Saturday, April 21, 2012

おいしい話 No. 57「ある関係」



ダウンタウンのチャイニーズレストラン「Mandarin Cove」で 日本人の友達と一緒にランチを取ろうと待ち合わせをした。
「元気―? 久しぶりだねー。仕事どう?」なんて 数週間ぶりの再会に盛り上がりながらテーブルについた。
中国人のウエートレスがお水を持ってきた時も、注文を取りに来た時も、最初のEgg Soupを運んできた時も、興奮している友達と私は 日本語で 大声でしゃべりまくっていた。
そこにまた同じウエートレスが私達のテーブルに近寄ってきた。
私の注文した大好物の「House Special Fried Rice」が 運ばれてきた!と、思いきや、それは 小皿にこんもりと盛られたキムチだった。
注文もしていなければ、メニューにキムチの一品をみたこともない。
ウエートレスは それをテーブルの真ん中にちょこんと置き、「It is on the house」と言う。
チャイニーズレストランにキムチ。この全く予期していなかった出来事に衝撃を受けた私達は、ただポカンと口を開け、そこに立つウエートレスを見上げていた。
Thank you」という一言もまともに出てこない状態の私達に、そのウエートレスが中国なまりの英語でこう説明した。
「いやー 最初は あんた達のこと中国人かと思ってたけど、しゃべっているのを聞いたら、違う違う、韓国人じゃないの、と解ったのよ。」
私と友達は 無言のまま お互いの丸くなった目を見合わせた。
でも、とっさに、いや実は私達日本人なんです、などという野暮な訂正を試みると、このせっかく登場した タダのキムチを持って行かれるんじゃないかという恐れから、ウエートレスに元気なお礼と共に はちきれそうな笑顔を返した。彼女も満足顔で頷いた。

このキムチが半端なく美味しかった。
明らかに中国人で回っているこのレストラン、奥の見えないキッチンでは、韓国人のおかんが、せっせと秘蔵のキムチを漬けているのか。手作りの温かいぬくもりを感じるこの韓国産キムチの味は、(あくまでも偏見ですが)中国人が作っているとは思えなかった。
しかし、ここにはもうすでに何回も来ているのに、一度も秘密のキムチのサービスなど受けたことなかったぞ。韓国人という判定をされた時だけ受けられる特別待遇なわけ? そもそも何故、キムチがこの店にあり、そんなサービスがあるのか。 
先日、仕事が終わったハビーから、今夜はチャイニースのTake outにしよう、僕が何かみつくろって買って帰るから、という電話が入った。とってもチャイニーズのムードなんだと言うハビーに、店も品も指定せず、すべてを任せた。

インターネットでリサーチした後、かなりいい評価を受けているという「Frank’s Noodle House」が、彼の今夜のチョイスとなった。Spicy Handmade NoodlesHandmade Dumplings, そしてStir Fried Bok Choy
この店は このHandmade Noodlesが売りのようだ。
テーブルにこれらのTo Go Boxを並べ、蓋を開けて中身をチェック。まだ温かい料理から 湯気がふわーっと立ち上がる。お、やっぱりBok Choyは私が思っていた野菜だったわ、Dumplingもなかなか、ハンドメイドらしい形をしているじゃない、そして、Stir Fried Noodlesが、赤いぞ。

取り皿に盛ろうと、箸でヌードルをすくい上げる。ハンドメイドのヌードルは、むしろ ハンドメイドのうどんのようだ。そして 盛り上がるスパイシーな匂い。私の目が、探偵のそれのように細くなる。がぶりと一口いく。キムチ味だ。

いったい、チャイニーズとキムチの関係は ナンなのか。そして、そのコンビネーションが何故にそこまで 私にとってショッキングなのか。ひな祭りの五段飾りのお雛様の下に、フランス人形が一体座っているような、厳かな能の舞台に 白鳥の湖のバレリーナが 白いタイツで舞い込んできたような、そんな違和感を感じる私。人形は人形、踊りは踊り、文化も人種も、世界の中で溶け合って生きていかなければならない今の世の中、そんな小さいことにいちいち反応する 小さい人間になってちゃあ いけないのではないか。などと言って 自分を嗜める。

「キムチは漬物でしょう!?」と思っていた私が、「豚キムチ炒め」を許せるようになったのだから、そのうち このチャイニーズとキムチの関係も、受け入れられるようになると期待したい。


Kiki



Mandarin Cove
111 SW Columbia St
Portland, OR 97201
(503) 222-0006


Frank’s Noodle House
822 NE Broadway
Portland, OR 97232
(503) 288-1007


Posted on 夕焼け新聞 2011年12月号

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