私だけが ポートランドに住んでいる唯一の日本人のように思う時があるけれど、蓋を開けてみると そうでもない。私のように ふらりと丸太のようにたまたまオレゴンコーストに流れ着いた日本人もいれば、大志を抱えて、お偉い使命を授かって、わざわざこの土地にやって来た日本人もいる。私のように 美味しいものを食べて飲んでさえいれば人生はすばらしい、と思う者もいれば、胸に抱えた熱い志を全うする事に、命をかけ、生きる喜びを見出す者もいる。
在住暦10年、15年、20年など、もうすっかり定住している日本人もいれば、わずか数ヶ月、という人もいる。日本にいれば会うことなどなかっただろうと思う人達と、日本から遠く離れたアメリカのポートランドという町で、出会い、今まで交差することのなかったそれぞれの道が 交わる。
人生のストーリーをシェアし合い、他人の生き方を学び、そして 自分を振り返る。同じ日本人だからこそ、共感したり、習うところの重みは深い。まさに「一期一会」である。
そんな貴重な出会いを大事にしようじゃないかということで、たまたま出会った見ず知らずの日本人達が集まることになった。テーブルを囲んで、酒を酌み交わし、一期一会を実感するのだ。この場所に至るこれまでの経緯をシェアし合い、しみじみと人の出会いの不思議さを味わう。日本人であることの喜びを感じる。
「What would you like to drink?」とイタリアン訛りのウエイターが 私達のテーブルにやってきた。ダークなカーリーヘアーに 長いまつ毛、その奥にキラキラと光る美しい瞳。「イエーース?」と短いまつ毛をばたばたさせて聞き直す日本人女性陣。「What would you like to drink?」と素直に質問を繰り返すイタリアンボーイ。「あなたのお勧めは何かしらん?」とさらにまつ毛をばたばた。日本人男性陣、沈黙。選んだレストランが間違っていたか。
Piazza Italiaでの、日本人の古き良き文化と心の交流、一期一会の会は、まさに一瞬にして終了し、積極的な国際交流の場へと 幕が展開していった。
「I would recommend….」「We’ll get that one!」
男性陣に相談もなく、イタリアンボーイのお勧めのワインをボトルで注文。キッチンに戻っていくウエイターの背を目で追いながら、「何でイタリア人て、あんなにキュートなの」という溜息まじりのコメントが出る。目がハートの日本人女性陣と、目が点の男性陣。「まさにイタリアにいる感じよね、このレストランって。」イタリアに行ったことがない私の言葉に誰も意を止めることなく、「ホントよねえ」と同意の発言が後を追う。
移民のイタリア人によって、本場のイタリア料理を食べたい、という思いから始まったPiazza Italia。2000年にオープンしてから家族、友人によって運営され続けている。店内の壁から天井から、至るところにサッカーチームのユニフォームが飾られ、ファンシーなレストランにはあらからぬ大きなフラットスクリーンのテレビでサッカーの試合が放送されている。ウエイターが 仕事中に 試合の経過をチェックして 一喜一憂する姿を見ても許されるのは、それがやんちゃなイタリア人なんだ、というイメージ的先入観のせいだろうか。
イタリア人のおじいちゃんが奏でるシシリアン セレナーデをバックグランドに、従業員から客からイタリア語が店内を飛び交う。その雰囲気とワインにすっかり酔った女性陣、気分はイタリアのゴージャスな女性。メインコースの注文を取りに来た先のウエイターへのアプローチに拍車がかかる。
「あなたのお勧めは何かしらん?」「I would recommend …」「we’ll get that one!」
「あなたの名前は?」「イタリアのどこから来たの?」「イタリア語でI love youって何て言うの?」
ポートランドに住むイタリア人の、家庭的でカジュアルで陽気なレストラン。訪れる人が故郷を思い出し、その文化をシェアする場所。イタリアでは出会うことがなかったであろう人々が、ここで家族になり、友人になる。3時間居座った私達日本人グループもすっかりその一部として、温もりのひと時を分かち合った。「3時間もいるぜ、俺達」の指摘に「いいの、イタリア人はこれくらい時間をかけて食事をするんだから!」とイタリア人Kが長居を正当化。
習ったばかりのイタリア語「Ti amo」を連発するイタリア人Mは、すきあらばウエイターのほっぺにチューをしてやろうという勢い。
一期一会、一生に一度の貴重な出会い、決して 無駄にしてはいけません。
Kiki
Piazza Italia
1129 NW Johnson Street
Portland, Oregon 97209
503-478-0619
Posted on 夕焼け新聞 2011年3月号
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