Friday, December 23, 2011

おいしい話 No. 41「クチコミの威力」

ポートランドでは わかりやすい繁華街の中や、ヒップで注目のエリアでなく、「こんなところに??」と思うような場所に レストランや バーを見つけることが多々ある。住宅街の中に一件ぽつんと看板を出していたり、ここは立地条件悪いでしょ、と思うような忙しい、または全く忙しくない交差点付近に小さなドアを構えていたり。まさに「クチコミ」という伝がないかぎり、商売なりたたないように見える場所にある。
そういうお店は、たいがい、その存在感もはっきりせず、通りから中の様子がわからない作りになっている。営業しているのか、していないのか。客が入っているのかいないのか。中の様子が外からでは まるでイメージできない。ドアを押して 一歩踏み入れるのはとても勇気のいることで、ガラ空きで従業員が退屈していたり、居心地の悪い客層だったりしたら、もうどうしようもなくなってしまう。それゆえ、誰か もうすでに行ったことのある人の推薦状と、その推薦者本人同伴でないと、なかなか行きにくいのである。
しかし、しかし、こういう、ビジネスをするには立地条件の悪そうなところにあるお店は、ユニークで個性的な特徴を持っていることが多い。店の小さな表構えとは対照的に奥行きが広かったり、かわいらしいガーデンパティオが裏庭にあったり。どうしてまた こんなに沢山の客がこの店のことを知っているのだろう、と不思議に思うほど店内が賑わっていたり。おしゃれでセンス溢れる内装だったり。 表からはまったく想像がつかない、いきいきとした雰囲気がクリエイトされていたりするのだ。一種の隠れ家的な要素と、他に知られていない、という優越感が、一度来た客の心を掴むのだろか。

NEのMLK通りにある「ALU」もそんなお店のひとつ。交通量の多い直線の道路の脇に立ち並ぶ建物の中に ある日突然看板が立った。車で通り過ぎる際に目をやっても、「ALU」という文字だけで、何のビジネスかは、わかりにくかった。人の出入りを見ることもなく、中の様子が見て取れるわけでもなかったので、少しの興味はあるものの、毎日の通勤で 目をやるだけで終わっていた。
そんな時、クチコミが私のところにも回ってきた。実はワインバーらしく、ワインにあったしゃれた料理も出す、とか。すでに何回か行ったことのある友人が、一緒に行こうと誘ってくれた。同伴者獲得!ということで ある日の夕方訪れてみた。
私の車窓から見たイメージでは、外に階段があり、それを上がった二階に入り口がある、と思いこんでいた。店の前で待ち合わせをした友人が、「さて、階段は、と、、、」と、どこかに行こうとしている私を引きとめ、「ここから入るのよ」と、ずーっと ガレージの入り口だと思っていたグレーのシャッターを指差した。そしてそのシャッターはガラガラと上に引き上げる戸ではなく、映画などで、隠し部屋に入る時に見る仕掛け扉のように、その戸を押すと回転して開くのだ。何回か来たことのあるこの友人がいなければ、入店は不可能だったと言い切れる。
一歩踏み入れると、美しいインテリアで施されていた内装が、外の世界を瞬間に忘れさせる。古いヨーロッパ調のソファーとテープルがゆったりと並べられ、落ち着いた照明がそれらを照らし、ビロードの朱色がきらめいていた。
二階に続く階段を上がると、カジュアルだけど落ち着いたダイニングエリアが広がる。バーを横切り、裏口にある扉を抜けると、パラソルとテーブルを並べた ガーデンパティオがあった。
誰があのシャッターの奥に、こんな世界が広がっていると想像するだろうか。
こうやって 賑やかにパティオでワイングラスを傾けて楽しんでいる人達も、クチコミ、同伴がなければ、ここの存在を知る由がない。

ここで私の関心が向けられたのは、一見レストランやバーとしては利益を得られそうにない物件を選び、設備投資をするオーナー達だ。彼らのビジネスに対する決断力と大金をつぎ込む肝っ玉の太さである。このオーナー達が、20代後半や30代前半だったりするから、もっと驚く。そして それが彼らのクールなところなのか、決して飲み放題の旗を振ることもなく、派手な電飾を外装のいたるところに施すこともなく、あくまでも ひっそり感をキープしている。

こういうタイプの店は、人々の話題にならず、半年や1年以内で消えていくのも多いが、クチコミ効果が高まり、雑誌に取り上げられるようにまでなり、さらに商売繁盛に繋がっている店もある。
なんにせよ、結論は、「お客様は神様です」。良いお口で語ってもらうには、店も人間も内側のプレゼンテーションが大事ということなのね。


Kiki

Alu Wine Bar and lounge
2831 NE ML King Jr. Blvd.
Portland, OR 97212
(503) 262-9463



Posted on 夕焼け新聞 2010年8月号

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