Saturday, January 31, 2015

おいしい話 No. 83 「ピザから悟る」


最近全く外食をしていない。あんなに新しいレストランが出来ると、すぐに飛んで行って、トレンドの味を楽しんでいたのに。美味しくて おしゃれな店開拓のためなら お金に糸目もつけなかったのに。

ここ数カ月家に籠っている。あそこにこんな店が出来た、あんな店が出来た、という情報も入って来ない。ていうか、それをキャッチしようとしていたアンテナが折れている。興味が失せているので 折れっぱなしで放置。

実は私はそんなに贅沢できるほど お金に余裕があるわけではないんですね、という話もあるが、それでもギュッと目をつぶり、クレジットカードを握りしめて 飛び出して行こうとしないのは、流行りのお店の、流行りのスタイルに飽きた、から。

新鮮で、オーガニックで、地元の農家から直に仕入れた、という触れ込みの食材に飽きた。倉庫や、古い家や、鉄筋の建物を改装し、天井や厨房が吹き抜けて見えるデザインの内装に飽きた。少ないポーションにお高く留まった値段に飽きた。一杯10ドルのカクテルに、一皿15ドルのハンバーガーに飽きた。

クオリティは高いが、個性が無くなった。もうどこに行っても 同じ味。NWの、Portlandの、レストランに飽きた。

そう嘆く私は キッチンで 「Pizza a Go Go」のチラシを目を見つめている。真っ赤なコピー用紙に、ゴーゴーダンスを踊りそうな女の人の影がプリントされたそのチラシ。WE DELIVER」の大文字がヘッダーに付く。

それは、N Williams Ave.にあるピザ屋のメニュー。

「ハニー、今夜は何を配達してもらうー?」

ハビーにそのメニューを渡す。

The Triple Dipper Electric Cowboy Midnight Boogaloo

「このチェックマークは何?」

ボールペンで書き込まれた✔マークをハビーが指摘する。

「それは今までに 注文したピザよ。」もうすでに7種類のピザにチェックマークが付いている。

「この星が三つ付いているのは何?」

Gimme Some Love ☆☆☆

「それは 三ツ星級に美味しいと思ったピザよ。」

「じゃあ、この矢印が付いているのは?」

Groovin’

「それは今度注文しようね、って言ってたピザよ。」

「勝手に矢印を付けないでくれヨ。ボクが次に食べたいのは このピザなんだから!」と怒ったハビーが、青ペンで Mirror Ballを丸で囲む。

ここ2カ月、ご飯を作る気分が沸かないと、キッチンの引き出しからPizza a Go Goのメニューを取り出す、というパターンを繰り返す私。外食に興味が失せた、湯水のように金は溢れない、そして出不精がそれに覆い重なる。それで行き着いたのが ピザのデリバリー。

なぜピザなのか。それは、デリバリーの特典を改めて知ったから。今の時代、Pizza HutDomino Pizza以外の選択がある。ハンドメイドのクオリティーをデリバリーで味わえるのだ。

なぜPizza a Go Goなのか。それは うちが配達圏内だったから。そして初めて配達してもらったピザが感動的に美味しかったから。それゆえGimme Some Loveに三ツ星が付いている。

ピンポーンと鳴れば、ハビーが玄関まで出て行ってピザを受け取ってくれる。そして 優しいハビーは、支払いも次いでにしてくれる。ノーメイク、TシャツとトレーニングパンツでグータラしていてもOK。いや、そんな姿でも 配達のお兄ちゃんに応対できるのが デリバリーサービスの良さ。

いろんなレストランの味に飽きたと言っている私が、飽きもせず 一件のピザ屋のピザばかり食べている。次会は何を注文しようか楽しみでしょうがなく、13種類のピザに 徐々にチェックマークを付けながら 喜んでいる。DVDBlazersのゲームをTVで観ながら、好きなビールやワインを安く買ってきて、お家でピザを食べる。私は 冬眠期に入ったのか。

いや、Pizza a Go Goのピザは冬眠期の食事にとどまらない。13種類のピザを制覇した後は、「Make Your Own Pizza」で最高の組合わせを生み出してやろうと、ピザに対する意気込みは続く。なぜ? 赤いメニューのチラシを手に取り、観察する。よーく隅々まで目を通してみると、ちぃちゃーいフォントで こんな説明があった。

At PIZZA A GO GO we handcraft our quality ingredients daily, ここまではいい。 We use only 100% whole milk mozzarella, freshly prepared toppings, quality meats and local organic produce (when available) on our pizzas.

あれ、やっぱり結局これなのね。今日の今日まで気が付かなかったケド。こういう紹介文抜きでは 店のアピールにはならないのが、ポートランドか。

でもwhen availableて、ところが気に入った。肩に力が入っていない適当さ、気楽さがある。て、思って気が付いた。ああ、そうか! 私は 「この気楽さ」を ピザに求めているんだ。店側が主体でなく、私側が主体となって食べる事を楽しみたい、という気持ちから、Pizza a Go Goのデリバリーにハマっているのかもしれない。

Kiki


PIZZA A GO GO

3240 N Williams Ave.

Portland, OR 97227

www.pizza-agogo.com

503-335-0300



Posted on 夕焼け新聞 2014年3月号

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