Sunday, December 11, 2011

おいしい話 No. 40「アメリカ食文化」

アメリカに来るまで 味わうことのなかった食べ物、飲み物というのが沢山ある。元彼が野球観戦の時に必ず手にしていた「ドクターペッパー」と「チリドッグ」、ホストのママに持たされたとクラスメートがランチとして持って来たた「ピーナッツバター アンド ジェリーサンドイッチ」、風邪を引くと魔法の薬のように出された「キャンベル チキンヌードルスープ」に、誰かの誕生日に呼ばれると必ず並べられている チョイスなしバタークリームのみ、カラフル カップケーキ。そして サンクススギビングのターキーに添えて出される「クランベリーソース」。あるお宅に呼ばれ、それが缶詰めから盛られたジェリー状の物だった時は 完全にデザートだと思っていた。

私にとっては、数々の衝撃的な出会いだったわけだが、アメリカ人の日常生活に普通に存在しているそれらの食品は、子供から大人まで愛され、アメリカの食文化となっている。その大雑把で、ストレートで、単一の味。一口トライする前にためらいの数秒、覚悟を決める数秒が必要だった。まあ 瞬間的に拒否反応を起こし、「あまり好みませぬ」という判定を下してきたわけだが、そんな大味食品の中でも「マカロニ アンド チーズ」は違っていた。
チーズ大好き人間の私は妙にハマってしまったのだ。あの Kraft ブランド Safeway価格1箱99セントに。マカロニと粉チーズのパウチが入っており、チーズをミルクとバターで溶かし、茹でたマカロニを混ぜるという代物。チーズ大好き人間と言いながらも、このチーズが 全くチーズと言いがたいほど粘りや糸引き感がない。ミルクをちょっと少なめに入れたり、バターを多く入れたりして「Thick」感を出そうと苦戦した。
たまに3箱で1ドルなどという激安セールに当たると、3箱買い、1箱分のマカロニに対して 2袋のチーズを贅沢に使ったりしたもんだ。
ベビーシッターをしていた7歳の男の子が、このチーズに たっぷりのミルクを入れてスープのようにして食べるのが好きなのを見た時は、眉をしかめずにはいられなかった。

ある日、元彼のステップマザー宅のBBQパーティーに呼ばれた時、そこで出されたホームメード マカロニ アンド チーズにえらく感動した。まず、Kraftブランドを使わず、ホームメードが出来ることに驚き、そしてその2種類のチーズをたっぷりと使い 粘りも濃さもよろしくできた味わいに、日本人ながらも家庭の温かみを感じた。
ESL中盤レベルの英語力で、レシピの説明の理解があやふやだったが、Safewayのチーズ売り場で、マカロニ アンド チーズが簡単にできるチーズのブロック売りを見つけた時は、ステップマザーはこれを使ったに違いない、と喜んだ。これもKraftブランドだったかは覚えていなが、3ドルくらいで、白と黄色の二種類のチェダー チーズがマーブル状に入り混じった塊。要するに バターとミルクで溶かせば あら不思議、簡単にマカロニ アンド チーズができる、という代物だった。チーズ好きの私は、小さいパウチの粉チーズをせこせこ使うレベルから グレードアップして、このチーズを惜しみなく使い、自分好みのどろどろの一品を作った。ホームメードの物とは程遠く、明らかに「Craft」な味がしたが、なぜか この大味にハマってしまった。
今はもうそれほど頻繁に食べることはないが、時々懐かしくなって食べたくなることがある。そんな気持ちになるのは、マカロニ アンド チーズをレストランなどのメニューでみる時だ。名前には懐かしさを感じるが、それを7ドル、8ドルで売っていることに対しては、いささか納得がいかない。
この間 行った 少々お高めのイタリアンレストランで10ドルの値段がついているのには目が点になった。が、身分不相応にもそんなところに行ってしまったものだから、頼みは 一番安いこの10ドルのマカロニ アンド チーズしかなく、小さい小山に上品に盛られたマカロニを、一つ一つ不甲斐無い思いで食べた。
ハビーに 断然Kraftより味が優れていてランクが上、と紹介された1箱3ドルのAnniesブランドが、懐かしい大味を楽しみたい時のレスキュー商品となっている。1箱茹でると、ボール二つの大盛りマカロニ アンド チーズができる。それをスプーンでごそっとすくって もぐもぐと食べる。ああ、私もすっかりアメリカの食文化に染まってしまったのね、と感じる一時。

Kiki


Posted on 夕焼け新聞 2010年7月号

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