Saturday, January 31, 2015

おいしい話 No. 91「パーソナル スタイリスト」

 パーソナル スタイリストとは お金持ちだけが持てる特権だと思っていた。世の中に、パーソナル スタイリストという仕事があるっていうのも不思議だけど、要はセラピストやカウンセラーと同じよね。物理的に購入する品はないが、そのサービスを受けて気分が良くなる、っていう。パーソナル スタイリストの場合は、プロを雇って、ショッピングをする。こんな贅沢な話はない。

そんなお金持ち体験が 庶民の私にもできるのか、と思ったのが、Nordstromの広告を見た時。

PERSONAL STYLIST FAST, FUN, AND FREE…” AND ZERO PRESSURE

FreeそしてZero pressure。  マジですか?

Nordstromといえば 老舗のデパート。扱っているブランドは高級品ばかりで、私なんか化粧品売り場止まり。洋服売り場まで行く事は ほとんどない。が、タダでハイソなマダム気分になれるなんて、そんな楽しい事はないではないか。

女友達2人から グル―プメッセージが入る。

What should we do for next holiday???

We should do something fun!

But what?  What could possibly be fun for us now??

いろんな事をやり尽した40過ぎの女達は 1日ぽっかり空いた休日をどう過ごしたらいいのかわからず、ほとんど恐怖におののいていた。

Ladies

例のパーソナル スタイリストのサイトを2人に転送する。

I suggest we should do this!

私達が選んだのは1時間のTrend Consultation。スタイリストが最新のトレンドと、まだ誰も目に止めてない新入荷品を紹介してくれる、というコース。

ずらずらとリストされてるスタイリストの中から、目をつぶってエイヤッと選んだKathyとアポを取る。

次の日、Kathyからメールが来た。私のサイズや好きなカラー、具体的にどういう物を探しているのか聞かせてくれ、と言う。私は自分がよく選ぶ色やデザインをあげ、探しているのは仕事にもアフター5にもいけるスタイルと言い、でも自分が普段選ばないスタイルにもチャレンジしたい、とリクエストし、予算はかなり低め、あんまり高いものは狙っていない、と念を押し、お金持ちじゃないのよ、期待しないでね、というところを強調した説明の返事をした。

これを元に、私の到着前にスタイリストが選んだ洋服を フィッティングルームに用意してくれている、というのがアイデア。

こんなEmailの説明で、会った事もない私に見合った洋服をKathyは事前に選べるのか。不思議だ。

当日、私達はワクワクしながら、Nordstromダウンタウン店の2階洋服売り場に出向いた。私のスタイリストKathyはちょっとぽっちゃりしたおばさんだった。Kathyは私をフィッティングルームに案内してくれ、彼女が用意した洋服を見せてくれた。

. .。」

やっぱ1回のメールの説明だけじゃ、無理よね。私の事知らないのに、「自分が普段選ばないスタイルも」って言われたって、わかるわけない。別の意味で、彼女が選んだ服は、本当に私が選ばないスタイルだったけど。

私達は一緒にフロアに出て、改めて目に留まる服をピックアップすることにした。あれ、結局自分で選んでない?

2人の友達も合流し、フィッティングルームはハンガーにかかった洋服で埋めつくされ、私達の貸切になった。ブラとパンツ一丁で 試着開始。

「これ、なんか違う」「ちょっと足が太くみえない?」「それセクシーじゃない!」「いいっ!

フィッテイングルームに設置された鏡張りのステージに代わる代わる立ち、ポーズを取り、お互いにコメントを投げ合う。スタイリストのアドバイスを聞くというよりも、好き勝手に自分の服探しに夢中になっていた。

No pressureだから、買う必要ないのよ。それはわかっている。ただ、それが仕掛けというか、10着も20着も試着すると、欲しい物が出て来るのよ、これが。ふと見ると友達はしゃがんで、購入候補をカーペットに並べている。「これでしょ、これでしょ、それから これでしょ。」「この足が細く見えるジーンズは絶対買いでしょ」、と言いながら札を見る。$200。「ギョッ。」

私はブラウス2点と、皮のジャケットを睨みつけながら唸っている。ジャケット1$300。行ってしまっていいのか。もう1人の友達は、1$150のハイヒールの色違いを、何度も履き替えている。マダムの賓や余裕など全く無し。スタイリスト達は、クライアント用のソファーに座り込んで じーっと私達の様子を伺っている。1時間のはずが、2時間経っていた。

「やばい、合計すると$500になる。」「アタシは$600よ。」「でもさ、日本にいたら、洋服に5万円なんか普通ジャン。」「だよねー。」

意味のない、気休めの円換算。Nordstromのフィッティングルームで、すっかりのぼせた私達の思考は 完全に脱線していた。

試着で体力を使い果たした私達は、ハッピーアワーのシャンパンでエネルギー補給。スタイリストのセンスがどれだけ生かされたかはともかく、気に入ったアイテムが見つかったのは事実。椅子に掛けた紙袋を満足気に見下ろす。「体験だけ」のつもりだったけど、やっぱり「Free」に動かされて「Free」で済む物は無い。後でクレジットカードの明細に凹む事は目に見えているが、ちょっといつもと違う気分で買い物が出来た事は、パーソナル スタイリスト体験=マル、としておこう。

 
Kiki

 
Nordstrom Personal Stylist




Posted on 夕焼け新聞 2014年11月号

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