Saturday, January 31, 2015

おいしい話 No. 90「死ぬまでにやる事」


誕生日を数週間先に迎えたハビーが、突然スカイダイビングをやりたい、と言い始めた。先日呼ばれたパーティーで、ハビーの友達が スカイダイビング体験談を語っていたのが発端。彼のエキサイティングな話は、人々の興味を引き付けた。ハビーもその群がる輪の中で、目を光らせて話に聞き入っていた。「やりたい!」私に顔を向け、賛同を求める。

「ずーっとやりたいと思っていたんだ!」

うそ、今まで一言もそんな事言ってなかったじゃない。

その日から、ハビーは人に会う度に、スカイダイビングはもう何年越しの夢なんだと語り、一緒にやらないか、とけしかけていた。

皆薄笑いで、特別返答はしない。彼らは私に目を向け、君は一緒にやるのかい?と尋ねる。私も薄笑いを返し、ごまかしていた。

できるわけないでしょ、そんな事。考えた事もないわよ。変な知恵つけれられて困ったもんだわ、と思っていた。

「やりたい!」「やりたい!」「やりたい!」「一緒にやろう!」

欲しい物を得るまで 駄々をこねる子供状態で、ウルサイったらない。

誕生日まで1週間となった。やばい、スカイダイビングをするつもりはないが、他にプレゼントを用意してるわけでも無し、、、どうすんのよ、誕生日の日!?

そこでちょっとだけ、興味本位で オレゴンのスカイダイビング情報をサーチしてみた。一体おいくら万円するわけよ、スカイダイビングって。

出て来たのが、Molalla市にある「Skydive Oregon」。Tandemというプロのインストラクターと一緒に飛ぶスタイルで$190-200。高っ。

ウェブのページをスクロールダウンして行くと、First timerの女の子がTandemでチャレンジするビデオが出て来た。何気にプレイを押してみる。一緒に飛ぶインストラクターが 始終片手にカメラを持ち、この女の子の初ダイブを撮影した映像だった。

ビデオを観終わった時、「やるか?」と思った。

トシのせいだろうか、人生後半に差し掛かると、残りの人生をどう生きるか、なんて事を考え始める。自分はいつまでも生きているように思うけど、ちゃんと終わりは来る。そうなると「Once in a life time opportunity」が目の前に現れたなら「やる!」のポリシーで生きていかないと!

だからと言って、その命を短くするかもしれない危険な事に手を出すこたあないだろ、て話だけど、そうなったらそうなったで それも人生。急にポジティブになる私。

いろんな人達を引きづりこもうとしたが、当日、現地に現れたのはハビーと私の2人だけだった。「今日は生まれて一番最高な誕生日だ!」とはしゃぐハビー。私は酔い止め薬を飲み込む。

開けた平地に滑走路が敷かれ、スカイダイバー達を運ぶセスナが離着陸する。その向こう側に 先に飛び立ったダイバー達が、パラシュートを広げて 空からゆらゆらと降りて来るのが見える。あれだ、数分後には あれがアタシ達なんだ!

まずはグループに分かれて講習を受ける。ベテランインストラクターがさっそうと部屋に入って来て、カジュアルに椅子に座り、口頭で手順の説明をする。時々 木製の人形を使いながら。説明は10分ほどで終了。その後、次は体を使ったトレーニングかと思いきや、もうパラシュートを付けて実践に出る。あの10分の説明だけで!? 

個々にインストラクターがあてがわれ、ギアの装着に入る。瞬間的にインストラクター達の顔をスキャン。充分な経験がありそうなのは誰か。普段なら若いお兄ちゃんを好むところだが、この時ばかりは、どうぞ当たりませんように、と思った。私に指定されたインストラクターは 先に説明をしてくれたベテランインストラクターだった。よかった、私は無事に生還できる、、、!

セスナに乗り込み、13,000フィートまで上昇する。窓から外を覗いた時、「何てことをしてしまったんだ、、、」と、始めて本当の恐怖感が心臓を貫いた。 が、時すでに遅し。「後1分で飛ぶ準備に入る」「30秒前、ゴーグルを付けて」「10秒前、シートベルトを外したからね」。インストラクターがカウントダウンしていく。

セスナのドアが開かれ、前の席の人達から 次々と飛び降りて行く。まるで海に飛び込むように。ドボン、ドボン、ドボン。そしてハビーも。

最後部に座っていた私は、それを全て見ながらすっかりハイ状態。「Are you ready to jump!?」「 YES!

飛んだ。

1分間のFreefallは夢のようだった。腹這いの体制で空中に浮かび、ゆっくりと360度回りながら、オレゴンの地平を見渡す。信じられない、今空を飛んでるなんて!

インストラクターがパラシュートを開き、静かに地上に降りて行く。恐れていた激突もなく、スムーズな着地だった。

We did it!」「We did it!」

ハビーと私の興奮状態は1週間続いた。

そして一週間後、アドレナリンが引きはじめた今になってやっと、とっても恐ろしい事をしてしまったんだという実感が沸いてきている。

 

Kiki

 

Skydive Oregon

12150 Oregon 211, Molalla, OR 97038
(503) 829-3483

http://skydiveoregon.com/first-timers/


Posted on 夕焼け新聞 2014年10月号

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