Saturday, April 28, 2012

おいしい話 No. 59「My Luckについて」


Downtownの オフィス街には、平日のお昼時になると 長蛇の列ができるランチのお店がたくさんある。「PHO PDX」の看板がある小さいフードコートの中にあるVietnamese/Thaiのお店も、その例にもれず。
私は、ちょっと二日酔い気味の、「なんか汁物が食べたい」という日に、決まってここのPhoを目当てにやってくる。徒歩の距離で うどんもラーメンも見つからないこのオフィス街で、ここのPhoは私の荒れて乾いた胃の救世主なのだ。
長い列が短くなっているだろう12時半頃を見計らってお昼に入る。職場から2ブロックほどを小走りに走り 駆け込む。1分でも昼休み時間を無駄にしたくない。注文する窓口前には、3、4人が上部に掲げてあるメニューを仰ぎながら順番を待っている。34人待ちぐらいなら まだ我慢ができる。
窓口のお兄ちゃんに注文をし、お金を払い、番号札を貰う。お箸とナプキン、フリーのお水をくんで、テーブルがある二階に上がる。12時半過ぎだと、食事が終わって 席を立つ人達のテーブルが開くころなので、これも丁度いいのだ。5分ほどで 別のお兄ちゃんが Phoを運んできてくれる。あっさりとしたライスヌードルをズルズル、熱々のスープをぐびぐびっと頂く。はあ~~~、滲みる~~~。これこれ、二日酔いにはこれよぉ。

まあ 確かに、二日酔いの日中は こうやって平日でもPhoが食べられるからいいが、日本のように 飲んだ後の夜中の2時に 麺類を食べられないのが悲しいね、とふと思う。昔は、散々飲んだ後に、川原沿いある屋台のラーメン屋に寄るのが お決まりのコースだった。時にはうどんの時もあった。飲んだ後に、ハビーと同じく フライドチキンを食べる気には、絶対なれない。
夜中までやっているうどん屋やラーメン屋を、ここポートランドで見つけるのは無理にしても、こんなに大人気のPhoのサービスを、どこかでやっていてもいいじゃないか、と訴えたくなる。

このVietnamese/Thaiの店が、ある日 隣のテナントに移転した。
あまりの人気で、小さいフードコートの建物では収まりきらなくなり、「Luc Lac Vietnamese Kitchen」として、自分達だけのお店を開くことになったんだな、と思った。
規模は大きくなったが、それに比例して忙しさも倍増したようだ。前を通りかかった時、ガラス越しに、レジの前に並ぶ客の列と、To Go 待ちの客でパンパンになっている店内が見えた。
しかし、それに怯んでいるわけにはいかない。二日酔いの日は必ずやってくる。荒れて乾いた胃が Phoしか受け付けない日がやってくる。その日には、ここに駆け込むしかないのだ。

そして先日、いつもの時間差攻撃で、忙しさが少し収まったころに その新しドアを開けてみた。なんだか雰囲気が違う。ちょっとヒップな感じになっていないか。中央にはバーのような作りになっていて、その周りを囲むように テーブルが壁に沿って置かれている。そして奥にはオーブンキッチンがあり、馴染みの料理人がいた。いつもの従業員達も 急がしそうに立ち回っていた。
$6.50Phoをレジで注文し、お金を払い、番号札を握って、唯一空いていたカウンターの席に座る。そして すぐさま、新しく印刷されたメニューのチェックに入る。
「ハッピーアワー??!!」「ドラフトビアー、ワイン、カクテル??!!」
メニューに書いてある文字を見て、自分の目を疑った。まさか、そんなにアタシの二日酔いはヒドイのか。とっさにバーのような作りになっている場所に目をやった。すると本当にドラフトのレバーが設置され、上部にある棚には ハードリカーが並べられていた! 喜びと、興奮で、心拍数が上昇し、体が熱くなってきた。ハッピーアワーは4時から7時まで -「パーフェクトじゃない!!」スモールプレートは $2または$3 -「安い!!」
心拍数が更に上がる。My ladiesとの、アフター5の 待ち合わせにバッチリではないか。
そして、金曜日と土曜日の営業時間を見た時、息を呑んだ。椅子から貧血少女のように倒れそうになった。なんと この二日は 朝の4時まで営業しているのだ。バーで閉店間際まで飲んだ後に、ヌードルスープが食べられるのだ。 80’Sで踊りまくった後に、軽く空いた小腹を埋める場所ができたのだ。

その日より 私の頼まれてもいない宣伝活動が始まった。 コミッションのため、必ず自分の客を連れてくるツアーガイドのようでもある。ただ ひたすら自分がお金を落としているだけなのだが、$2―3の小皿と、Dinnerになっても$6.50と変わらないPhoには、ギルティーは感じない。私のLuc Lac熱は暫く続くとみている。


Kiki



Luc Lac
Vietnamese Kitchen
835 SW 2nd Ave.
Portland, OR 97204
503-222-0047


Posted on 夕焼け新聞 2012年2月号

Sunday, April 22, 2012

おいしい話 No. 58「Girls Night Out」


そりゃあ まあ(自分のダンナはさておき)素敵な異性がいないと生きていけない女子共だけど、女だけで出かける夜には、あえて 男子(ダンナ)は呼びたくない。呼ぶと楽しさが半減する。帰りしなに 不完全燃焼感が残る。やっぱり 女子だけで集まる会をまた設定しなければならないね、となる。

しかしなぜ 女子だけで集まると、こんなに楽しいのだろう。
2011年も終盤にさしかかり、最後の締めは もちろん男子立ち入り禁止のGirls Night Out
普段着ることのないドレスを選び、ぺったんこシューズからキラキラのハイヒールに履き替え、少しおしゃれをして ちょっとリッチなレストランに集まる。いつもはTシャツにジーンズで ダイブバーみたいなとこで安いビールをくらっている私達でも、年に一度のクリスマスの時ぐらい、これくらい装って、特別な夜を過ごすのもいいじゃない。

素敵な異性とのデートの時も、女子というものは はりきるものだけど、ホリデーシーズンのGirls Night Outは異様。1ヶ月前から 日にちと場所を設定、2週間前から ドレスコードメモがvia社内メールで走り、1週間前には 上司に この金曜日は残業はいっさいできません、という断固とした意思を伝えること、という指令が出される。そうして Sex and The City風貌よろしく、女4人が、5時きっかりに Laurelhurst MarketBarに集まった。

まずここで男子の集まりでは見られない光景が展開される。ハグとキスでグリーティングした後は、お互いの装いを充分に褒めあう。ヘアスタイルにアクセサリ、メークアップに、ドレス、そしてシューズと。男子にまったく持ち合わせぬ感性と視点で ポイントアウトしながら褒めていく。
一通りの儀式が終わった後は、無くては始まらぬカクテルのオーダー。

Laurelhurst Marketで必ず飲まなければならないのが、「Smoke Signals」。このカクテルの美味しさの秘密は、Hickoryでスモークされた、でっかい真ん丸の氷。この真ん丸の氷がごろんとウイスキーグラスの中に入り、シトラスとシェイクされたウイスキーがその上から注がれる。昔サントリーウイスキーのコマーシャルで見たことあるような絵だ。
丸い氷って、ゆっくり溶けるから、氷が溶けるにつれ、スモーキーな味とアロマがゆっくり放たれ、ウイスキーと旨い具合に調和する。こんなにリッチだけど、繊細なウイスキーカクテルは他にはない。これが飲みたいからLaurelhurst Marketを選んだ、とも言える。

アルコールが注がれれば 誰もこの女子4人を止められない。「Catch up」の弾丸トークが展開し、美しい装いに反する笑い声が連射される。なぜここに男子(ダンナ)がいると、不完全燃焼感が残るかというと、このリズムと勢いとエネルギーが制御されるからだ。女子には女子の言い分があり、女子にだけしか分ち合えない事が世の中には沢山ある。そこに共感できない男子が(ダンナ)が、無頓着にも 自分のフットボールチームや、最近出たTablet、欲しいソフトウエアの話などしだすと、急速 鎮火状態になるのだ。

ダイニングに移って、「Smoke Signals」のお変わりをして A LA CARTE のステーキを注文する。キャンドルライトの下、普段なら素敵な異性とロマンチックな時間を過ごすところだが、今日は女友達と ミディアムレアの肉をシェアしながら、生々しく、毒々しく、密やかな話しに花を咲かせる。
特別おしゃれをしているからか、照明効果なのか、いつもより生き生きと若返ってみえる女子軍。
「そりゃあ オトコも必要だけど、アタシはこの女子の集まりなしでは 生きていけないっ!」
全員が真っ赤な顔をして頷く。
まさに 人生のアルコール補給なのである。ちゃんと定期供給をしてあげないと、顔から、魂から、火が消えてしまうのだ。(決して酒乱の言い訳では ありません。)

気がつけば、満席状態の店内。他の客の歓談の音が レストランに充満し、私達の賑やかな声を掻き消す。この楽しい夜が永遠に続いてほしい。そう願うところに、サーバーのお姉さんがチェックを持ってきた。ちゃんと お金を払わなければいけない現実、家に帰り、日常に戻らなければいけない現実がよみがえる。
よし、充分笑ってアドレナリンも活性化できたし、ポジティブパワーも補給した。明日から そして来年も またがんばるぞお! 次回のGirls Night Outを 日々の糧に。

でも その前に、もう一件 寄っちゃう?


Kiki



Laurelhurst Market
3155 E. Burnside, Portland OR 97214
503-206-3097  


Posted on 夕焼け新聞 2012年1月号

Saturday, April 21, 2012

おいしい話 No. 57「ある関係」



ダウンタウンのチャイニーズレストラン「Mandarin Cove」で 日本人の友達と一緒にランチを取ろうと待ち合わせをした。
「元気―? 久しぶりだねー。仕事どう?」なんて 数週間ぶりの再会に盛り上がりながらテーブルについた。
中国人のウエートレスがお水を持ってきた時も、注文を取りに来た時も、最初のEgg Soupを運んできた時も、興奮している友達と私は 日本語で 大声でしゃべりまくっていた。
そこにまた同じウエートレスが私達のテーブルに近寄ってきた。
私の注文した大好物の「House Special Fried Rice」が 運ばれてきた!と、思いきや、それは 小皿にこんもりと盛られたキムチだった。
注文もしていなければ、メニューにキムチの一品をみたこともない。
ウエートレスは それをテーブルの真ん中にちょこんと置き、「It is on the house」と言う。
チャイニーズレストランにキムチ。この全く予期していなかった出来事に衝撃を受けた私達は、ただポカンと口を開け、そこに立つウエートレスを見上げていた。
Thank you」という一言もまともに出てこない状態の私達に、そのウエートレスが中国なまりの英語でこう説明した。
「いやー 最初は あんた達のこと中国人かと思ってたけど、しゃべっているのを聞いたら、違う違う、韓国人じゃないの、と解ったのよ。」
私と友達は 無言のまま お互いの丸くなった目を見合わせた。
でも、とっさに、いや実は私達日本人なんです、などという野暮な訂正を試みると、このせっかく登場した タダのキムチを持って行かれるんじゃないかという恐れから、ウエートレスに元気なお礼と共に はちきれそうな笑顔を返した。彼女も満足顔で頷いた。

このキムチが半端なく美味しかった。
明らかに中国人で回っているこのレストラン、奥の見えないキッチンでは、韓国人のおかんが、せっせと秘蔵のキムチを漬けているのか。手作りの温かいぬくもりを感じるこの韓国産キムチの味は、(あくまでも偏見ですが)中国人が作っているとは思えなかった。
しかし、ここにはもうすでに何回も来ているのに、一度も秘密のキムチのサービスなど受けたことなかったぞ。韓国人という判定をされた時だけ受けられる特別待遇なわけ? そもそも何故、キムチがこの店にあり、そんなサービスがあるのか。 
先日、仕事が終わったハビーから、今夜はチャイニースのTake outにしよう、僕が何かみつくろって買って帰るから、という電話が入った。とってもチャイニーズのムードなんだと言うハビーに、店も品も指定せず、すべてを任せた。

インターネットでリサーチした後、かなりいい評価を受けているという「Frank’s Noodle House」が、彼の今夜のチョイスとなった。Spicy Handmade NoodlesHandmade Dumplings, そしてStir Fried Bok Choy
この店は このHandmade Noodlesが売りのようだ。
テーブルにこれらのTo Go Boxを並べ、蓋を開けて中身をチェック。まだ温かい料理から 湯気がふわーっと立ち上がる。お、やっぱりBok Choyは私が思っていた野菜だったわ、Dumplingもなかなか、ハンドメイドらしい形をしているじゃない、そして、Stir Fried Noodlesが、赤いぞ。

取り皿に盛ろうと、箸でヌードルをすくい上げる。ハンドメイドのヌードルは、むしろ ハンドメイドのうどんのようだ。そして 盛り上がるスパイシーな匂い。私の目が、探偵のそれのように細くなる。がぶりと一口いく。キムチ味だ。

いったい、チャイニーズとキムチの関係は ナンなのか。そして、そのコンビネーションが何故にそこまで 私にとってショッキングなのか。ひな祭りの五段飾りのお雛様の下に、フランス人形が一体座っているような、厳かな能の舞台に 白鳥の湖のバレリーナが 白いタイツで舞い込んできたような、そんな違和感を感じる私。人形は人形、踊りは踊り、文化も人種も、世界の中で溶け合って生きていかなければならない今の世の中、そんな小さいことにいちいち反応する 小さい人間になってちゃあ いけないのではないか。などと言って 自分を嗜める。

「キムチは漬物でしょう!?」と思っていた私が、「豚キムチ炒め」を許せるようになったのだから、そのうち このチャイニーズとキムチの関係も、受け入れられるようになると期待したい。


Kiki



Mandarin Cove
111 SW Columbia St
Portland, OR 97201
(503) 222-0006


Frank’s Noodle House
822 NE Broadway
Portland, OR 97232
(503) 288-1007


Posted on 夕焼け新聞 2011年12月号

Monday, April 9, 2012

おいしい話 No. 56「Global Position Systemの必要性」

私には どうしても相性の悪いエリアがある。HillsdaleMultnomah Village界隈。NEに住んでいる私は、SWに行くことは ほとんどない、この界隈に住んでいる友人Yに誘われない限りは。

Yは、何度か引越しを繰り返しているが、いつもHillsdaleMultnomah Village界隈に居を決める。住めば都、私にとっては Mazeでも、彼女には 一番住みやすい場所のようである。

パーティー好きなYは よくいろんなパーティーを企画して お家に招待してくれる。彼女がHillsdaleの一軒屋に住んでた時、鍋パーティーに呼ばれた。初めてのHillsdale, 夜の住宅街は真っ暗だった。地図に示された場所を何度も何度も行ったり来たりするけど どうしても見つからない。ちょうど同じく御呼ばれした友人達が通りを歩いているのを捕まえて なんとか辿り着けた。次に新しく移ったアパートで行うポットラックパーティ。「前の家からすごく近い」と言われても、それがわからない。また同じ通りを行ったり来たりを繰り返し、やっと到着。その後、新しいルームメートとMultnomah Villageに住み始めた彼女、日本から遊びに来た親友の歓迎会を開いた。やっぱりここにもすんなりと辿りつけず、切れる寸前。

そして先日、Yから新たなInvitationが送られてきた。「Multnomah VillageLucky Labでパンプキンのカービングをするからおいでよ!」ハロウィーンよろしく背中に冷汗が流れ、動悸が激しくなった。また 呪われの界隈ですか。
Directionには強く、Mapを一回見て 交差する通りの名前をメモするだけで、迷うことなく目的地に辿り着ける私だけど、この界隈だけは なぜか、そうはいかない。

GoogleMultnomah VillageLucky Labを検索する。出てきたMapを広げて 位置を確認。オッケー、I-5Southで、296Bの出口で降り、Multnomah Blvdに乗ればいいのね。Multnomah Villageは、Yの友人のBBQパーティーに行った時に 充分 グルグル回ったので、明確にイメージできるわ。Lucky LabはそこからCapital Hwyに乗ればいいわけでしょ。頭の中に I-5からLucky Labまでの道のりがキレイに一本線でプリントされた。

今回はイケル、と思ったその自信と、インプットされたルートが砂に書いた絵のように消えたのは、296Bの出口閉鎖表示を見た時。え、え、え、?あれ? 次の出口296Aで降りた私は、Barlur Blvdを走っていた。まだ同じエリアだろうし、いつかMultnomah Blvdにのれるはず。暗闇のラッシュアワーの中、必死に目を凝らして、通りのサインを確認しようとするが、なかなか読み取れない。は、シマッタ、さっきの通りだったかもしれない。どこかで曲がるべきなのだろうけど、ヘッドライトを煌々とさせ、隙間無く連なり動く車の壁を打ち破れない。やっと曲がった時には、「ここはどこ?」状態。位置感覚をすっかり失っていた。

Yに電話して誘導を願うが、これまた毎度同じく、方向音痴の彼女と自分がどこにいるか確定できな私の会話は、GPS故障状態だった。気が付いたら、Capital Hwyのサインが現れた。そのことを彼女に告げると、「あ、Hillsdaleにいるの?そうすると私の前のアパートの近くだと思うから、ポートランド向けに走って、、、、」という説明。スマートフォンがあれば、このAnxietyは起こらないのだろうね。

例に漏れることなく、今回もさんざん行ったり来たり、ぐるぐる回って やっとLucky Labに到着。ビールが旨いことといったらなかった。ローストガーリックがたっぷり乗ったべジタブルピザが、ゆっくりと腹に落ち着いていく。はあ、よく名前は聞いてたけど、普通のバーとなんら変わりないじゃない。ビールがあってピザがあって。

後にハビー曰く、あのバーはDog Friendlyなんだよ、店の名前が記すように。「Lucky Labrador」って言うでしょ。
はっ、Lucky Labって、「Lucky Laboratory」だと思っていた。

私を筆頭に、その日集まった仲間がデザインを考え、男たちの手によりカービングされた巨大パンプキンが、Multnomah VillageLucky Labのカウンターに飾られている。11月の始めまでは 観賞することができるのでは。是非、この界隈との相性、お試しあれ。

Kiki




LUCKY LABRADOR PUBLIC HOUSE
7675 SW Capitol Hwy.
Portland, OR 97219

(503) 244-2537
 
 
 
Posted on 夕焼け新聞 2011年11月号

Friday, April 6, 2012

おいしい話 No. 55「少年の夢」


ハビーは キャロットケーキが大好き。両親から 糖分の摂取量を規制されていた少年の頃は、誰にも文句を言われない大人になったら、必ず一人で 丸ごと キャロットケーキを食ってやる、と心に誓っていた。
お酒も飲める21歳になったら 正真正銘の大人規格に入る。友達と無帽な飲酒行為をして 吐きまくった後に残る使命は、Safewayのキャロットケーキを自分一人で楽しむことだった。
後に その栄光の体験を聞いた時、吐きそうになったのは私だった。日本の軽い「甘さ控えめ」ケーキならともかく、どっしりと重い、その重量の90%は砂糖からなるのではと思わせる強烈な甘さのケーキを、一人で丸ごと食べるなんて、自殺行為としか思えない。
It was sooooo awesome!と悦にいっているハビーだが、二度と同じ行為をとっていないことは確かだ。表向きは自慢げに語っているけど、実は本人も 結構きたのではないかと、私は思っている。「大好きだ」と言いながら、実際わざわざ買って食べているとろを見たことはないし。
そんなハビーの またひとつ大人になる誕生日がやってきた。
こんなに何年も一緒にいると、特別なお祝いにもネタがつきてきて、何をどうしていいものか、考えのるも辛くなってくる。
そんな なんにも用意をしていない誕生日の前日に はっと、思いついたBrilliantなアイデアは、手作りのキャロットケーキを作ることだった。なんせ、キャロットケーキは 彼の大好物だし、随分食べてないし、きっと喜ぶに違いない。また少年の時の願いを かなえてあげようじゃないか。手作りなら ヘルシーに作る事だってできるし。
さっそく グーグルでレシピを検索。キャロット3カップに、小麦粉2カップに、砂糖2カップ、と読んでいく。なんだ、簡単じゃない、家にあるもので、出来ちゃうじゃない。Baking powderBaking soda以外は。ウン十年と、ケーキを焼いたことがない私は、この2品を買いに閉店寸前の近所のCo-opに走った。
ニンジンて、大根よりも固いのね、と思いながら 原始的に大根おろしで3カップ分おろした。便利なフードプロセッサーは 決してパントリーの奥に閉まってはいけない。取り出す面倒くささを考えると、自分の筋肉を使い、汗を流すことを選んでしまう。
オーブンは375度に設定。卵4個を溶いたボールに、レシピに書いている分量に添って、材料をほおりこんでいく。カップで表示されているのはまだいい。計量カップで計ればいい。「ティースプーン」で表示されているのは どうしたものか。がざがざと 引き出しに入っているナイフやフォークやスプーンをかき回し、2種類の小さいスプーンを取り出す。「テーブルスプーン」ていう表示もあるけど、たぶん それはスープとかをすすったりするスプーンだと思うからこれだな。で、ティースプーンは ちょっとお上品な感じだから少し小さめのこれだな、と イメージで判断。「ティースプーン」2杯の、バニラエッセンス、シナモン、ベーキングソーダ、ベーキングパウダーを、救い上げた分だけ、ほおりこんでいく。
快調だった私の手が止まったのは、砂糖2カップを計っている時。砂糖が土砂崩れのようになだれこんでいるのに、容易としてカップがフルにならない。ちょっと怖くなり、8分目でよしとした。
容器に流し込み、オーブンに寝かした後は、無くてはならないクリームチーズのフロスティング作り。さてさて、とレシピに戻ると、またギョッとした。室温で柔らかくしたバター一本とクリームチーズ1ケースに、砂糖4カップ。うちの砂糖がケーキ一個で無くなってしまうではないか。
ヘルシーなキャロットケーキ、もてなされる方は「知らぬが仏」である。でも、ダイエット中の人は あえてレシピを知る必要があるかも。
しかし、あの大量の砂糖効果なのか、売りに出してもいいくらい、完璧で すばらしくおいしいキャロットケーキが出来上がった。恐るべしアメリカンケーキ。
バースデーボーイの ハビーには、特別に大きな切り身をのせ、たっぷりとフロスティングしてあげた。その大きさに一瞬目をむいたが、「キャロットケーキは僕の大好物なんだ!」と言って、少年のように大喜び。全部平らげた。
ダーリン、あなたも今日で正真正銘オヤジの仲間入り。思う存分キャロットケーキを楽しんで。また そのうち、糖分の摂取量規制が 始まるから。




Kiki


Posted on 夕焼け新聞 2011年10月号

Sunday, April 1, 2012

おいしい話 No. 54「The Camino de Santiago」

昔、New Ageとか精神世界とかに ものすごくはまって、さまざまな関連の本をかたっぱしから読みまくった時期があった。「人間が生きている意味」みたいな事を、探そうとしていたのか。
その読み漁った本の中に、Shirley MacLaineが、自分の実体験を書いた「Out on a Limb」や「Dancing in the Light」などがあった。別にMacLaineのファンだったわけではないけど、ハリウッドで成功している女優が 自分の存在の意味を模索している姿と、精神世界用語でいうと 「気づいていく」経過に、私はすっかり魅了され、すべてのシリーズを読んだ。
そして2000年に 彼女がSpainにある「The Camino de Santiago」という有名な巡礼の道を一人で歩いたという、体験を綴った本が新しく出版された。「The Camino: A Journey of the Spirit」。もちろん その本も買って一揆に読んだ。そんな巡礼の道が 実在するのだろうかと思いながら。

3年前に大学で「Travel Writing」というクラスをとった時、自分のPresentationの資料として、この本を数年ぶりに本棚から抜き出してみた。インターネットで検索してみると、その道は 2,000年以上も前から スペインの北部に存在していたという。中世期に、キリスト教の伝道者であったセント ジェームスが眠るといわれる聖堂に向かうこの道が、罪業による罪滅ぼしの苦行から開放されるとして、キリスト教徒の人気の巡礼となった。日本でいえば、「四国八十八箇所巡り」のようなものだろうか。現代では、様々な迷いを持った人々が、自分探しの旅、歩く瞑想の旅として その道を歩き続けている、とある。

今年出会ったPortlandに住むLydiaも、その中の一人。家も、仕事も、恋人も無く、自分の行き方がわからなくなっていた2008年、このセント ジェームスに向かう旅を行う事を決意した。
「カミーノの存在はずっと知っていたけど、ある日、カミーノに 呼ばれたの」という。800キロにも渡る道のりを たった一人で歩いたその体験から、彼女の人生が大きく変わった。
「カミーノは人生そのもの。人それぞれ いろんな歩き方がある。人と比べてどっちがBetterかをJudgeするのではなく、自分の歩き方を見つける道なの。」

Shirley MacLaineの書いた「巡礼の旅」は 本当にあったんだ、と思った。

そのスピリチュアルな旅の途中、Lydiaは「ドキュメンタリー映画を作らなければいけない」と、強い使命を心で受けた。 最初の旅から ちょうど1年後、カメラクルーを引き連れて スペインに戻った。

「カミーノの旅は 今でも まだ続いているの」という彼女。300時間にも及ぶFootageを持って帰国したものの、お金が底をついていた。これから、この大量のFootageを編集し、ドキュメンタリー映画「The Camino de Santiago」として完成させなければならない。それには 新たな資金が必要となる。以来、様々な宗教団体、コーポレーション、政府事業団体、支援団体、個人などに呼びかけ、アメリカ中を飛び回り、製作費の寄付金を募っている。なんとしても、この巡礼の旅の素晴らしさを 広く人々に紹介したい、という情熱が 彼女の歩を進めている。そして 驚いたことに、その情熱に共感した沢山の若者が、ボランティアとして 現在製作に関わっている。カミーノから続く スピリチュアル パワーの効果だろうか。

Lydiaのドキュメンタリーとは別に、今年の秋に Martin Sheen 主演、息子のEmilio Estevez監督の映画、「The Way」が公開される。息子を亡くした父親が、その息子が歩いた「The Camino de Santiago」を自分も歩く、というドラマ。

なんか カミーノの巡礼の旅が、「マイ ブーム」になっている今日この頃。

いつか 私も この巡礼の旅をする日がくるのだろうか。
「カミーノは人生そのもの。」
人々は いろんな理由のもとに、いろんな「必要なモノ」を装備している。自分を恐怖から保護するため。でも カミーノを歩くと、それらがすべて「必ずしも 要しないモノ」となる。モノに執着しない事、所有しない事が、実際、体や心を自由にし、旅の歩みを楽にするのだ、という事を学ぶ。
そういう恐怖心や、重くまとわりついているモノが無くなると、自分が誰なのか、核の自分が はっきり見えてくるのかもしれないね。

9月から 現在まで集まった寄付金をもとに いよいよ編集が始まる。
ゴールまで あと400キロ。


About the Documentary:
http://www.caminodocumentary.org/index.php

Japanese Trailer:
http://www.youtube.com/watch?v=cnl4ZHHd0EY

The Way:
http://www.imdb.com/title/tt1441912/



Kiki



Posted on 夕焼け新聞 2011年9月号