ポートランドはユニークな人やお店が多い街だなあと、いつも思う。人々の個性が強く、誰が何と言おうとも、どういう評価をしようとも、自分が信じたことを貫き通す、という特徴があるように思う。世間体とか、こうあるべき、という型を無視した、はっきり言って、もろ自由人の集まり。そして、自分たちのやってる事やアイデアは クールでイケている、という確固たる自信。
その不動の自信はどこから来るのだろう、、、。こちらが、明らかに「?」と思うような事でも、あちらさんの自信満々のトークとアクションに、こっちまで呑まれてしまうから不思議だ。
12月ともなると、町内のあちこちにクリスマスツリー屋さんが 空き地などに店を広げ始める。うちの二件先の空き地も、ある日クリスマスツリー屋さんと化して商売を始めていた。毎年ツリーを買って飾ってきたけど、今年はいいかなあ、なんて思ってたところに、引きずって帰れる距離にツリー屋さんができたもんだから、また今年もツリーを飾ろうか、という気になってきた。
日もすっかり落ちたある夕方、ハビーと二人でツリーの買い物に繰り出した。金網のフェンスで囲まれた小さな空き地内に、沢山のツリーがところ狭しと並べられ、色とりどりのクリスマスライトが、辺り一面、煩いくらいチカチカと飾れられていた。
ここは 一般の短期ツリー屋さんには見られない ちょっと変わった商いを広げていた。入り口を入ったところに 煌々とした照明付きのガラスのショーケースが置かれ、ガラス細工の何かが並べられていた。ナンだろうこの鮮やかな色の丸い物達は、と覗き込むハビーと私。
「ハロー ガイズ!それは地元のアーティストが作ったガラスのクリスマスオーナメントだよ!」と元気な声が横から聞こえた。声のする方に体を起こして目をやると、パーカーにジーンズ姿のお兄ちゃんが、バックグラウンドに流れるロックに乗りながら、大きな台の上で何かをこねていた。
この大きな台とは、貨物トラックの平らな荷台のような物で、タイヤが付いており、その上にはミニチュア版鎌倉のような、穴の開いた、こん盛りとしたものが乗っていた。ただそれは、雪ではなく土で作られており、中にはゴウゴウと火が燃えていた。
「ピザだ!!」とハビーが狂喜を発する。パーカーのお兄ちゃんがニンマリ笑顔で答える。私は「出た」、と 心の中で一声をあげる。
並べられたツリーの間を縫い、品定めをしている私の後を小走りに追いながら、ハビーが耳打ちをしてくる。「いやー、あのピザはなかなかおいしそうだよ。どうだい、ひとつ今夜はピザをディナーにするってのは。」
そこにツリーの向こうから お兄ちゃんの声が。「ツリーは20ドル。でも 値段交渉、大いに受けるよ!」
それなら、ということで、値切り担当の私は、選んだツリーを掴んで、「ピザも買うし、ツリーも小さいから、15ドルにして」と頼む。ロックにノリノリのお兄ちゃんは、あっさりOKを出す。しまった、10ドルと言えばよかった、と舌打ちする私。背後から、ハビーが嬉しそうに顔を出す。
さて、どんなピザが好きかい?と聞いてきたが、メニューがない。どんなピザがあるのかい?と聞き返すと、なんでもできるよ、ベジタブルでもミートでも!と返ってくる。「何が好きかい?」「ベジタブルもミートも好きなんだけど、、、。」「オッケー、君たちが好きなのが完璧にわかった。僕に任せて!」と言って、ピザの生地をこね始めた。
どういうこと?と思っている私の横で、ハビーは興奮気味。楽しみでしょうがない、という風だ。
一見怪しいが、ようく見ると、ピザ生地や釜、ピザを出し入れするシャベルみたいなヘラも本格的だし、出来たピザを取り出して切るまな板もマーブルだったりする。手作りのソースも釜に入れた後、甘く香ばしい匂いを放ち始めた。
12月25日が過ぎた後、このお兄ちゃんはどうするのだろう。この空き地で、ツリーをとっぱらった後も、ピザ屋として商売を続けるのだろうか。それとも新たな地を求めて、この釜を引っ張って旅にでるのだろうか。
降り始めた雨のせいか、電気がショートを起こし、突然回りの華やかだったライトが消え、ロックの音楽も止まった。私たちのピザが入った釜だけが、オレンジ色の火を上げて 暗闇に浮き上がった。
お兄ちゃんは 焦りもせず、ま、こんな事もあるもんさ、という態度で直し始めた。私にはありえない人生観とイディオロジーを持った人達。そんな人達が、ポートランドには溢れているように思われる。
Kiki
Posted on 夕焼け新聞 2010年1月号
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