Friday, January 27, 2017

おいしい話 No. 113 「ダイ・ハード ファン」


もう10年ほど前に、友人の取っていたクラスの課題で、ドキュメンタリーフィルムを作るというのがあり、その生徒達の完成作品を一般に公開するイベントに誘われ、E Burnsideにある映画館に観に行った。どれもこれもいかにもな、学生の作ったアマチュアフィルムだったが、ある作品に魅了された。その作品の出来とか質とかではなく、そこにフィーチャーされていた女性自身に。
彼女はStorm and the Ballsという名前のバンドのボーカルで、当時W BurnsideにあるDanteというクラブで演奏していた。そのフィルムはある夜のステージの模様と、彼女のインタビューを節々に入れるという、テクニックも何もない非常にシンプルな映像だったが、彼女のBoldnessが際立った。
インタビューで答える彼女は歯に衣着せぬ、オブラートも何にもない、正直でワイルドな女。そしてステージでは、怖い物無し、向かってくるならいらっしゃい、上等よ、という態度。彼女がステージで話をしていると客の携帯が鳴り始める。彼女はその携帯を客から取り上げ、自分が電話に出で、掛けた相手と話をする、というシーンが斬新で、強い印象を残した。
強烈なステージのappearanceに、あの態度。誰、この女―――!
そのフィルムがきっかけで、Storm Largeの存在を知り、私の追っかけ人生が始まった。
彼女の全てのCDを買い、Portlandのライブショーのリスティングをチェックしては、いろんなクラブに足を運んだ。パンクロックのパワフルでセクシーな歌声にノックアウト状態だった。ハビーも含め、色んな人を一緒にライブハウスに引きづり込んだ。
そうこうしていると、StormがリアリティーTVショー「Rock Star Supernova」に出演する事になった。オーデイションで選抜された15人が、毎週生き残りを掛けてステージ上で観客を相手にパーフォーマンスを行い、最終的に残った一人が、ロックバンド大御所達が結成したバンドのボーカルとして ツアーに出れるという番組。
なんでそこにいきなりStormが登場していたのか不明だが、National NetworkShowで、物おじすることなくStormらしいBad-assぶりを発揮し、Dave NavarroTommy Leeと対等に掛け合っていたのが痛快だった。That’s my girl! ハビーを横に無理やり座らせ、毎週欠かさず観ていた。
あと1週で最終週、というところでStormは落選してしまったけれど、Portlandに帰ってきたStormはすっかりヒーローだった。Stormのキャリアはここから一転したと思う。
Portland Center Stageがプロデュースしたミュージカル「Cabaret」に出演したり、映画に出たり、自分の実際の人生を元にした一人芝居のステージ「Crazy Enough」を上演したり。完売続きで終わったPortlandでのショーの後は、NYOff-Broadwayでも上演する事になった。その後「Crazy Enough」という同題名の自叙伝を発売し、Oregon SymphonyPink Martiniとも共演するようになった。
無名時代に金の卵だと見出し、追いかけ回しながら 彼女が成功していくのを見る事は嬉しかったが、「成功した」という地点に立ってしまうと、なんだか温度計のメモリがじわじわと下がって行った。
それから数年、Stormと私は別々の道を歩んでいた。

今年の夏、Portland Zooで行われた野外Summer ConcertStormと再会した。彼女のステージを見た瞬間、私の熱が再上昇した。彼女はすっかり「成長」していた。皮が剥けて、さらに大きな存在となってステージに立っていた。あの口の悪さと、怖いもの知らずの態度は健在だったが、歌い手としての幅がぐぐぐーんと広がっていた。やっぱりStormはスゴイ。
その後すぐ、彼女の自叙伝「Crazy Enough」を買って読んだ。Storm Largeはステージネームじゃなくて、本名。精神を病んだ母親とDealしながら ストームよろしく破天荒な人生を生きて来た。彼女のExtremeな人生が、強靭な精神を作り上げたのか。どんな状況であろうと、相手が誰であろうと、自分を折り曲げる事はしなかった彼女。それが絶対の強さとなって彼女の芯になっている。

再びストーカーに戻った私は、彼女の活動を調べた。9月にSeattleでコンサート。出動可能範囲ではないか。即座にチケットを購入し、仕事を午後から抜け、ハビーを車に押し込み、Seattleまで走った。一番新しいアルバム「Le Bonheur」を大音量で聴きながら。
Triple DoorでのStormはシャンソンからジャズ、スパニッシュからフレンチまで幅の広さを見せながら、昔のパンクロックの乗りも合わせて、とても素晴らしかった。ショーの後、ロビーに出て来たStormとハグをした。10年前にあのアマチュア ドキュメンタリーフィルムで見つけたStormと今ハグをしているなんて。
自叙伝によると、あのフィルムを見た人がいたから、例のリアリティーTVショーに出る事になったとか。私だけでなく他の人にもStormの黄金の光が見えていたんだね。

これからも彼女の動向をしっかり観察していくつもり。一ダイ・ハード ファンとして。


Kiki


 Posted on 夕焼け新聞 2016年10月号



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