男と女と、過去の恋人を引きずるのは どちらだろう。
そう思ったのは、ハビーと私がマイクの家に夕食に招かれたある夜。
医者で、ハンサム、大きな新築一軒家に車2台持ち。そしてシングルのマイク。今日マーケットに行ったら色のいいキングサーモンがあったからね、とハーブとシーズニングをまぶし寝かせてあった大きな切り身を 冷蔵庫から出してきた。マーケットのおやじは サッカイサーモンを頻りと勧めていたけど、僕の意見としては キングサーモンに勝るものはないど思うんだよね、と言う。
裏庭に準備していたバーベキューセットにサーモンを移し、グリルを始める。蓋をして キッチンに戻り、マッシュルームとキンワのソテーに取り掛かる。その間、スライスしたビーツはオーブンでローストされている。テーブルはプレイスマット、ナプキン、ナイフ、フォーク、と美しくセットされ、真ん中で白いキャンドルの炎が揺れている。
女性はイチコロになるよね。私がシングルならイチコロになる。いや、シングルでなくてもイチコロに近い状態。しかし、、、、。
ディナーの用意ができ、3人がテーブルに着き、ワインを注ぎ、フォークをサーモンに差し込む。
「メーガンは 何もかも焼き過ぎなくらいしっかり焼くのが好きだったんだよね。」
出た。4年前に別れた元カノの話。
香ばしい香りを放つ、ほっこりジューシーに焼き上がったサーモンを見下ろしながら、マイクがサーモンをグリルする度に、メーガンから焼き直し命令が上がり、何度もバーベキューセットに戻り、パサパサになるまで焼き続けたもんだ、という話を 私たちに聞かせる。それが彼女の好みだったんだ、と。
一度もお目にかかった事のないメーガン。強烈な思い出を残してマイクとの関係から去って行ったようだ。少なくともマイクからの話によると、そういう印象を受ける。
Le Pigeonに ある夜ディナーに行った。当時Le Pigeonは 最高の品質しか仕入れないために、ハンバーガー用の牛肉を2人分しか用意しない、という謳いがあった。彼らはその、一晩に2人前しかない ハンバーガーを注文した。高級フランス料理店の、厳選された品質の肉。きっと、軽く焼いた程度でテーブルに運ばれてきたであろう。その皿をメーガンは3度返し、徹底的に焼いてもらったそうだ。
このように、マイクと会う度に、様々なメーガンのエピソードが出て来る。どれも「Wow!」という話ばかり。なのに、マイクは 愛おしそうに、美しい思い出かのように、私達に語る。4年たった今でも。
「男と女と、過去の恋人や恋愛を引きずるのは どっちだと思う?」とテーブルを囲む男二人に 率直に質問を投げてみた。 「男だね。」 マイクが即答。「え、女じゃないの? シツコイよー、女は。絶対忘れないからね、過去の事。」 私を横目でチラリと見ながらハビー。 はぁ?
そこから男と女の恋愛の習性について話が展開していく。動物の本能として オスは種を出来る限り多く植え付け、可能な限り多くの子孫を残したいから、関わるメスとのオプションをオープンにしておきたい。だから関係を「完全に切る」ということはしない。「なんとな~く」な関係が続けられるならそのままにしておりきたい。そういうのが基本的にオスの体に備わっている。だから過去に別れた女とも「友達」と言いながら現在も連絡を取っている。反対にメスは、動物的本能として子供を産み、無事に育てていく守られた環境が必要だから、狩りにも行かずにふらふらしているオスや、いつ帰って来るのかわからないようなオスと いつまでもつるんでいるわけにはいかない。だからメスは、安定の無い関係は「切る」事が出来る。そして、食糧と心配のない生活を与えてくれるオスにスパッと乗り換えられる。過去の男は、自分の人生に何のベネフィットも無し、と切った男。連絡を取り続ける理由も無いし、暇も無い。
相当勝手で偏見の入った持論ではあるが、こっそり心の中で「やっぱりね」と思っていた。やっぱり男は弱いのよ。そして ナイーブでロマンチスト。とんでもない元カノでも、受け入れ続ける。女がやるように、「散々な目に遭わされたサイテイーなヤツ」として過去に埋めない。
マイクが焼いたキングサーモンは、油がのって、柔らかくて、パーフェクトだった。食糧の保障も、生活の保障もバッチリ。プラス見てくれもOK。沢山の女たちからチェックマークが入っているだろう。
ただ、ロマンチックなディナーのテーブルに、別れた女を同席させてはいけない。滅多に合わない私が「出た!」と思うほど 思い出話しを語り続けていると、いつまで経っても 独身のままだからね。
Kiki
Posted on 夕焼け新聞 2014年7月号
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