Saturday, January 31, 2015

おいしい話 No. 85「懲りない私」


ファミリーレストランのメニューの写真て、良くできてるよね。あれ本当に美味しそうに撮れている、というか上手い具合に修正されている。そのイメージ写真は、「Portland Monthly」などの雑誌に載せるために撮られた写真とは全く違う。あのファミレスのメニューの「どうだー、ボリュームたっぷりで、うまそうだろー」という、全面に謳いかける写真には 違う技術が施されているように思う。

その技術は、ともすれば懐疑心をも引き出す。「んなわけないでしょ実際は」、と思わせる。思わせるんだけども、あまりにも堂々と紹介されているもんだから、もしかしたら本当にこれに似た料理が運ばれてくるのかもしれない、と愚かにも信頼してしまう。

マクドナルドで、メニューの絵に乗せられてチーズバーガーを買った私。テーブルに着き、箱を開けた時、背後から「バーカ」という声が聞こえてきたような気がした。そのバーガーは薄っぺらいバテと黄色いチーズと申し訳なさそうにちょろちょろっとレタスが乗っかているだけの貧相なものだった。「やられた。」

写真と違うじゃないかっ!っと怒ったところで、どうしようもない。コーポレートの罠に自ら足を踏み入れたのは私なのだから。

動画はどうだろう。テレビのコマーシャル。Olive GardenRed Lobster、めちゃめちゃそそられる。前にコマーシャル制作の舞台裏を見せる番組で、実際は 美味しく見せるために 特別な液や原料、染色剤など使っているというのを知った時、幻滅したものだけど、それでも、それと解っていても、「うまそー」、と見てしまう。

昔ルームメイトにOlive Garden行きたーい、とコマーシャルを見る度に言っていたら、私のバースデーパーティーをOlive Gardenで開いてくれた。集まって来た友達が皆、ちょっと当惑の様子。「なんで Olive Garden?」と半笑いで聞かれた。「だって行きたい、ってウルサイんだもの」と、ルームメイト。

でも私の「行きたーい」コールはこの日でシャット。コマーシャルで見た全く同じプレゼンテーションのパスタが登場したわけでもなく、味も、悪くはなかったが、私がテレビの画面に映るイメージによって掻き立てられ、創り上げられた味の域に達するものではなかった。

もう二度とコーポレートのカモにはならない、宣伝というマヤカシに騙されないぞ、と誓った。にもかかわらず、コマーシャルを見る度に、やっぱり同じ好奇心が沸いてくるのよね、Red Lobster。「ロブスター めちゃ美味しそう。」

これはもう、私の気持ちを収めるためにも 行かなきゃならないでしょ。

ある夜のディナー、ハビーを連れてRed Lobsterの門戸を叩いた。中はあのファミレス独特の賑やかな雰囲気がいっぱい。結構混んでいて、待合席に家族連れが群がっていた。そんなに人気があるのか。これは期待できるぞ。

席に案内され座るや否や、大盛りのCheese biscuitが運ばれてきた。チーズとガーリックバターの味が効いたbiscuitはホカホカと温かく、思いがけず美味しかった。気のいい感じのサーバーが水を運んできた時、レモンが欲しいかと聞いてきた。なんか余計な手間をも惜しまずサービスをする態度が、ファミレスらしくなく、好感度が上がる。

メニューを開くと例の写真が一面に。ファミレスと侮っていたが、結構な値段が付いている。ま、ロブスターだからね、そりゃ値段もするでしょ、と推測。ハビーと私はどうせなら、と、ロブスター、ズワイガニの足、エビのコンボのプレート「Ultimate Feast」をシェアすることにした。サイドにGarden SaladWild Rice Pilafを付けて注文。いよいよかぁ、と両手をすり合わせながら 座に腰を落ち着ける。「見て!」とテーブルに置いてある塩、コショウにハビーの注意を引く。「これ普通のシェイカーじゃなくて グラインダーだよ!」これはGood signだね、と二人でニンマリと頷く。

ここまでは よかった。いいテンションで、いいムードだった。しかし、待てど暮らせど、「Ultimate Feast」がなかなか運ばれてこない。お腹がいっぱいになっては元も子もないと、3個目のCheese biscuitを我慢し、サラダも半分残して待っていた。

やっと登場したプレートは、不思議なくらい写真に忠実だった。蟹やロブスターの赤い殻の色や、ガーリックバターの中に並ぶエビの形。ロブスターって、こんな食感だったけ。ズワイガニの殻ってこんなにヨレヨレと柔らかかったっけ。このバターソースは 本当のバターを溶かしたもの?

だんだんと口数が少なくなっていくハビーと私。

見かけを良くするためにいろんな手や技術が施された宣伝イメージ。そして その見かけに沿うよう作られた料理。イミテーション&フェイク疑惑が二人の心を横切る。「もう要らない。」ハビーがズワイガニの足を残し、皿を脇に寄せる。またしても、自らノコノコと出掛け、やられた私。もう二度と バカな消費者にはならないぞ、と心に誓った。もう二度と!

 
Kiki


Posted on 夕焼け新聞 2014年5月号

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