ダウンタウンのチャイニーズレストラン「Mandarin Cove」で 日本人の友達と一緒にランチを取ろうと待ち合わせをした。
「元気―? 久しぶりだねー。仕事どう?」なんて 数週間ぶりの再会に盛り上がりながらテーブルについた。
中国人のウエートレスがお水を持ってきた時も、注文を取りに来た時も、最初のEgg Soupを運んできた時も、興奮している友達と私は 日本語で 大声でしゃべりまくっていた。
そこにまた同じウエートレスが私達のテーブルに近寄ってきた。
私の注文した大好物の「House Special Fried Rice」が 運ばれてきた!と、思いきや、それは 小皿にこんもりと盛られたキムチだった。
注文もしていなければ、メニューにキムチの一品をみたこともない。
ウエートレスは それをテーブルの真ん中にちょこんと置き、「It is on the house」と言う。
チャイニーズレストランにキムチ。この全く予期していなかった出来事に衝撃を受けた私達は、ただポカンと口を開け、そこに立つウエートレスを見上げていた。
「Thank you」という一言もまともに出てこない状態の私達に、そのウエートレスが中国なまりの英語でこう説明した。
「いやー 最初は あんた達のこと中国人かと思ってたけど、しゃべっているのを聞いたら、違う違う、韓国人じゃないの、と解ったのよ。」
私と友達は 無言のまま お互いの丸くなった目を見合わせた。
でも、とっさに、いや実は私達日本人なんです、などという野暮な訂正を試みると、このせっかく登場した タダのキムチを持って行かれるんじゃないかという恐れから、ウエートレスに元気なお礼と共に はちきれそうな笑顔を返した。彼女も満足顔で頷いた。
このキムチが半端なく美味しかった。
明らかに中国人で回っているこのレストラン、奥の見えないキッチンでは、韓国人のおかんが、せっせと秘蔵のキムチを漬けているのか。手作りの温かいぬくもりを感じるこの韓国産キムチの味は、(あくまでも偏見ですが)中国人が作っているとは思えなかった。
しかし、ここにはもうすでに何回も来ているのに、一度も秘密のキムチのサービスなど受けたことなかったぞ。韓国人という判定をされた時だけ受けられる特別待遇なわけ? そもそも何故、キムチがこの店にあり、そんなサービスがあるのか。
先日、仕事が終わったハビーから、今夜はチャイニースのTake outにしよう、僕が何かみつくろって買って帰るから、という電話が入った。とってもチャイニーズのムードなんだと言うハビーに、店も品も指定せず、すべてを任せた。
インターネットでリサーチした後、かなりいい評価を受けているという「Frank’s Noodle House」が、彼の今夜のチョイスとなった。Spicy Handmade Noodles、Handmade Dumplings, そしてStir Fried Bok Choy。
この店は このHandmade Noodlesが売りのようだ。
テーブルにこれらのTo Go Boxを並べ、蓋を開けて中身をチェック。まだ温かい料理から 湯気がふわーっと立ち上がる。お、やっぱりBok Choyは私が思っていた野菜だったわ、Dumplingもなかなか、ハンドメイドらしい形をしているじゃない、そして、Stir Fried Noodlesが、赤いぞ。
取り皿に盛ろうと、箸でヌードルをすくい上げる。ハンドメイドのヌードルは、むしろ ハンドメイドのうどんのようだ。そして 盛り上がるスパイシーな匂い。私の目が、探偵のそれのように細くなる。がぶりと一口いく。キムチ味だ。
いったい、チャイニーズとキムチの関係は ナンなのか。そして、そのコンビネーションが何故にそこまで 私にとってショッキングなのか。ひな祭りの五段飾りのお雛様の下に、フランス人形が一体座っているような、厳かな能の舞台に 白鳥の湖のバレリーナが 白いタイツで舞い込んできたような、そんな違和感を感じる私。人形は人形、踊りは踊り、文化も人種も、世界の中で溶け合って生きていかなければならない今の世の中、そんな小さいことにいちいち反応する 小さい人間になってちゃあ いけないのではないか。などと言って 自分を嗜める。
「キムチは漬物でしょう!?」と思っていた私が、「豚キムチ炒め」を許せるようになったのだから、そのうち このチャイニーズとキムチの関係も、受け入れられるようになると期待したい。
Kiki
Mandarin Cove
Frank’s Noodle House
822 NE Broadway
Portland , OR 97232
(503) 288-1007
(503) 288-1007
Posted on 夕焼け新聞 2011年12月号
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