Sunday, January 8, 2012

おいしい話 No. 44「日本料理の本」

買い物好きのうちのハビーは アマゾンのウェブサイトが大好き。実際のお店に行って、商品を手に取ってみたり、決めるまでに何軒も回ったり、という買い物は嫌いなくせに、オンライン上で、商品のウンチクや消費者のReviewを読んだりして買うのが好きなようだ。
彼のWish Listは3ページほど連なり、誕生日やクリスマス前になると きちんとアップデートされ、プライオリティー度もしっかり表示されている。何をプレゼントに買っていいのか アイデアも薄れてくると そのリストからオーダーすれば、物は何であれ 必ず喜んでくれるので間違いはない。
でも 特別なお祝い事以外で 彼のWish Listを訪れてくれる親切な人は誰もいないので、そういう場合は 自分でせっせと購入している。先日も仕事から帰ってくると、アマゾンの箱がポーチでハビーの帰りを待っていた。
購入する商品は大概、コンピューター系、CD、DVD、本、といった類だが、今回 ハビーが箱から取り出したのは、料理の本だった。なるほど最近料理に興味を持ち始めていたようだが、いきなり 世界各国の料理本を購入したようだ。タイに、チャイニーズ、メキシカン、そしてベトナミーズ、イタリアン、ジャパニーズ、と一揆に6冊も。私の中で 料理の本といえば 写真が命で、どんなにおいしそうに写真が撮られているかが、その料理を作るモチベーションになる。写真のない料理の本など 出来上がりの感じが不明なので、味はともかく 見た目的に きちんと出来たのか判断しにくいのでいけない。
しかし、ハビーが購入した本は、ほとんど写真がなく、ページがぎっしりと字で埋め尽くされている。特にジャパニーズの本など、4センチほどの厚みの中、カラー写真は4ページしかなく、あとのイメージは鉛筆書きの挿絵のみなのである。
また衝動買いしたな、と冷ややかな目で見る私に、これらはすばらしい本なんだと引かない。つまりウンチク好きで、オタクなハビーは、材料の原点、料理の発信源などの、基本を語るこういう本がすばらしい料理の本で、本格的に料理を始める自分としては、この基本の知識を得る事から始めないと完璧ではない、ただ言われるままに材料を買ってきて 計って作っているようでは、何も理解できない、できるわけない、というわけだ。最近ちょっと2、3品料理を作るようになってきたハビー。もう世界の料理を独自の力で、活字から制覇しようという試みのようだ。
バッタ物を吟味するかのように、鯛の絵が載ったハードカバーの「Japanese Cooking」を手にとってみた。副題で「A simple art」とある。著者の名前は Shizuo Tsujiで、日本人のようだ。日本語版の翻訳ではなく、日本以外の国に住むEnglish speakerを対象として出版されたみられる日本料理の本。
内容の構成は、本当に ウンチクから始まる。つまり、和食で昔から基本とされている材料の一点一点について百貨時点のように説明されている。「Konbu」「Kinoko」「Kampyo」「Kuri」「Gobo」「Sansho」「Togarashi」など。この商品は、こういうマーケットで、こういう名前で、こんなパッケージで売られている、という親切な助言もある。
次には、様々なタイプの器の話。どの器が、どの料理の盛り合わせに使われるか、そして どのように食台に並べられるか。
そして今の世の中誰が包丁など自分で研ぎます?ましてやEnglish Speakerが?と突っ込みたくなる包丁の研ぎ方の章もきちんとある。二枚、三枚の魚の下ろし方、旨いダシの取り方、鍋の仕度に必要な要点など、日本の懐石料理の厨房で、熟練した板前さんに、優しく丁寧に いろはを習っているような気分になる。まあこのShizuo Tsujiさんが、熟練した和食の板前さんであるとは思うのだが、この「和食とは」とか「Art」とか、日本食の繊細でシンプルで、それでいて主張のある味を作り出す「美」というものを、外国人に写真ではなく、文章で伝えようとしているところに驚いた。一応、日本で生まれ育った私は、項目項目に書かれた説明を読んで、簡単にその色形をイメージできるのだが、果たして外国人はどういう画像や味を想像するのだろう。所々に入れられた簡単な挿絵は助けになるのだろうか。
簡単で、解り易く、和食文化とそのスピリチュアルを教える、そして日本人には、それを再認識させる、なんとも不思議な本である。
日本人の自分が 英語で 日本人として当たり前の知識である和の味を学ぶ。
それをうちのハビーがアマゾンで、非常にすばらしい本だ、と選んで購入するなんて。ほんとうに へんな感覚になる。

Kiki


Posted on 夕焼け新聞 2010年11月号

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