Saturday, October 1, 2016

おいしい話 No. 112  「ウォーキング」

バランスの取れた食事と共に、エクササイズは心と身体と脳の健康に欠かせない!と人に言い続けているが、当の本人、LA Fitnessも解約したし(何故ジムって行かなくなるんだろうね)、Barre3も金欠でクラスのチケットを使いきった後更新できてないし、としばらくエクササイズから遠のいていた。
いかんっ、これじゃあいかんっ!
急に焦りの気持ちが沸いてきた。
お金を使わないで、効果的なエクササイズと言えば、ウォーキングだ。歩く事って、走るよりもいいらしい、と聞いた事があるぞ。とにかく、今日は天気もいいし、よし、歩こう!と、思い立った。
エクササイズと言える距離となると、どこまで歩くか。最近開発が進んで、栄えてきているN Williams辺りをCheck-outするつもりで行ってみるか。うちから往復で1時間ぐらいと推定。まあ、いい距離だろ。準備をしながら 同じくサボりモードになっている友達にけしかける。「アタシ、ちょっと歩いてくるわ。この美しいボディーを維持しなきゃいけないからさ。」たぶんゴロゴロと寝転がっていたであろう彼女は、飛び起きて「私も行くぅっ」と駆けつけて来た。

今日は気温もマイルドで、気持ちのいい風も吹き、なかなかのウォーキング日和だ。山や森林のハイキングもいいけれど、街中を歩くのも好き。夢の一軒家に思いをはせ、サイドウオークから並び立つ家々を品評するのも楽しいし、新しいショップやレストランを発見するのも面白い。車だと見落としてしまいがちだけど、ウォーキングだと 歩く歩調でストリートの様子が伺える。

二人でぺちゃくちゃと喋りながら 歩を進めて行くと、あっと言う間にN Williamsに差し掛かった。右を見ても、左を見ても、コンドやアパートの建設が盛んに行われている。このメインの通りを北に上がり、折り返して来よう、と決めた。こんなお店ができている、あんな店ができている、なんて一件一件窓から覗きながら歩いていると、ニューオリンズ調の軽快なジャズの音楽が聞こえてきた。「EAT Cajun Kitchen & Oyster Bar」から流れて来ている。全開になった店の入り口から中を覗くと、ジャズバンドが生演奏していた。オープンテラスのテーブルで、ブランチに集まった客達が身体をリズムに乗せながら楽しそうに鑑賞している。「いいねえ、この曲。」思わず足が止まり、歩道につっ立ったまま聴き入る二人。気が付いたら1丸々聞いていた。次の曲もリズム感のある曲で、席に座っていた女性が立ち上がり、マイクを持って歌い始めた。上手い。その歌いっぷりとパーファーマンスは、メンバーなのか飛び入り参加なのか判定しかねるほど、自然にそのシーンにハマっていた。やっぱ ジャズはこの即興性がうまみなんだよね、なんて知ったかぶる。
あまりの演奏の素晴らしさに魅了された二人は、立ちっぱなしもナンだからと、そのレストランのテープルに腰を掛ける。サーバーが注文を取りに来た。
「シャンパン2つ。」
「あ、フレッシュオイスターもダースで。」
あのぉ、エクササイズはぁ? 全く典型的な私達。簡単に意志は妨げられる。「カンパーイイ!」すっかり本来の目的から脱線した二人は、陽気に身体を揺らしながら 演奏に聞き入っていた。すると、「あれ、あのサックス吹いている女の子、日本人!?」と、バンドの中の日本人らしき女性に目が留まった。生涯ジャズをやってます的な黒人のおっちゃんの横で、チンと座ってサックスを吹いている。本当に日本人だったら、スゴイ。たまに色んな場所で、スゴイ事やってる日本人を見るけれど、ここにもいたか、という感じだった。バンド演奏が休憩に入った時、彼女のところに行き、声を掛ける。本当に日本人だった。ポートランドに数年、本職の傍ら、自分のパッションである音楽活動をこのジャズバンドと共に行っている。「行き甲斐です。楽しくてしょうがないです」と言う彼女。「おおおおー」と感銘を受ける私と友人。
私は楽器を演奏できる人をいつも尊敬するが、楽譜なしで、即興演奏をするジャズバンドにいる演奏者は10倍尊敬する。そこに涼し気な顔をして演奏している彼女、計り知れません。
彼女曰く、あのベテラン風黒人のおっちゃんは Reggie Houstonという名前で、地元のジャズ界では尊敬される存在だとか。彼女はReggieと共に、「EAT」の他にも、「Tapalaya」や、「Cannon Rib’s Express」で定期的に演奏する傍ら、様々なイヴェントにも登場しているよう。
なんという発見でしょう。本当に、たまには街も歩いてみるもんだわ。素敵な事やってる日本人に出会うとこっちも嬉しくなる。
いやあ、今日はいい日だったね。エクササイズと いい音楽。
シャンパンを飲んだ後ろめたさとアルコールは、ここから家まで、後半のウォーキングでふっ飛ばすのだ。




Posted on 夕焼け新聞 2016年9月号



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