Sunday, September 2, 2012

おいしい話 No. 65「寿司やのカウンターにて」


私の小さい時から考えたら、お寿司って 随分身近な食べ物になったものね。
そりゃあ 贅沢で特別であるという価値観は変わらないけど、その機会に接する距離が短くなった。特に大人になって会社に勤めるまで、寿司やに行ったことがなかった私にしてみたら、驚くべき進歩を遂げている。
私は、本当の寿司の美味さをずーっと知らなかった、と言っていいだろう。誕生日やクリスマスなど特別のお祝いの日は「小僧寿し」。それがどんなに贅沢で、楽しみだったことか。郷土料理「皿鉢(サワチ)料理」が出される親戚の宴会も、特別だった。仕出屋から取ったその料理に含まれた握り寿司が、なんとウマカッタことか。
19歳の時に、当時勤めていた会社の社長と営業の男たちに連れられて、初めて寿司やののれんを潜った。「エイ ラッシャーイ!」という元気な職人のおっちゃんの声に迎えられたわけだけど、突風の圧力を身体で受けたような感じだった。カウンター席しかない。緊張が走る。イカツイ顔の職人の前に 恐る恐る座る。お絞りで手を吹きながらキョロキョロと他の客を観察。木札に書かれたネタに、値段がない。
右隣の社長と左隣の営業のお兄ちゃんを 交互に真似ながら、同じネタを注文する。時々寿司用語が飛び交い、身が縮こまる思いをしたが、「同じ物で」で 逃げ切った。
この「同じもので」作戦が良かった。寿司や慣れし、値段を気にしない男達が、ただ純粋に好きな物、として注文した握りは 今までに食べた事のない味がした。ネタの色や艶が違う。シャリの温度と食感が違う。新鮮そのものだった。
「美味い、、、。」心の中で じっくりと確信。男たちと同じ調子で、何貫食べたか。
天国気分でいたものの、やはり何か落ち着かない。怖くて職人と目が合わせられない。蚊細い声の私に気がつかない。「あの、た、たまご、、。たまご、、ください。あの、たまご、、。」  職人とかみ合うタイミングの取り方って、難しい、、。ましてや、合間合間に、彼らと気さくな会話をするなんて とんでもないワザである。

そんなウブな初体験から ウン十年。East sideにある寿司や「北西」のカウンターに座る私は、すっかり違う人間になっていた。待ち合わせをしていた女友達が登場するまで、とりあえずビールを頼み、こんにちは、と前に立つ日本人らしき職人に挨拶をする。「あ、どうも」とフレンドリーな返事が返ってきた。良くある職人のイカツサがない。
出された突き出しのタコ料理に、舌鼓を打つ。「美味しいですね、これ。とっても新鮮です。」「あ、それですか、それはですねえ、」と 仕入所と、調理の説明が続く。19歳の私には始まらない会話である。登場した女友達も加わり、会話も弾む。突っ込んだ質問の結果、彼が あの有名なカリフォルニアのNobuMatsuhisaで働いた経験のある ヘッドシェフ石井さんであることがわかった。これは信頼できる。いや、あえて その腕前を見せてもらおうじゃないの。と、いうことで10貫の「おまかせ」を頂くことにした。
私達の食べる速度に合わせて、一貫、一貫、丁寧に握って出してくれた握りは、 あの寿司初体験を思い出す 感動の味だった。なるだけ 日本の近海で取れた魚を出すようにしている、と言う。絶品の茶碗蒸しがさらに懐かしさを深める。
久しぶりに 美味しい寿司を食べたという満足感。アメリカに来て、寿司がカジュアルになり、簡単に食べられられるようになったけれど、この「美味しい寿司を食べた」という感動は、そうそう得られるものじゃない。
石井さんも、素敵な女性達が目の前で 楽しそうに食事をしているのをみれば、おまけの一つや二つしないわけにはいかない。ちょこっと、「これ どうぞ」なんて頼んでもいない小皿を出してくれる。市場価格となっている「おまかせ」も、美女特別価格?と、勝手に解釈したくなるほど、お安くすんだ。
私も いつの間にか、寿司やでのワザを修得してしまったようだ
これからは カウンターで石井さん前よ。

そういえば Seattleの「Kisaku」は テーブルの予約はしちゃだめ。カウンター席で、中野さんの前よ、とか、Shiro’s Sushi最近ダメだけど、時々シローさんが握っているからカウンターに座ると美味しいらしい、とかっていうのを聞く。
アメリカで いかに 美味しい寿司にありつくか。 皆、苦労しているのね。


Kiki



Hokusei
4246 SE Belmont Street
East Portland, OR 97215
(971) 279-2161


Posted on 夕焼け新聞 2012年8月号

Sunday, July 29, 2012

おいしい話 No. 64「老化の速度を落とすのだ!」




ハビーが一ヶ月ほど前、友人のカメラマンの穴埋めで、急遽ある撮影に借り出された。それはフィットネススタジオのWorkoutメニューの紹介ビデオだった。ただカメラをセットして インストラクターの動きを正面から撮影しただけだから、別にこれと言って編集するところもないんだけどね、と言いながら、家に帰ってきたハビーが映像をコンピュータに落としていた。
エクササイズかあ。最近ものすごく必要性を感じているんだよね、と中年腹xビール腹を見下ろす。 こうやってカウチに座っていると、俵のように盛り上がる下腹。脂肪だけで ぶよぶよとたるんでジェリーの状態。「ふっ!」と勢いで引っ込めてみても、筋肉がないもんだから コントロールが効かない。こんな状態で、このままトシをとっていっていいものだろうか。
今本気で運動を始めないと、5年後、10年後には、とんでもない事になっているのではないか。恐怖が胸を支配し始めた。もちろん、老化を誰も止められないのはわかっている。どんなに整形したって、老化はいつもその整形顔から飛び出して、年の匂いを放っているものだ。だったら、ゆっくりと、綺麗に年を取っていきたい。ダイアン レインのように。明らかにもう若くないが、それでも加齢臭ではなく、美しさや輝きが放たれる。そんな歳のとり方をしなければ。そして 今腰をあげないと、手遅れになる!

エイヤッ、と腰をあげ、ハビーのコンピューターまで 体を移動。「どんなエクササイズなの?」
それはPortlandの女性が開発した、ヨガとピラテとバレエが組み合わさった、エクササイズだった。タイツをはいたインストラクターが、後ろに控えるモデル2人を、軽快な口調で促していく。その編集完成作品に目が釘付け。映像ではなく、このエクササイズのメニューの完成度に、驚いた。
ここで私がどういうエクササイズかを説明するよりも、是非Websiteで一見して頂きたい。美しい姿のモデル達が、足をぴーんとそりあげて、アップ アンド ダウン、アップ アンド ダウン。スクワットをして おケツを アップ アンド ダウン、アップ アンド ダウン。
これは すごい、と 思った。
このエクササイズは ジムで えっさほっさとウエイトを上げて、筋肉ムキムキになる運動ではなくて、綺麗に脂肪を落とし、ほっそりとした筋肉をつけられる動きだ!
とたんに、早くもこの夏には、美しくシェイプアップし、セクシーに筋肉をつけた自分の姿がイメージできた。
I am going to do it!
ハビーに大宣言し、スタジオの名前を聞いた。その名は「Barre3」。
Websiteに行き、クラスのスケジュールの予約を入れる。
それと同時に、Barre3のリンクを女友達に一斉送信。
「この夏は 私はキラーボディーになり、ビーチでブイブイ言わせるカラダになるからね!」というメッセージを添える。「そして、新しいビキニも新調しちゃうわ!」
同世代の女達が それに即反応。「なぬっ?!」
本当にこの夏そういうカラダになっている私を想像した彼女らが 黙っているわけない。「I’m in too!!

まずは 初回入会者用の 3$40から始める。
Pearl Districtのスタジオで 最初に受けたのは Meeganのクラス。1パウンドのウエイトを持って 腕を伸ばし、上下に動かす。それと同時に中腰の腰を上下に動かす。「Small move.  Just one inch, one inch. Tiny move girls!
バーに捕まり、つま先で立ち、そのまま中腰に腰を下げ、それを上下に動かす。四つんばいになり、ピラテのボールのバレーボールサイズを膝の裏に挟んで、宙で 上下に動かす。
膝の裏や内側、脇や下腹、腰の下部など、使ってない筋肉が、たたき起こされ、びっくりして プルプルしている。
遠いカウントダウンの中、「うぉー、、、。」という情けない声が、体から漏れる。

なんて女性の体のタルミをわかったエクササイズなんだろう。女性がどこをどういう風に締めたいか、ちゃんとわかっているメニューだ。Meeganのあのぷりっとしたおケツになる日も遠くない。

歳を取る恐怖心て、女性をDesperateにするものなのね。でも、すべては自尊心の問題なの。「人の目」じゃなくて、「自分の目」なのよ。自分が、歳を取っていく自分を好きであることが、一番大事なのです。
ということで、私のBarre3熱は、同じくDesperateな女友達と 暫く続きそうな感じ。目指せ Happy Aging!!



Kiki



Barre3



Posted on 夕焼け新聞 2012年7月号

Monday, July 9, 2012

おいしい話 No. 63「ポートランドからゲッタウエイ-独り旅もOK」


最近やっと冬季から抜けたポートランド。快晴の日は あったかくて、本当に気持ちがいい。寒さ嫌いで 腰の重い私も、お日様が顔を出すと、外に出ないわけにはいかない。週末だったら ちょと軽くドライブなんかもしたくなる。ポートランドのいいところは 2時間でビーチに、1時間で山にいけちゃうところよね。ありとあらゆるところにキャンプ場はあるし、スキーも、ハイキングも、トレッキングも、アウトドアでアクティブな人にはもってこい。
アウトドアとは正反対に位置する私は、マティーニを片手に メトロ圏内に留まるのが常だけど、あんまり気持ちがいいと、ちょっとしたGetawayを試みたくなる。私のお気に入りのルートで。

私が パワースポットだと確信するColumbia River Gorgeを旅するこのルート、本当に浄化された気持ちになるから 是非このコラムを片手に車を出してみてちょうだい。

ポートランドからI-84Eに乗っかって東に。Exit 22で降りてCorbet Hill Rd.を上がり、Historic Columbia River Hwyに入る。別名 Oregon Trailと言われるこの道は、19世紀の開拓者達が、西へと新しい土地を求めてワゴンを走らせた歴史がある。I-84ができるまでは、このHistoric Hwyがメインの交通路だったみたい。今は舗装されているけど、ワゴンで走っていた時代は、そうとう荒く、過酷な道だったはず。
まずは Women’s Forum State Scenic Viewpointで車を止め、Columbia River Gorgeの壮大なパノラマを体感してほしい。ここで一回鳥肌が立つ。この渓谷は、何億という年月の中、地殻変動が繰り返されたわけだけど、氷河期の終わりに起こった大洪水がキーポイントで、現在の姿が形成された。ゴーゴーと雷音を響かせながら岩を砕き、猛烈な勢いで渓谷を切り裂いていくColombia Riverを想像し、自然の大いなる力に圧巻。
そこから10分走ると、有名なCrown Point and Vista Houseに着く。周りに何もない崖っぷちの上に位置するこの場所は、風の強い日は カラダが吹っ飛ばされそうになるので気をつけて。
このポイントから Multnomah FallsまでのHistoric Hwyの道のりが 非常に良い。ラジオやCDは止めて、窓ガラスを下ろす。イオンが充満する林の中をゆっくり走り、心と体を浄化。パワースポットのエネルギーを充電する。時に小さな滝が 道路沿いに現れるので、車を止めて散策するもよし。
温かくなると動物だけじゃなく、人間も外に出てくるもんで、午後のMultnomah Fallsのピーク時は、とんでもない台数の車が集まる。駐車場を拡大したも、比例して観光客も増えているので、ここで 駐車場の確保に、せっかく癒した心を荒立たせないよう注意。おトイレ休憩して、長い滝を上手くフレームに収めた後は、更に西に路を勧める。
一旦、I-84に戻りHood Riverに向かう。Exit 40で降りてBonneville Damに立ち寄るもよし。ここの観光センターで見たColumbia Gorgeの歴史ビデオ、先に触れた大洪水の説明などもあり、感動したよ。

Hood Riverは 小さくてかわいい町だよね、。小さいのに、素敵なレストランやカフェ、バーが沢山あって、賑わいがある。Full Sail Breweryでコロンビア川を見下ろしながら冷たいビールを飲むもよし、数あるWineryのいくつかを回り、テイステイングを楽しむもよし。Celiloでファンシーなランチタイムもいい。ブティックや本屋を覗いた後は、川まで降りて行く。川岸でサンダルを脱ぎ、冷たい水に足をつけて、Wind Sailingをぼんやり眺めるその心地よさ。Gorgeの優しい風が、嫌な事もさらって行ってくれる。

Hood Riverから I-84で更に東に走ると、Historic Hwyのサインが再度現れる。ここからのHwyの道のりも最高に気持ちいい。高く広々としたRowena CrestView pointからみるGorgeの風景は、また違う表情を見せる。
このメニューで日帰りができるのが このGetawayのポイント。もちろん宿泊もできるけど、ドライブがてらフラリと訪れて、帰りたければその日に帰れる距離感がいいのよ。Hwy 35Mt. Hood側を回ると、道中美しいMt. Hoodを眺望できていいけど、私はI-84をコロンビア川に沿って帰るのが好き。夕方だと 日中とは違った太陽の色で、Gorgeの風景も変わるんだよね。雄大な川とその両側に聳え立つ、断層を露にした渓谷。もう神がかっているとしかいいようがない。
本当にパワーポイントのエネルギーを感じちゃうの。
浄化されて リフレッシュされるColumbia River GorgeGetaway, 物憂げな独り旅にもOKです。


Kiki


Posted on 夕焼け新聞 2012年6月号 




Sunday, May 20, 2012

おいしい話 No. 62「貴重な出会い」


人の縁て、不思議だよね。何処で誰とつながって、どんな新たな出来事が待っているかわからない。日ごろの行いがよろしいと、その出会いはたいてい有益なものであったりする。
「前から話していた知人が、ポートランドでレストランを開いたの。ご馳走してくれるみたいだから、おいでよ!」
来た!すばらしい出会いが、またやって来た。
「行く行く!もちろん、是非そのお方を紹介して!」
アジアのヒュージョン料理のお店かあ。う~ん、オイシソ。

ポートランドのダウンタウン、Paramount Hotelの中にあるレストランが、最近新しくオープンしたと聞いていたけど、そこが そのお知り合いのお店だったのね。食いしん坊のハビーが、私の一期一会にのっかってくる。いや、是非、僕も、その新しい出会いとやらを味わってみたいものだ。
ずーずーしさには事欠かない私とハビーが笑顔で登場。Tasting Eastのオーナーとその奥さんと、非常に友好的な挨拶を交わす。持つべきものは友だなあ。そこからいろんな輪が広がっていくよね。さて、とりあえず、ビールからいきましょうか。
TE Barというバーエリアのテーブルに着き、「IPA!」と元気良く、ウエイターの男の子に 愛飲ビールを注文。そこで ハビーからストップの声がかかる。小説と同じくらいメニューを読むのが大好きなハビーが、アジアのビールがいろいろあるよ。こういう時には 新しいものを味合わないと!
うかつだった。確かに。ご馳走してくれるんだから 保守的になる必要はないのだ!
ハビーは大仏さんの形をしたボトルに入った「Lucky Buddha」を、私は「33Esport」を注文。しまった、また何処の国のビールか忘れた、、。あんなに何度も ウエーターが困るほど聞いたのに。

アジアンヒュージョンて、どこにでもあって、誰もがやっていることだけど、Tasting Eastは、日本の下町裏通りの味、韓国の家庭料理の味、タイの市場のベンダーの味、台湾や中国のストリートカートの味を集めてきた料理、と言われると、印象が違ってくるから不思議だ。よく見られる闇雲でトンチンカンな創作料理とは違い、ちゃんと基本の味を解っているんだあ、と説得される。
とにかく、アジアの庶民的な味を ポートランドに持ってきて、Snobbyな値段をつけてちゃあいけませんよ。(ほんとうに多いんです。)だいたいHappy Hourがないなんて、昨今のエコノミーでやっていけません。特にウチの家計では。
なーんて批評家的なことを言いながらバーメニューを見る。あれ、すでにHappy Hour 級の値段設定じゃないの。ロール寿司を入れても、一品$2.50から$7.506時までにダッシュで入店しなくても、居酒屋のように いつでも、普通に、あれやこれやと単品で注文して、お安くいろんなアジアの味が楽しめるんじゃない。嬉しい。オゴりじゃなくても、また戻ってこれるのね。

ポートランドの五萬とあるレストラン市場で、最初の情熱を保ったまま、そして、利益も得ながら生き残っていくって とっても厳しい事だよね。オーナーやシェフ達が、日々 アイデアを絞り、試行錯誤し、「人気のお店」に造りあげていき、それを継続していく努力をするわけだろうけど、やはりポイントは 「戻りたい店」を作っていくことだ、と私は思う。
店には独自の個性があって「戻りたい店」要素は様々だけど、私にとっては、「あの店のあの一品」。あれが食べたいから また舞い戻る。何度行っても、いつ行っても、期待を裏切らない変わらぬ味。そういうものをレストランが提供している限り、「人気のお店」は廃れないと思う。

まずは最初の出会いが肝心。「いやあ、あの味、忘れられないなあ」という出会いを作る。別れた後も いつまでも心に残る出会い。「また会いたい!」と思う出会い。

今回、私のAttentionをしっかりGetしたのは、「Scallion Pancake Sandwich」のBulgogi Beef。強く 私の味覚のツボを突いた。クレープのように薄く焼いた韓国風のバンケーキを、タコスの皮のようにして、たっぷりの千切りキャベツと肉を挟んで戴く。これが 非常にうまかった。シェアしたハビーと取り合いになったのは言うまでもない。今度は丸一個一人で食べてやる。
「あの店のあの一品」、自腹を切っても また会いに行くからね!
いつまでも 変わらぬあなたでいてください。


Kiki

Tasting East
909 Southwest Park Avenue
Portland, OR 97205
(503) 243-5991



 Posted on 夕焼け新聞 2012年5月号

Saturday, May 12, 2012

おいしい話 No. 61「近代文明進化の恩恵」


近代文明の進化はすごい、という話を先月もしたけど、今度は日本の映画やドラマ、バラエティー番組が、インターネット上で見ることができる昨今に、感動している。
アメリカに来た当初は、誰かが家族の人に ビデオカセットテープに貯め撮りしてもらった日本の番組が、留学生の間で回覧されていた。自分の手元に来た時は 23年の古さだった、てことは当たり前だったけど、感謝の気持ちで、日本に思いを馳せながら、じっくり観させてもらった。
その後は 時代がDVDに変わり、そのコンパクトさで、一回に10枚から20枚回ってくるなんてことになった。とは言っても、やはり日本の家族や友人に録画してもらい、送ってもらったモノなので、番組も2、3ヶ月前から12年の古さ、という感じだった。
でも、今やインターネットで何でも観れる時代。誰かに録画してもらう必要もなく、自分の番が回ってくるのを数週間待つ必要もなく、日本で放送されたその翌日から1週間以内で、まだ温かい番組を観ることができるのだ。

お笑い好きの私はもっぱらの バラエティー派。暇な時、ぐーたらしたい時に、いつものサイトに行き、お気に入りの漫才師の番組を探してみる。若いゲストはほとんど 誰だかわからないけれど、80年代90年代に活躍した人がゲストで出るとなると、「お、ちょっと観てみようか」となる。
ラップトップPCをコーヒーテーブルに置き、カウチに横になり、ポテトチップスをボリボリかじりながら、「あー、年取ったなあ、この元アイドル!」とかやっているのである。

無表情な家政婦の話や、若い女の子が、警視庁捜査一課で班長として 自分より年上の部下を従えて事件を捜査していく話などは、現実身がなくてまったく 感情移入しないし、共感もしない。浜ちゃんとまっちゃんのボケ&ツッコミの方が、ずっと私に「笑い」の時間を与えてくれる。

そんな私が、この数週間、あるドラマにハマッていた。
「最後から二番目の恋」
小泉今日子が主演で、中井貴一、飯島直子、森口博子など、馴染みがあり、安心する顔ぶれが揃っている。中年男女の恋愛物語で、役者の実年齢がそれぞれの役の年齢、ていう設定が興味を引いた。ということは、昭和のアイドル時代に一世風靡したキョンキョンが45歳で、青年役を爽やかに演じていた中井貴一は50歳なんだ! もうこの時点で、しっかり共感できる。
ナニがハマッたかって、このキョンキョンが実にいい。
堂々と45歳の女を演じているのだ。「40過ぎで独身で、このまま一生独りなのかしら」という、ある時期に入ったシングルなら 誰でもぶつかるこの恐怖感と孤独感を、とてもリアルに、でも、視聴者をズドーンと落ち込ませない、明るく軽い演出が施されている。独身女性には 本当に本気で、暗くなり勝ちなテーマだけど、「45歳」とか「おばさん」とか「昭和の匂いがする」とかいうセリフを、ためらいなく吐き出し、地をもさらけ出しているかのようなキョンキョンを観ていると、逆に気持ちがいい。ドラマには珍しく「笑い」が発生するのだ。共感している私にだけ 発生しているのかもしれないが。

「恋愛ドラマ」だけど、ドロドロした人間の負の部分が全く無く、非常に明るい。「別れる」「くっつく」「あの人が騙した」「浮気した」が見所ではなく、「色々だけど、今を大事に生きていくっきゃないよね」と、軽くポジティブに最後まで構成されている。

ということで、ハマッてしまった。
昔のトレンディードラマ流行の時代以来。
毎週毎週、放送日が待ちどおしくて たまらない状態になってしまったのよ。
ほぼ同時進行で 同じ週の番組がみられるインターネット動画サイト。日本の木曜日の夜に放送されて、次の日、つまりアメリカの木曜日の夕方には、最新のエピソードがダウンロードできる。

毎週、金曜日に 同じくハマッている友達からテキストが来る。
「ねえ、昨日観たー?」「今回もまたよかったねー」「はああ、来週がもう待ち遠しいよお。」
VHSDVDを借りていた頃から考えると、信じられない会話だ。

先週、ついに最終回を迎えてしまった。
友達と一緒に溜息をつく。「これから何を生きがいに 生活していけばいいの。」
一緒に青春を駆け抜けた昭和のアイドルが、一緒に年齢を重ねていく姿に安心したのか。そのカラカラとした、前向きな姿に勇気付けられたのか。このドラマを追っかけている数週間は楽しかったなあ。

はっ、ちょっと待って。本当にテレビを見ているように追っかけてたから、テレビを見ている気持ちにすっかりなってしまったけど、このサイトに戻れば、いつでも、何度でも、「再放送」できるんじゃない!
そういえば、こんなに大好きだと豪語しておきながら、最終回に なぜ「最後から二番目の恋」なのか、をキャッチできてきなかったわ。インターネット、近代文明様サマです!

Kiki


「最後から二番目の恋」




Posted on 夕焼け新聞 2012年4月号

Sunday, May 6, 2012

おいしい話 No. 60「時代は変わる!」


うちの地元の方言で「しぶちん」という言葉がある。財布の紐が固く、そう簡単にその紐をとかない倹約家を呼ぶ。お金に糸目をつけず、気前がいい人、の正反対。率直に言えばケチンボ。

正真正銘しぶちんの私は、一年以上も、スマートフォンに換えるべきか、悩み続けてきた。トレンドに敏感で新しいモノ好きな人々が、新商品や新モデルが発表されると、発売と同時に、躊躇なく購入するのを横目で見て、よくまあ そんなにすぐ飛びつけるもんだ、と思っていた。
確かに、わざわざコンピューターを立ち上げなくても、スマートフォンからSkypeを通して、日本の家族に簡単に電話がかけられる、というのは魅力的で、そこが 私の悩みどころなんだけど。でも、毎月の電話代が データ料金も入れて$70-80というのは、いくらなんでも高すぎないか。
そりゃ、今の私の携帯電話は、安っぽくておもちゃみたいだけど、ちゃんと電話もテキストメッセージもできる。プリペイドだから、倹約して使えば一ヶ月に$20もかからないんだから。と、世の風潮に流されないポーズをとったりもしていた。
しかし、先日、知り合いがユーズドのアイフォンをタダでくれる、自分の携帯電話ならプロバイダーと契約をしなくてもいい、そして会社の社員割引が利く、という条件が揃い、ついにスマートフォンを使用することになった。

人間が開発する技術って、すごいね。二昔前の、でっかい箱のような「携帯電話」を肩に担いでいた時代からは、手のひらサイズで、タッチスクリーンの携帯電話が登場するとは思ってもみなかった。私の想像の域を遥かに超えたテクノロジーの進化に、改めて感嘆している。特にそう強く思ったのが、Viberの存在を知り、そのアプリをダウンロードしてから。

Skypeが登場してから、国際電話はずっとSkypeを利用していた。随分安い料金で電話がかけられる。もちろん、かける相手がSkypeのアカウントを持っていれば、タダで話ができるけれども、問題は、お互いが「オンライン」状態でいなかればならない。そのタイミングを計るのが容易でない。ましてや、家にいてPCを開けなければならないとなると、尚更だ。
そこにくるとViberは、相手もViberをダウンロードしていれば、「オンライン」であるとか「オフライン」であるとか、関係ない。タダで、いつでも、どこでも、普通の携帯電話と同じように、電話をかけたり、テキストメッセージを送ることができる。
先日、大阪の友人に Viberからテストコールをかけてみた。
私「もしもし? 今どこ?」
友人「今ねえ、営業中。車で客先回ってるとこよ。あ、せっかくやから遠方の客から先に回るわ。その間アタシの運転中、しゃべれるやろ。」
それから20分、Viber上でおしゃべり。普通の電話とまったく変わりないクオリティー。お互い、「すごいね、これ」を連発。「何がどうワークしてるのか さっぱりわからんけど、とにかくすごい。」と興奮した。
大阪の友達が、ポートランド市内で 営業周りをしているような距離の短さを感じ、感動。またこれが全部タダ、ときているから よけいにすごい。気兼ねなく、電話をかける頻度も高められる。プリペイドコーリングカードの時代は 終わった。

さっそく地元のしぶちんどもにEmailを送った。「あんたたち、スマートフォン? だったら即、Viberをダウンロードして頂戴! ナニ、まだスマートフォンじゃない? 早く買いなさい!」

20年前には想像もつかなかった技術の進化。どんどん、日本とアメリカの距離感や、時差の感覚が無くなっていく。家族や友人が同じ町にいるような感覚がして、胸がキュウンとする。今は東京にいる ESL時代の友達が、「私の留学中にあったら どんなによかったかぁ。」と、Viberでテキストメッセージを送ってきた。横浜に住む元ルームメートも、「なんか、海を越えて離れてるって思えなーい!」と電話の向こうではしゃぐ。

時には、貧乏性の気を えいっ、やっ、と 振り払い、清水の舞台から飛び降りた気持ちになって、財布の紐も緩めてみるもんだね。(スマートフォンの月々の電話代のことを言っています。)「損」をした気持ちでなく、それに替わる、お金に変えられない、沢山の「得点」が得られることが あるもんだ、と悟った私です。

Kiki




Smart Phone application:
Viber


Posted on 夕焼け新聞 2012年3月号

Saturday, April 28, 2012

おいしい話 No. 59「My Luckについて」


Downtownの オフィス街には、平日のお昼時になると 長蛇の列ができるランチのお店がたくさんある。「PHO PDX」の看板がある小さいフードコートの中にあるVietnamese/Thaiのお店も、その例にもれず。
私は、ちょっと二日酔い気味の、「なんか汁物が食べたい」という日に、決まってここのPhoを目当てにやってくる。徒歩の距離で うどんもラーメンも見つからないこのオフィス街で、ここのPhoは私の荒れて乾いた胃の救世主なのだ。
長い列が短くなっているだろう12時半頃を見計らってお昼に入る。職場から2ブロックほどを小走りに走り 駆け込む。1分でも昼休み時間を無駄にしたくない。注文する窓口前には、3、4人が上部に掲げてあるメニューを仰ぎながら順番を待っている。34人待ちぐらいなら まだ我慢ができる。
窓口のお兄ちゃんに注文をし、お金を払い、番号札を貰う。お箸とナプキン、フリーのお水をくんで、テーブルがある二階に上がる。12時半過ぎだと、食事が終わって 席を立つ人達のテーブルが開くころなので、これも丁度いいのだ。5分ほどで 別のお兄ちゃんが Phoを運んできてくれる。あっさりとしたライスヌードルをズルズル、熱々のスープをぐびぐびっと頂く。はあ~~~、滲みる~~~。これこれ、二日酔いにはこれよぉ。

まあ 確かに、二日酔いの日中は こうやって平日でもPhoが食べられるからいいが、日本のように 飲んだ後の夜中の2時に 麺類を食べられないのが悲しいね、とふと思う。昔は、散々飲んだ後に、川原沿いある屋台のラーメン屋に寄るのが お決まりのコースだった。時にはうどんの時もあった。飲んだ後に、ハビーと同じく フライドチキンを食べる気には、絶対なれない。
夜中までやっているうどん屋やラーメン屋を、ここポートランドで見つけるのは無理にしても、こんなに大人気のPhoのサービスを、どこかでやっていてもいいじゃないか、と訴えたくなる。

このVietnamese/Thaiの店が、ある日 隣のテナントに移転した。
あまりの人気で、小さいフードコートの建物では収まりきらなくなり、「Luc Lac Vietnamese Kitchen」として、自分達だけのお店を開くことになったんだな、と思った。
規模は大きくなったが、それに比例して忙しさも倍増したようだ。前を通りかかった時、ガラス越しに、レジの前に並ぶ客の列と、To Go 待ちの客でパンパンになっている店内が見えた。
しかし、それに怯んでいるわけにはいかない。二日酔いの日は必ずやってくる。荒れて乾いた胃が Phoしか受け付けない日がやってくる。その日には、ここに駆け込むしかないのだ。

そして先日、いつもの時間差攻撃で、忙しさが少し収まったころに その新しドアを開けてみた。なんだか雰囲気が違う。ちょっとヒップな感じになっていないか。中央にはバーのような作りになっていて、その周りを囲むように テーブルが壁に沿って置かれている。そして奥にはオーブンキッチンがあり、馴染みの料理人がいた。いつもの従業員達も 急がしそうに立ち回っていた。
$6.50Phoをレジで注文し、お金を払い、番号札を握って、唯一空いていたカウンターの席に座る。そして すぐさま、新しく印刷されたメニューのチェックに入る。
「ハッピーアワー??!!」「ドラフトビアー、ワイン、カクテル??!!」
メニューに書いてある文字を見て、自分の目を疑った。まさか、そんなにアタシの二日酔いはヒドイのか。とっさにバーのような作りになっている場所に目をやった。すると本当にドラフトのレバーが設置され、上部にある棚には ハードリカーが並べられていた! 喜びと、興奮で、心拍数が上昇し、体が熱くなってきた。ハッピーアワーは4時から7時まで -「パーフェクトじゃない!!」スモールプレートは $2または$3 -「安い!!」
心拍数が更に上がる。My ladiesとの、アフター5の 待ち合わせにバッチリではないか。
そして、金曜日と土曜日の営業時間を見た時、息を呑んだ。椅子から貧血少女のように倒れそうになった。なんと この二日は 朝の4時まで営業しているのだ。バーで閉店間際まで飲んだ後に、ヌードルスープが食べられるのだ。 80’Sで踊りまくった後に、軽く空いた小腹を埋める場所ができたのだ。

その日より 私の頼まれてもいない宣伝活動が始まった。 コミッションのため、必ず自分の客を連れてくるツアーガイドのようでもある。ただ ひたすら自分がお金を落としているだけなのだが、$2―3の小皿と、Dinnerになっても$6.50と変わらないPhoには、ギルティーは感じない。私のLuc Lac熱は暫く続くとみている。


Kiki



Luc Lac
Vietnamese Kitchen
835 SW 2nd Ave.
Portland, OR 97204
503-222-0047


Posted on 夕焼け新聞 2012年2月号