it’s okey。」を繰り返すハビー。私も片方の眉を吊り上げながら、味見の手を延ばす。なんとも説明できない味がした。
アメリカでカオソイを見つけることができたのは非常にナイスではあるが、何かが「Not quite right」だったようだ。
同じくBroadwayにあるRom Mai Thaiは、シアトルに住んでいた時の私のお気に入りのタイレストラン。アメリカでの カオソイとの初めての出会いに不完全燃焼なハビーは メニューに載っていないが、そこで働いているタイのお兄ちゃんに聞いてみた。すると、「もちろん知ってますよ。あなたのために特別に作ってあげましょう!」と軽快な調子でオーダーを取ってくれた。大喜びのハビーだったが、彼の情熱とは裏腹に、私はやっぱり その料理と味に強い印象は受けなかった。したがって、一緒になって追いかけ続ける思いなど生まれてこなかった。

ポートランドに移ってきて、暫くたったある日、パーフェクトなカオソイを見つけた!とハビーが大騒ぎで家に帰ってきた。DivisionにあるPok Pokがタイで食べたのと非常に近いカオソイを作るというのである。もうその頃には、カオソイと鼻息荒く語られても何のことを言っているのか、忘れていた私。
しかし、一度Pok Pokのカオソイを食してからは、まるでそのヌードルスープに初めて出会ったかのごとく、一揆に恋に落ちてしまった。そして ハビーの三千里の旅の後についていくようになってしまった。
Pearl districtのPeem Kaewのカオソイのスープはかなりいい味を出していたが、Pok Pokのように鶏肉を骨ごと煮込んだような深さが足りない。AlbertaのOne Thaiはスープが足りなく、麺が卵麺ではない。揚げ麺が多すぎてもダメだし、スープが少なすぎてもだめ。鶏肉は骨ごと時間をかけてスープと一緒に煮込まれてないとだめだし、カレー風味が強すぎてもだめ。
完璧への厳しい探求は続く。
同じくAlbertaのThai Noonはよく行くのに見かけたことがないと思ったら、オフメニューで注文があれば作るとか。高くて近寄らなかったSaim Societyもその一品をメニューに乗せていることを確認。BeavertonにあるRama Thaiの評判は高く、驚いたことにダウンタウンのSauseboxでも見つけることができる。
現在の時点で、Pok Pokが彼の言う本物の味に一番近いものを出しているとか。それでも「Not quite right」な評価を下す彼の旅は、果てしなく続いていく。

Kiki




Posted on 夕焼け新聞 2009年12月号

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