日本を恋しく思う理由の一つは居酒屋で、郊外に行けば居酒屋も Hilsboroに行けば一軒、Beavertonに行けば一軒という感じであるが、ポートランドのダウンタウンにないとは どういうことだこの街は!と、いつも文句を言っている、という話を以前にした事があるが、その通りずうっと文句を言い続けていた。
私は仕事の帰りに ちょっと一杯行きますか、というノリですぐに行ける居酒屋がダウンタウン区画内に欲しかった。車で20分、30分の距離ではなくて、ヘベレケになっても タクシー代もそれほど気にしないで家に帰れる距離に。
アメリカ人が経営する“イザカヤ”スタイルの店で、“創作”イザカヤ料理を頂いても、「うーん、、、」という言葉にならない低い声の後に、「ちょっと 違うんだよね」という、不満を抑えきれない感情が飛び出すだけ。
なぜいつも そういう店に行く度に、残念な悲しい気持ちになるのか。それは、日本にあるあの純粋な居酒屋を求めて行くからなのだ!
と言う訳で、私のシツコイ文句がまた発生する。「誰か ダウンタウンに居酒屋作ってよ!!」
そんな空しい日々の中、仕事中のハビーから電話が入った。「2週間前にダウンタウンに居酒屋ができたんだよ、知ってた!?」受話器を握り仁王立ちの私の眉がぴくりと動いたが、ハビーのことだからまた“ヒュージョン系”、“もどき系”にだまされているのでは、と思った。「へえ、、」なんて気のない返事をしていたら、開店前にたまたまその店の前を通りかかった際に、店長さんらしき日本人を見かけ、無理やり中に入って話を聞いた、という。その人はポートランド滞在期間まだ一ヶ月ちょい、ポートランドに居酒屋を開くために日本から来たとか。ハビーが、「彼がイザカヤと言ったその言い方が サムライみたいだったんだよ!」と、面白がって喜んでいた。
その無邪気なコメントにまた私の眉がぴくりと動いた。日本から来てまだ間もない?わざわざ居酒屋を開こうと?そして「イザカヤ」の言い方が侍みたいだったと? これは、きっと 私の求め続けている居酒屋に違いない!とっても強い確信だった。
ハビーが電話口で、ちょっとここ1週間ばかし忙しいが、その後で 一緒に行ってみよう、という。オッケー、と言って電話を切ったその手で 友人の電話番号を回す。この事実を知った後で、一週間も待てるわけないではないか。さっそく翌日、その友人と期待あふれる気持ちでその居酒屋に出向いた。
まず、SW SalmonとPark Ave.というロケーションが非常によろしい。「Shigezo」というネーミングがちょっと男っぽすぎかと思ったが、まあこれもStraight forwardでいいだろう。明らかに日本人しか付けない名前、というところがいい兆候でもある。
入り口から入って左手が寿司のカウンターがあるバーエリアで、右手が畳みテーブルエリア、そして中央に炉端というデザインで、思ったより広い内装になっている。席について まずはビール、とジョッキ(またはマグと言う)でグイっといく。これこれ、これなのよ、私の求めていたメニューは!と揚げ出し豆腐、餃子、お好み焼き、きゅうりとタコの酢の物、漬物、と居酒屋定番メニューを一揆に注文する。パクパクと口にしながら「うーん!」という歓喜の声を漏らす。 友人とよかったねーっと 目頭を押さえながらお互いの肩を叩き合う。あとは、ちょこちょこオーダーしながら、ちょこちょこ飲んで長居する日本の客スタイルを アメリカ人のサーバーが解ってくれるといいのだケド、と願いながら 締めの握り寿司を注文。これまた白マグロのヅケ風や本蟹の握りなど、驚きなほど美味しかった。カウンターで握る日本人の職人を、誇りに似た気持ちで眺める。常連になります、と心に誓った。
常連第一歩として 一週間後にハビーとまた訪れた。これも美味しかったよ、あれも美味しかったよ、と過去形でメニューの品を説明する私に、「Wait a minute」がかかった。君は僕なしで もうすでに来たのかい、と嘆きの声を出す。でもね、ハニー、ポートランドに居酒屋がないと嘆く私の叫びは、もう聞かなくてよくなるのよ、と 答えにならない返事でごまかす。
神様が パイオニアスクエアから徒歩数分の所に、私の、いや日本人の癒しの場を作ってくれた。文句でも 言い続けてみると、効力はあるようだ。
Kiki
kiki.art.pdx@gmail.com
Shigezo
1005 SW Park Ave.
Portland, OR 97204
503-688-5202
Posted on 夕焼け新聞 2010年12月号
No comments:
Post a Comment